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「天宮一号」と国民生活=国威発揚イベントの影で冷ややかな意見も―政治学で読む中国

2011年10月02日

■「天宮一号」と国民生活■

中国初の有人宇宙ステーション建設のための無人モジュール「天宮一号」が9月29日夜、酒泉衛星発射センターから打上げられました。この件に関する『環球網』の社説「社评:天宫一号带来的高兴和思考」(天宮一号がもたらした喜びと思考)が興味深い内容でした。

『環球網』の記事は、批判の対象として引用することが多いのですが、中には「これは」と思わせてくれる記事もあります。今回の社説はなかなかのものでした。見出しを見た時には「中国の科学技術は新しい段階を迎えた、これから中国は益々発展していく云々」といったいつもの提灯記事かと思ったのですが、全然違う内容だったのです。

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人民網の報道。


この記事が言わんとしているのは、かなり謙虚で、確かに今回の打ち上げの成功で、1つのことを成し遂げたと言えるが、だからといって、今すぐ中国にいる困っている人を救う(あらゆる社会問題を解決する)ということはできないので、これから問題解決に向けて頑張っていかなくてならないということです。

*当記事はブログ「政治学に関係するものらしきも」の許可を得て転載したものです。


事例として挙げられているのが、上海の地下鉄事故渤海の原油流出事故郭美美事件で、反省を促しています。また、中国の素晴らしい未来のためには、一流の国防、一流のハイテクが必要だが、同時に、農民工の子弟も皆平等に入学できること、豚肉の値段が高騰しないための「技術」なども同じぐらい大事だとも指摘しています。

おおまかにその主張は次のようにまとめることができます。

こうした民政に関わる問題は一筋縄では解決しない。一つ片付いたと思ったら新たな問題が出現するものだ。しかし、さまざまな困難を乗り越えて天宮一号の打ち上げが成功したことが示したように、中国には問題を解決する能力がある。だから、さまざまな社会問題を中国は努力して克服していかなくてはならない。

提灯記事だと予想していた私としては驚くと同時に、中々うまいことを書くと感嘆しました。

記事にはまだ続きがあります。『環球網』では、この社説を引用して「天宮一号の打ち上げ成功は、宇宙ステーションという新たなステージへと中国を進めた。天宮一号は国家に対する誇りを強めましたか?」というアンケートを実施しています。

10日1日8時半現在で「はい」が68%、「いいえ」が32%です。思ったより「いいえ」が多いという感想を持ちました。こうした国威発揚イベントがあると、「中国すごい」報道一色になるのが常ですから。

中国で暮らしている人にとってみれば生活が一番大事です。その観点からは国の一大イベントにもドライになるでしょうし、プロパガンダ記事にもうんざりしていることでしょう。「いいえ」欄に投稿されたコメントを見ると「金の無駄遣いだ」「誇りでメシが食えるか」「誇りが何の役にたつのか」「物価がさがらず、自分のことに精一杯で、国家の大事に関心を払うことができない」といった意見が散見されます。

国を見る時、どうしても大きな視点になりがちですが、各国国民の一番の関心事は自分たちの生活です。そのことを改めて気づかせてくれるアンケートでした。

*当記事はブログ「政治学に関係するものらしきも」の許可を得て転載したものです。


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