■山田悠介がいつの間にか中国進出していた件■よく本を書いに行く中関村図書ビルの「ミステリ・ホラー」コーナーを漁っていたら見知った作家の小説を発見した。
『リアル鬼ごっこ』の作者・
山田悠介が放った第4作目のホラー小説
『あそこの席』が中国語になっていたのだ。
翻訳出版されている日本の小説を見つけた時、私が最初に気にかけるのは翻訳の精度ではない。作家や訳者による「中国語版の前書き・後書き」があるかどうかだ。
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本を手に取り開いてみると、ちょっと予想外だったが、山田悠介本人が中国人読者へ向けた前書きが載っていた。「前書き」には読者へ向けた挨拶と、今年は作家生活10年目となる節目だから云々、そして今後の意気込みなどが(中国語で)つづられていた。
*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。
正直言って至極平凡な内容だったが、「中国人読者のみなさん、こんにちは」なんて挨拶から始まる「前書き」に、作家・山田悠介の人柄がうかがえる。以前、
ブログでひねりのない山田悠介批判を書いたことがあるが、私は山田悠介が書いた小説はどれも「読んだ上で嫌い」という評価を下している。その評価はそのまま作家・山田悠介本人の人物像につながっていたのだが、最近になって彼に対する印象が好転している。
2001年にデビューしてから10年、ネットでは底の浅さと文章力の稚拙さを責め立てられ、老若男女から馬鹿にされてきた小説家が山田悠介だ。「山田語」とまで形容されたその特異な日本語や明らかな文法の誤りを訂正すれば、「個性がなくなった」とさらに罵倒された稀有な存在である。
(山田語については、アンサイクロペディアの項目「山田悠介」をどうぞ)
■プロフェッショナルとしての誠実さ
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しかし山田悠介はそんな批評に言い訳するでもなく、自分の読者のためだけに小説を書き続けた。作品が映画化されれば、欠かさず発表会にも顔を出す。その誠実さには、ある種の「プロフェッショナル」な一本気の精神が感じ取れる。
だから、山田悠介が中国の読者に向けて特別に「前書き」を寄せたのも不思議なことではない。現在中国では『
あそこの席』の他に、デビュー作『
リアル鬼ごっこ』と『
8.1』の計3冊が翻訳出版されているようだ(海賊版らしい本はカウントしていない)。
京東商城:『逃亡遊戯(リアル鬼ごっこ)』
『禁止入座(あそこの席)』『8・1』(『あそこの席』『8・1』共通の中国版前書きが掲載されている)豆瓣:山田悠介の書籍検索結果■中国語版で「山田語」は味わえるのか
豆瓣などのコメントを見ても、文体の奇妙さに触れている人は誰もいないので、あの妙味は翻訳の過程で基本的に消されてしまったのだろう。中国人読者が「頭痛が痛くなる」ような「山田語」を味わえないのは実に残念なことである。
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もっとも「山田語」の影響が訳書から完全に排除されてはいないようだ。SNS・
豆瓣には、『逃亡遊戯(リアル鬼ごっこ)』に対して、「まるで中学生の作文、小学生が翻訳したみたいだ」というコメントが投稿されているが、訳者に非は全くないと反論したい。
*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。