中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年10月12日
■「共産党が紅歌を歌わないなら何色を歌えというのか」
ここまでは今までとりあげた話ですが、今回の記事ではこの後の話をしようかと。薄熙来は最近、「共同富裕」なる概念を盛んに宣伝するようになりました。
薄熙来「共同富裕の問題解決は待てない、遅らせられない」(重慶日報、2011年9月18日)
黄奇帆重慶市長「共同富裕は平均主義ではない」(中国新聞網、2011年9月18日)
薄熙来の発言を読んでいると、マルクス、毛沢東、鄧小平理論、3つの代表、七一講話を上手く自分の良いように引用しているなあと感じます。
特に中国の特色ある社会主義の堅持を再確認した、胡錦濤の七一講話を盾に、「一部の人は西側の高層ビルを見てうらやましがるが、一を知って二を知らない。内部にある複雑な社会問題がわからないのだ」と批判。
ただ、「縮差共富」(格差を是正し、共に豊かになる)の具体的な指針は示されていません。また、以前から批判されている紅歌活動についても、「共産党が紅歌を歌わないなら何色を歌えというのか。黄色、灰色、まさか黒か」と子供の屁理屈レベル。
黄奇帆は2010年に0.438だったジニ係数を5~6年以内に0.35程度に下げたいと大胆予定を披露。ただ、どうするかについての説明は無く、「平均主義をやるわけではない。それは出口が無い」と説明するに留まり、言葉だけが先走りしています。
(ジニ係数:主に社会における所得分配の不平等さを測る指標。係数の範囲は0から1で、係数の値が0に近いほど格差が少ない状態で、1に近いほど格差が大きい状態であることを意味する。wiki)
■腹いっぱい食わせてやるからオレ(社会主義)について来い
重慶市が以前から進めている重慶モデルと呼ばれる政策については、kaikaji先生の説明にもあるとおりで、決して紅歌だけの男ではありません。
格差問題を放置できないという危機感は発言から感じられるのですが、「マルクスが予見したとおり、資本主義は両極化が進んで社会問題を引き起こし、素晴らしい政治家でも打つ手が無い」「我々が歩んでいるのは西側の道ではない」から、腹いっぱい食わせてやるからオレ(社会主義)について来い的な思考が見え隠れします。
一見良さそうな彼の政策を素直に評価できないのは、「毛沢東路線が党を救う唯一の方法」とか言ってしまえるあたりで、本気にしても方便にしても危うさを感じてしまいます。紅色活動や革命関連の施設建設に予算を突っ込みすぎて批判を受けて、一部撤回するなど庶民に本当にウケがいいのか疑問なのです。それだけの予算を投じている重慶市が、本当に共同富裕など出来るのだろうかという思いもあります。
■対極の政策を掲げる汪洋
対する汪洋はそうした匂いがしませんから、薄熙来よりは安心感を覚えます。彼の政策はパイ論争でも分かるとおり新しいパイを作り続けるというもので、経済発展に主眼が置かれます。社会主義路線を殊更に強調する薄熙来とはまさに対極の存在です。
汪洋「政治運動的なやり方で民生問題は解決出来ない」(広州日報、2011年10月10日)
辛亥革命記念式典当日。民生問題の検討会で、汪洋が講話。「正確に国情と省の状況を認識し、歴史に基いて人民の根本的利益に対して責任ある態度で無ければならない。政治運動的なやり方では民生問題は解決出来ない」と、再度文革を肯定し、政治動員めいた派手なイベントを繰り返す薄熙来を牽制。
原文は「政治運動」ではなく「運動」なのですが、中国語で「運動」といえば政治運動を指しますし、政治運動といえば文革なのです。これだけならいつもの文通なのですが、どうも汪洋の風向きが悪い。
■大物たちが重慶政策を支持
薄熙来、鄧小平の弟に返信(重慶日報、2011年10月5日)
胡錦星「重慶は党が全身全霊で人民に服務する道を掴んだ」(新華網、2011年10月6日)
胡錦星、重慶の指し示す方向を評価(華竜網、2011年10月9日)
民生の堅持、共同富裕への堅持(重慶日報、2011年10年10日)
鄧小平の弟にして80年代に重慶市の副市長を務めた鄧懇、胡錦濤のいとこである胡錦星ら大物の家族が重慶の政策を賞賛したとの報道が相次いでいます。
彼ら自身が強大な政治的権力を持っているわけではありません。しかし、特殊な身分にある人間が賞賛したこと、そしてその事実が報じられたことは大きな意味を持ちます。薄熙来の優勢は更にはっきりとしてきたのではないでしょうか。やっぱり太子党という既得権益層になびく方が楽なんでしょうか。
*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。