中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年10月21日
「300バーツ(約741円)が出ればうれしいけど、私たちは会社が出す給料をもらうしかないわ。組合はあるけどバーゲニング・パワー(交渉能力)がないわ。食費や交通費を含めて300バーツでもいいと思うけれど……。」
場所によっては、労働者自ら低い賃金でいいと申し出るので、賃金の真実は闇の中のようである。きちんと把握されている職場でも、食費、住宅手当、交通費も入れて最低賃金とされているところもある。
■少なく、弱すぎる労働組合
タイにおける労働組合の力は強くないが、組織率もまた低い。タイの労働組合連合によると、全国には40万社が登記されているが、労働組合の数は1300ほどであるという。
組合を持つ労働者にしても、もし役所や組合が300バーツ(約741円)を適用するよう経営者に圧力をかけたら(そういうケースはほとんどないが)、彼らはレイオフ(解雇)されることを一番恐れている。
タイには、組合の結成を許す1975年に定められた「労働関係法」はあるが、世界150カ国が批准している「ILO」(国際労働機関)の87号(結社の自由と団結権の保護)と98号(団体交渉権の保護)をタイは批准していない。
というわけで、労働力不足が言われる中で、タイでは労働力市場は「買い手市場」のままだ。外国人労働力300万人の流入が、それを保っているのかもしれない。
■インフレ高騰、雇用機会の減少=懸念される副作用
日給300バーツ(約741円)の水準は、例え物価の安いタイでも最低必要なレベルだろう。暮らしていてそう感じる。
しかし、1年で40%という急激な引き上げは、あまりにも副作用が多すぎる。
賃金上昇によるインフレ高騰も心配だが、最低賃金67~89%の大幅引き上げにより、ここ北タイのような地方の雇用機会がいっそう抑えられ、外国人労働者ばかりが増えるといった雇用のひずみが出ることが懸念されている。
しかし、そこは自由の国タイランド、無理なく、落ち着くべきところに落ち着くことになるのだろうか?
前回記事:
バンコクに洪水が迫る中、最低賃金引き上げ政策の最終案が決定―タイ(ucci-h)(2011年10月20日)
関連記事:
「賃金引き上げでクビ切り」「洪水被害深刻、200万人避難」「ヒト型オービス『チューイ軍曹』」―タイ・ニュース(2011年10月5日)
関連リンク:
タイ新政権の政策の特徴と課題(日本総研、2011年10月3日)
*当記事はブログ「チェンマイUpdate」の許可を得て転載したものです。