中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年09月17日
■「日本通」の唐家璇
唐家璇は「対日外交に影響力を持つ」とか「日本通」などと日本で紹介されてましたが、彼は現役を引退して久しいですし、中国の「日本通」とは、たんに日本語が話せて、日本での勤務経験があるだけの意味です。まあ、「日本通」認定も日本側が勝手にやったことではありますが。
SMAPについてはそこそこ情報を仕入れて勉強はしてきたようですが、「日本通」なら「ジャニーさんってガチなの?」とか聞いてくれるくらいのリップサービスはあってもいいはず。会見で、唐家璇は温家宝の手紙を代読したそうですが、あれだけ秋波を送っていた温家宝が出迎えてもおかしくないはず。その温家宝は大連の夏季ダボス会議(14日~16日)に出席中で、それどころではありません。
■温家宝の念願だったSMAP訪中
SMAP訪中自体は温家宝の意向だったかもしれません。2010年、上海万博のファンイベントが「混乱を避ける」という理由で中止に。同年秋のコンサートは尖閣沖中国漁船衝突事故の影響でやはり中止。2回も空振りに終わったSMAPですが、温家宝は日本訪問時に会見、訪中を要請するという念の入り方でした。
日中関係の悪化で中止となったわけですし、改善のカードとしてSMAPを使おうとする意図は分かります。もっとも10年前ならともかく、現在のSMAPの人気と影響力を高く評価しすぎなのではとも思うのですが、その力の入れようは買いたいところ。
■「九・一八」直前の開催は温家宝潰し!?
しかし、しかし。現実的には温家宝の意図は見事なまでに潰されてしまったと言えましょう。9月16日という日程がくせ者なのです。わずか2日後には「九・一八」、すなわち満州事変の起点となる柳条湖事件の記念日が待っています。
「九・一八」は、中国に数多くある「国恥記念日」の1つ。その直前にSMAP訪中で日中友好を演出しても、中国で盛り上がる訳がないのです。テレビでは現在、抗日ドラマを再放送中であります。再放送は毎年恒例のルーチンワークなので特定の意図はないと思いますが、SMAPコンサートをあえてこの日程にしたのは「潰す」意図を感じます。日程を調整させた奴がいるのです。
■「政治利用」は成功したのか?
せっかくの温家宝の「策」も、「九・一八」直前という日程をあてがわれたため、結局失敗に終わったと見るべきでしょう。日本メディアはさかんに「中国がSMAPを政治利用した」と報じていますが、その意味では「政治利用」は失敗しています。
ただし、「温家宝など対日外交改善派を潰すために利用された」という意味ならば、「政治利用」は成功したと見るべきでしょう。SMAPコンサート問題は、改めて中国共産党内部に争いあう2つの司令部があることを確認する事件となりました。
■外交辞令に踊らされすぎの日本メディア
さて、最後に日本メディアのちょっと残念な報道ぶりについて。今回の訪中を「国賓級」とか「日中改善の期待」などと、まるで中国共産党の機関紙のような報じっぷり。なにやらうすら寒いものを感じます。中央宣伝部のボス・李長春に取り込まれているかのような報道です。
例えば、「SMAPの北京公演成功を確信 唐氏がメンバー激励」(東京新聞、2011年9月15日)という記事を考えてみます。唐家璇の「成功を確信している」という表現は外交辞令であり、党内用語であります。党大会や全人代などの会議が毎回「勝利閉幕」で締めくくられるのと同じ程度の意味でしかありません。それをわざわざ見出しに引用してしまうセンスを疑ってしまうのです。センスというか、中央宣伝部から使えというお達しでも来ているのかもしれませんけどね。
あと素朴な疑問なんですが、日本のファンや一般人が報道を見て「うわあ、人民大会堂で写真撮ってる」「あ、前国務委員の唐家璇と会談してる」「SMAP大事にされてるわ」なんて思うんでしょうか、それで対中感情が改善するんでしょうか。ライブに行った中国人ならともかく、報道を見ている日本人には影響がないように思うのですが。
*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。