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【タイ大洪水】稲作被害が国際コメ価格に与える甚大な影響(ucci-h)

2011年10月23日

■タイの稲作水害被害と国際コメ価格のゆくえ■

タイの半世紀ぶりの洪水で工業団地が被害を受けているだけでなく、主要産品の稲が冠水している。2011年10月19日には、イサーン(東北部)の玄関口コラートのムーン川が溢れ、コラートでも水田が冠水し始めたと報じられている。


■来年のタイのコメ生産量は3割減


最初の減産見通しは7百万トンと見られるが、8~9百万トンに広がるかもしれない。タイの今年のコメの年産見通しは2500万トンだから、3割から3分の一の減産になるかもしれない。


indica and japonica rice / atem_y_zeit

*左:東南アジアで主に栽培されるインディカ米。右:日本で栽培されているジャポニカ米。


■米価の上昇は他輸出国の好機!?

このコメの供給減は、基本、米価格の上昇に寄与するだろう。10月7日からひっそりと始まったタイの「コメ抵当システム」においても、コメを高値で買い取る政府としては高価格が好都合なのだから、水害はもちろん歓迎できないが、米価の上昇傾向の助けにはなるはずだ。
(関連記事:「「10月中旬にもバンコク浸水!?」「穴だらけの米抵当計画」―タイ・ニュース」2011年10月9日)

ところが、コメの国際需給、国際価格というと、上昇一方かというと、そう単純でもなさそうだ。もちろん世界最大のコメ輸出国タイの水害は、国際受給をタイトにし、米価の上昇圧力になる。しかし、最大輸出国の価格上昇となれば、他のコメ生産国にとってまたとない増産、輸出振興の機会を提供することになる。


■インドの輸出解禁


現在のワイルドカードがインドだ。インドは、中国に次ぐ世界2位のコメ生産国(昨年9700万トン。両国で世界のコメ生産4.6億トンの5割を占める)で、 90年代にコメの自給をはたしたが、2007年末より国内の物価上昇を抑えるため、先月まで4年近く輸出を制限してきた。

これが、9月8日より当初200万トンだった通常米の輸出が解禁となった。来年4月以降、年400万トンを輸出する見込みだ。世界第3位のコメ輸出国インドは輸出制約時のコメ在庫が2200万トンも残っている。これが放出されると、大きな供給増要因になるだろう。

*当記事はブログ「チェンマイUpdate」の許可を得て転載したものです。


価格がタイ米よりトン当たり100~140ドル(約7610~1万700円)安いインド米は、ことにアフリカ市場への輸出においてタイのライバルになる。タイからの昨年のコメ輸出の49%がアフリカ向けだった。輸出増のためには、インドの埠頭、倉庫などの整備が急がれるが、タイとしても輸出動向に安閑としてはいられなくなろう。


■国の開放体制が呼ぶ増産


今後はかつての最大のコメ輸出国ビルマも、改革開放により農地の国家所有が解けて、コメの増産、輸出増体制に入れそうだ。かつて200万トンもの輸出を行っていた同国も、今現在は100万トン弱に留まっていた。
(関連記事:「コメ輸出世界一を奪い返せ!タイ米高騰、輸出税撤廃により好機到来―ミャンマー(ucci-h)」2011年10月12日)

国の開放体制がコメの増産を呼んだ例としては、ベトナムがある。86年には1600万トンだったベトナムのコメ生産は2010年には2500万トンへと、900万トンもの増産を果たしている。


■決して高くないコメの国際流通比率

その他、ブラジルやカンボジア、ウルグアイ、パキスタンなども増産の余地が大きいと言われる。一方で、コメは世界30億人の主食だが、実はその伸びは高くない。年間の需要伸び率は1.3%程度ということだ。高成長商品ではない。もっとも主要食糧だから、政治的な規制、輸出制限などを受けやすい安全保障商品でもある。

世界で現在3200万トンのコメが輸出されているが、総生産量に占める輸出の割合はわずか7%と、他の穀物に比べると国際流通比率は低い。主要輸出国はタイ、ベトナム(両国で5割)、アメリカ、パキスタン、インド(5カ国でシェア8割)である。輸入国は、フィリピン、ナイジェリア、イランを中心に中東からアフリカまで広範囲に及んでいる。


■国際価格高騰も、突出して高いタイ輸出米


コメの価格は、現在のタイの高価格政策や他の国の輸出制限で突出しやすいが、世界の供給余力も高く、高価格は冷やされやすくもある。今回も今後供給が増えれば、2007年の各国の輸出規制で一時つけた「トン1000ドル(約7万6100円)の夢」には届かないと見られる。

過去10年のコメの国際相場(タイの代表的な「100%グレードBの白米」のFOB価格)がせいぜいトン400ドル(約3万400円)ほどだったが、今はその5割増しの625ドル(約4万7600円)まで上がってきた。

タイは今や、いわば国際市場の管理国家となったかっこうだが、政府の籾トン15000バーツ(約3万6900円)での抵当受け価格と言うのは、精米、流通費用等を入れると、バンコクの港からの輸出価格でトン800ドル(約6万900円)に相当すると言う。

新政府としては、その価格まで国際価格がなお33%ほど上がって欲しいところだが、そうは問屋が卸すだろうか。高値は、世界の供給増を招くからだ。


■2012年以降、本格的に洪水余波が市場へ


タイのコメ輸出は、今年はここまでですでに944万トン(前年同期比+44%、55億ドル(約4190億円)だというから、平均価格トン580ドル(約4万4100円)ほど)を輸出済みだというから、目標の1100万トンまで、あと156万トンほど。中部平原の洪水の被害はあるが、今年は目標に届きそうだ。

問題は来年2012年以降である。当然、洪水被害の影響が出てくる来年のタイのコメ輸出は、3割減の700~750万トンに留まろうとの見方が、タイのコメ輸出協会から出てきている。第2位の輸出国ベトナムも700万トンから増やせないようなので、インドやその他の国が価格の強勢をみてどのくらい増やせるかが鍵になる。

インドネシアは、タイ米30万トンの輸入契約が不調に終わったため、インドから輸入するつもりだと言う。世界一のコメ輸入国フィリピンは、台風で国内の稲作に100万トンの被害が出ており、来年はコメ輸入をさらに増やすと言っている。

タイの政府は600万トンほどの在庫を持ち、これからコメ抵当システムの運用で12月~1月と在庫が入ってくる(最初の10月はまだ5万トンに過 ぎないが)。精米業者や輸出業者も高値を見越して、およそ300万トンの在庫を積んでいるそうだ。政府は輸出向けに安値放出はしないと言っているが、おそらくどこかで放出してくるに違いない。


■コメ抵当システム財源を水田復興へ

政府は、コメ抵当システムに4300億バーツ(約1兆600億円)ほど投じると見られるが、そんなことをやるより、そのお金を稲作の水害からの復旧に使うべきだとの批判が出ている。まったくその通りだと思う。

「政治商品」コメの需給、ことに供給は国や業者の思惑で大きく左右される。米価の高値は、来年どこまで行けるのだろうか。

関連記事:
【タイ大洪水】首相「この洪水は1ヶ月以上続く」=ついに始まった都心浸水(ウチャ)(2011年10月23日)

関連リンク:
タイ洪水がコメ輸出にも影響、インドなどから調達も=トレーダー(Reuters、2011年10月20日)

記録的洪水のタイ、復興費用2500億円以上 写真2枚(AFPBB News、2011年10月18日)

募金情報:

タイ洪水被害への義援金・募金受付まとめ(メモノメモ)

*当記事はブログ「チェンマイUpdate」の許可を得て転載したものです。



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