中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年09月20日
個人消費・民間投資の促進政策を矢継ぎ早に打ち出し、中国との交流を拡大させ、経済構造の転換を大胆に図ってきた。その甲斐あって、2010年は10%を上回る成長を達成し、日米欧経済が混迷を深める今年も5%近い成長率を維持する見通しだ。(太線強調はChinanews)
■急増するワーキングプア
台湾内政部発表の統計によると、今年第2四半期時点で貧困世帯数は11万4000戸、人口にして27万人に達した。いずれも過去最高を記録している。2001年比でほぼ倍増したことになる。また7月1日施行の社会救助法改定により貧困世帯認定基準が緩和され、13万3000戸に増加する見通しだ。新たに導入された中低所得者層認定を受ける世帯も18万3000戸にのぼると推定されている。
興味深いのは不動産も収入もない世帯の数はここ10年、約4000戸とほぼ増減がない点にある。働いているが最低生活費以下の収入しかない世帯がこの10年で、4万戸から8万戸へと倍増した。不安定な非正規雇用が急増したことを反映しているという。
内政部官僚が調査した結果、これらの貧困世帯では求職活動を続けても安定した仕事を見つけることができず、最終的に派遣労働やアルバイトの職しか見つけることができない。2010年の二桁成長も低所得者には恩恵を与えることがなかった。それどころか不動産価格の高騰により、家賃の支払いさえ一層困難になる状況が明らかになったという。
■そして、台湾総統選
中時電子報はワーキングプアの急増を「グローバリゼーションの影響」とさらりと流しているが、台湾の場合にはとりわけ中国本土の影響が大きい。台湾製造業の多くが本土に拠点を持つことで雇用が流出した。また同じ中華圏ということで、台湾人は労働コストが安く優秀な中国本土の人材との競争を強いられている。
馬英九総統は「統一問題は棚上げして、とりあえず中国本土との経済交流を強化しよう。中国本土の発展の分け前にあずかろう」と唱え、2008年の選挙に勝利した。独立論を封印した馬英九政権を中国共産党も歓迎。多くの「プレゼント」でもてなしている。
来年1月の総統選ではこの路線の是非が問われることになる。やはり、中国本土との関係が大きなテーマとなるが、たんに独立路線か否かだけではなく、中国本土との経済関係深化が台湾産業の空洞化、雇用の不安定化をもたらしたのではないかということも含めてのものとなるのだろう。
■付録:台湾の貧困世帯定義
まずは簡単に台湾の貧困世帯(社会救助法では「低収入戸」と呼称)の定義をご紹介したい。台湾内政部社会司ウェブサイト、中時電子報を参照した。
世帯収入、貯金、不動産の3項目すべてが基準値以下の世帯が貧困世帯として認定される。まずは収入だが、「各自治体の1人あたり消費支出の60%」(最低生活費)が基準となる。2011年の台北市の場合、世帯内の1人あたり平均所得1万4794台湾ドル(約3万8300円)が最低生活費だ。貯金、不動産の基準も自治体ごとに異なるが、2011年台北市基準で貯金は15万台湾ドル(約38万8000円)、不動産資産は550万台湾ドル(約1420万円)がラインだ。
貧困世帯の認定を受けると、「労働能力を持った成員がいるか」「いくらの収入を得ているか」との基準に従って、現金給付額が決まる。2011年台北市の場合、5813~14152台湾ドル(1万5000~3万6600円)となる。他に健康保険料が免除されるほか、学校費用の一部も支給される。
■付録:社会救助法改正
なお2011年7月1日より社会救助法が改正され、上記最低生活費の条件が従来の「各自治体の1人あたり消費支出の60%」から「可処分所得の中位数の60%」へと変更された。従来より最低生活費が上がり、貧困世帯認定の基準が緩和される。
また、「中低収入世帯」という新たなカテゴリーが導入された。最低生活費の1.5倍までが対象となる。2011年台北市の場合、世帯内の1人あたり平均所得が1万4794台湾ドル(約3万8300円、最低生活費)から2万2191元(約5万7400円)が対象者となる。現金給付はないが、「健康保険の50%免除」「高等職業学校以上の学校に在籍している場合、諸経費の30%を補助。25歳以下限定」という社会サービスが受けられる。
http://www.taiwan-panorama.com/jp/show_issue.php?id=201150005006j.txt&table=4&cur_page=1&distype=