中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年10月03日
・インフレをにらんだ政府の金融引き締め
・不動産価格高騰対策による地価下落の懸念、不動産デベロッパーの資金繰り
・リーマンショック後の財政出動が一段落
・鉄道事故に代表される急成長の弊害、環境汚染に抗議する民衆暴動などに配慮しての公共投資減速
・地方融資プラットフォームの膨大な債務
・世界経済の低迷による輸出不振
・中小企業の資金繰り
・HSBC発表のPMI(購買担当者景気指数)が3カ月連続で景気悪化の指標50を下回る
■温州商人の勃興
温州では、9月だけで有名企業社長を含む経営者26人が夜逃げし、今年通年では80人以上が夜逃げしたという。経営者の自殺も3件にのぼったという(新華社)。
温州の現状を簡単にまとめてみよう。作家の莫邦富氏が記事「中秋の節句を前に起きた夜逃げ現象に 温州モデルの限界を見る」(ダイヤモンドオンライン、2011年9月22日)で紹介しているが、温州はもともと改革開放後に製造業の発展で急成長をとげた街だ。
耕地の少ない街から温州人は次々と外に出て、海外での出稼ぎで資本を蓄積、地元に製造業工場を建設し、温州人ネットワークを通じて販売するというモデルを打ち立てた。さらに製造業で稼いだ金を投資に振り向け、さらに資本を増やしていった。温州人が大挙訪れ、不動産を大量購入する「マンション購入ツアー団」も一世を風靡した。
温州人は事業資金の融通でも独特のシステムを備えていた。フリージャーナリスト・福島香織さんの記事「“優しい闇金”が崩壊する やり場のない怒りと不満がはらむ怖さ」(日経ビジネス、2011年9月28日)が詳しく伝えているが、金利は年利60~70%と銀行基準金利の10倍以上という法定基準を超えた「闇金融」が横行している。
だが、温州の「闇金」は闇金ウシジマくん的な恐ろしい存在ではない。金の貸し借りで恩を売る、人的関係を築くことを目的とした相互扶助的システムであり、人間関係を軸に資金を融通し合い、あるいは保証人となって支え合っていた。それだけに1人倒れると、後は連鎖的にばたばたとダメージが広がっていくのだ。
■中小企業に金を貸してくれるのは闇金だけ
そもそも銀行がお金を貸してくれれば闇金に手を出す必要はないのだが、中国ではリーマンショック後の金融大緩和時期にあっても、中小企業への銀行融資は滞っていたという。「中小企業なんてどこの国でもそんなもの」「いつ潰れるかわからない中小企業にはなるべくなら貸したくない」という他国と共通の要因はあるが、それ以上に大きいのは「他に儲かる話があるから」という理由であろう。
外需が弱り中国企業の過剰競争が続く中、温州を含め中国製造業は極限の薄利を強いられるチキンレースを続けている。その一方で不動産、株、黄金、原油……と投機商品には事欠かない。また、資金繰りに苦しむ高金利でも借りてくれる中小企業が存在するのだから、通常の銀行利率で貸すよりも闇金を通じて暴利をむさぼったほうがおいしいという構造だ。
改革開放から30年、中国経済の成長、雇用の確保に中小企業は大きく貢献してきたが、しかし国の制度は追いついていない。中小企業を救うために基準金利を下げるべきとの声に、中国人民銀行の周小川総裁は「金利下げても中小企業に金は回らない。中小企業融資のための制度作りをしなければ」と発言しているが、中国にはそうした中小企業支援のシステムが欠如しているのだ。
また、公的機関からの貸借制度作りも容易ではない。安い金利でタネ銭を仕入れたら、それを工場経営に回すよりも、投機にぶち込んだほうがお得だからだ。例えば、公的機関からの補助金制度といえば、「ハイテク企業補助金」などもあるが、まじめに研究開発するよりももらった金を不動産にぶちこむほうがよっぽどおいしい。
■闇金の資金源
最後に闇金の資金源について。福島さんの記事では「中国人民銀行温州市センター支店が7月に発表した「温州民間金融市場報告」によると、同市の民間金融市場規模は1100億元で、市内の89%の家庭・個人および59%の企業が民間金融に参与しているという」と紹介している。
「一般人、一般企業が闇金のスポンサー」という現象はもちろん温州だけのものではない。先日、中国四大銀行から9月だけで4200億元(約5兆400億円)の預金が流出したことが報じられた(国際経済時報)。銀行預金の流出は通常、株式市場好調時に出現するものだが、現在は株も低調。流出した預金は財テクや芸術品投資、さらに闇金市場に流れ込んだとアナリストは分析している。
「銀行は安い利子でおいらたちの金を預かって、高利貸や投機でぼろもうけしている。だったら、直接投機市場に乗り込んで、おいしい汁を吸うぜ」という、民草の意思表示と見てよさそうな動きである。政府が把握できず、もちろん保護もできない闇経済に一般市民が乗り込んでいく現状は、中国経済に不安を感じさせるものとなっている。