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2011年10月12日
■襲撃犯はワ州連合軍か?
最も注目を集めてポイントは船を襲った武装勢力の正体であろう。ディーゼル油を運んでいた(とされる)中国輸送船だが、タイ軍が奪回した時には大量の覚醒剤が積まれていた。麻薬密輸組織が輸送用に船を奪ったのではないか、と推測されている。
そして、襲撃した麻薬密輸組織として名前が上がっているのがワ州連合軍だ。ワ州といえば、高野秀行さんの名著『アヘン王国潜入記』が詳しく取り上げているほか、本サイトにも寄稿している作家・安田峰俊さんの近刊『独裁者の教養』にも密航記が掲載されている「現代の秘境」である。
ワ州連合軍はミャンマー・シャン州の一部に割拠し、ほぼ独立状態にある。以前は麻薬栽培を収入源としており、ゴールデントライアングルの主要な担い手であった。現在では麻薬栽培からの転換が進んでいるとも伝えられるが、その内情については謎が多い。
こうした中、なんとそのワ州連合軍報道官だという李祖烈氏が中国のテレビ番組に電話出演し潔白を訴えるという驚きの展開があった。曰く、目撃者の情報によると、タイ軍が中国船舶を発見。乗り込んだところ、船員5人と1人の遺体を発見した。その後、なぜかタイ軍が船員5人を射殺、その遺体を川に投げ込んだという(新浪ビデオ)。
いったいどういうシチュエーションなのかまったくわからない説明だが、ともあれ李氏は襲撃はワ州の犯行ではないと表明。中国であれ、タイであれ、ワ州に疑念を抱くのならば調査を受け入れると表明した。もっとも半ば独立状態にあるとはいえ、ミャンマー政府を飛び越えて調査団を送ることはできそうにないが。
■タイ軍はNar Khamグループの犯行と断定
一方、10日付バンコクポストによると、タイ軍は襲撃版はミャンマーの麻薬密売組織、Nar Khamを主犯とするグループだと断定しているという(東方網)。Nar Khamは麻薬王クン・サの元配下。クン・サ投降後に同じくミャンマー政府からHawngleuk民兵団リーダーという合法的身分を手に入れたが、その後も麻薬密売、河賊、誘拐と好き放題に悪事を働いていた。
転機となったのは2008年、中国巡視船を襲撃したことだった。中国政府はミャンマー、ラオスの警備隊とともにNar Khamを追い、そのグループに大きな打撃を与えた。一説にはNar Khamはその時に死亡したとも伝えられていたが、今年に入り復活。今年2月からメコン川で河賊行為を繰り返しているほか、今年3月にはワ州リーダーの親族を誘拐、身代金をせしめた。4月にはゴールデントライアングルの中国人13人の誘拐にも成功しているという。
今回の一件も果たしてNar Khamの仕業なのか。もしタイ軍の情報が事実だとすれば、再びメコン川で中国と河賊の戦いが繰り広げられることになりそうだ。