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誰も助けてくれなかったひき逃げ事件被害の少女が死亡=中国人の道徳崩壊が話題に―広東省

2011年10月21日

2011年10月21日午前0時32分(中国時間)、悦悦ちゃんが病院で息を引き取った。

この2歳の少女は13日、広東省仏山市の路地で車にひかれた。運転手はそのまま逃走。逃げる時に後輪でもう一度、悦悦ちゃんを引いている。それから7分間に18人もの通行人が通り過ぎたが、誰一人として彼女を助けようとしなかった。それどころか、後からやってきた別の車が彼女をもう一度ひいて、そして走り去った。

この一部始終を納めた防犯ビデオが公開され、中国中の話題となった。なぜ中国人の道徳は崩壊したのか、なぜ人の心は凍り付いてしまったのか、なぜ中国の社会は助け合いの精神を失ってしまったのか、嘆き、反省する人が少なくない(問題の動画、Youtube閲覧注意!

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*画像は南都網の報道


■道徳と法律の間で

なぜ18人もの通行人が苦しむ幼子を助けようとしなかったのか。まさしく人間性、「道徳」の問題であるとする主張と法制度の問題ではないかという2つの主張がぶつかっている。

まず「人間性」を問う話を取り上げよう。

長屋住まいからマンション住まいにかわり、また飢えることはなくなるなど豊かになったが、その代償として私たち中国人はなにか大事なものを失ってきたのではないか……。

という、ありふれた、きわめて情緒的な話であるが、人々の「実感」に沿うストーリーでもある。汚職官僚の問題、拝金主義の台頭、子どもたちの不良行為……たいがいの問題はこのストーリーで説明できる。日本でも同じような話をする人はいくらでもいそうだが、無数の社会問題が生じ、ニュースとなっている中国では、その「実感」も格別に強烈であろう。

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*画像は南都網の報道


■法律の不備

「倒れている人がいても、助け起こすのは危険!訴えられるかもしれない」とは、中国でよく言われる話。私も実際に言われたことがある。そのきっかけとなったのが、2006年の彭宇事件だ。

バス停で転んだお婆さんを助け起こし、病院まで連れて行ってあげた好青年・彭宇くん。ところがお婆さんは彭宇くんが突き飛ばしたと主張。裁判の末、「優しく助けてあげたのはやましいところがあったからじゃね?」と彭宇くんに約4万6000元(約55万円)を支払うよう命じる一審判決が下った。


というとんでもない事件だが、その後も同様の訴訟が何件も起きている。また転んだ老人が誰にも助けてもらえずに死亡した、その事件を聞いて不安に思った老人が外出時に「私は助けてくれた人を訴えません」と書いたカードを身につけるようになったというニュースもあった。

「災難に遭ったり急病になったりした人など(窮地の人)を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない」ことを法的に定めた「善きサマリア人の法」(Wikipedia)を制定するべきではないか、あるいは「困っている人を見捨てた場合に罰則を下す法律を作るべきではないか」という意見もある。

実際に広州市「見義勇為」基金会の劉継生理事長は、見義勇為表彰者(正義の行動表彰者)に対する賞金及び、医療、就職、住宅、子弟の教育への援助を強化する方針を示している(財経網)。あるいは就職難に悩む若者が、争って困った人を助けようと街を徘徊する事態になるかもしれない。


■中国人のモラルは低下しているのか?

「モラルは低下しているのか?」「道徳は崩壊したのか?」という設問はきわめて答えづらい。そもそもモラルとはなにか、モラルはどうやって測ることができるのか、国民全体のモラル平均値は存在するのかなどなど、わからないことだらけだ。

そも、わずか3年前の四川大地震の際には、わがまま世代と言われていた「80後」「90後」(1980年代生まれ、1990年代生まれ)のボランティア、募金活動が話題となり、中国人のモラルを示したと絶賛されていた。実際に中国人と接した印象でも、教育水準が上がっただけあって、礼儀を知っている人も公益心のある人も増えているような印象を受ける。

だから、個人的には「中国人の道徳云々」という主張よりも、法律の問題、教育のカバー率の問題、あるいは貧困の問題などが大きいのではないだろうか。

悦悦ちゃんのような残酷な事件は、中国では毎年何件も起きている。今回は防犯カメラの映像というショッキングな「素材」があったことが注目を集める要因になった。おそらく、このまま道徳の崩壊をひとしきり嘆いてすっきりした後、みなが忘れてそれでおしまいとなってしまうのだろうが、先に述べたような社会経済的な問題が一歩前進するきっかけになって欲しいと切に願う。



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トラックバック一覧

  1. 1. 小悦悦事件は対岸の些事か。

    • [やうちさん、ニュースだよ!]
    • 2011年11月01日 01:14
    • 前回、ちょっとした息抜き程度で取り上げた「まだ浮かばずや高遠は。」に予想外のアク...

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