■『トリシュナ』■ *当記事は10月29日付ブログ「インド映画通信 」の許可を得て転載したものです。
*2011年イギリス 監督:マイケル・ウィンターボトム第24回東京国際映画祭 | トリシュナ 『テス 』という作品が下敷きになっていることや、イギリスの著名なウィンターボトム監督だということを知らなければ、前半は現代風ボリウッドかと思われるような作品だった。私たちから見たインドらしさというのは、外国人監督が撮った方がより楽しめるような気がする。(マイケル・ウィンターボトム:wiki ) 今回のロケもラージャスターンの片田舎、ジャイプール、ムンバイと、典型的なインドらしい風景が映し出されていてそれだけでもとても楽しい。リアルに描かれた街の喧騒は観ているだけでインドにいるような気分にさせられた。芸術映画を想像していたのだが、すんなりとストーリーに入ることができた。 ■典型的なボリウッド・ラブストーリー、かと思いきや 物語は貧しい家に育った主人公のトリシュナと、彼女に魅かれた金持ちの息子との身分違いの恋がベースになる。テレビから流れるボリウッドのダンスシーンやムンバイでの映画撮影所の風景などが織り込まれ、とてもイギリス人監督が撮ったとは思えないほどボリウッド的な仕上がりになっている。2009年の東京国際映画祭で上映された『チャンスをつかめ!(Luck By Chance) 』や『デーヴD 』は最近多くなってきているリアルさを追求したボリウッド作品だったが、前半はこの種の作品に近い印象だった。 身分違いの恋愛物語から一転して、後半は過激なベッドシーンと共にだんだんと猟奇的になってくる。最近はボリウッドでもキスシーンはあたりまえ、ベッドシーンも珍しくはなくなってきている。だがあきらかに後半から物語の方向性が異なってきて、二人が普通のカップルでなくなり、彼は彼女を凌辱し始める。■監督の狙いは分かるが説得力は「?」 前半のインド的ラブストーリーの気分が裏切られた気になるのだが、後半こそがまさに監督の狙い、肝の部分なのだろう。しかし監督が何を意図していたかわからないが、観客に対して説得させるアピールのすべてが弱いような気がした。 まず彼が彼女にひかれる理由が通りすがりのひと目惚れ。ボリウッドではひと目惚れはお約束だからなんとも思わないが、こうしたシリアスなストーリーでは唐突すぎる。なのでその後の二人に感情移入がしづらい。こう言っては何だが、『スラムドッグ$ミリオネア』のヒロインであったフリーダ・ピントはスタイルはよいが、ひと目で男性を虜にするタイプの役柄を演じる女優ではないと思う。
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■伝わりにくかったテーマ ネタバレになるので詳細は控えるが、ラストにいたる動機も弱い。農村の都市化、教育、貧富の差を背景にした主従関係、女性という「性」の悲しさなどというのもちょっと違う気がする。もしそれをテーマにするのなら、ややとってつけた感がある。
映画祭の公式サイトのあらすじには「ひとりの女性の人生が愛と環境によって滅ぼされていく様」とあるのだが、トリシュナは時に男性の言うままで、時に大胆な行動もとる。同じ女性から見ると、不幸になっていくのは時代や環境や相手のせいではなく、自分の判断が甘いとしかいいようがない。厳しいようだが。
一刀両断的に言ってしまえば
「愛に溺れて男性をつけあがらせすぎてしまった女性が、自分の恋愛に収集をつけられなくなってしまった」 という印象だ。
社会のしがらみを描いた女性像というなら同じく東京国際映画祭で上映された『DOR(運命の糸)』の方がよかった。「家」と伝統に従順に従ってきた主人公の女性が、生まれて初めて自分の意思を持って外の世界に飛び出していく……というストーリーには未来が感じられた。
関連リンク:
【インド映画】~DOR(運命の糸) ~ (カレーなる日々、2007年10月21日) ■違う方向性があったのでは 原作の土台があったにせよ、イギリスからインドに舞台を移して大きくイメージを変えているのだから、何かもっと違った方向に向いてもよかったような気がする。作品全体としては悪くないとは思うのだが、監督の狙いに観客がついていけなかったのではないか。
この作品はコンペティション部門のため投票用紙を配っていた。インドを舞台にしているので高評価をつけたかったのだが、個人的にエンディングが好きではなかったことと、上映終了時間が遅くなり急いでいたせいもあって、投票せずに帰ってしまった。他の人たちはどのような評価をつけたのだろうか。
関連リンク:
東京国際映画祭 | 第24回東京国際映画祭 受賞結果一覧 【TIFF_2011】「トリシュナ」マイケル・ウィンターボトム監督インタビュー:急速に変化する世界を描きたい~トマス・ハーディの世界を大胆にインドで構築(映画と。、2011年10月28日) 【動画】ユーザー TIFF_TOKYO: コンペティション記者会見「トリシュナ」 Competition Press Conf. "Trishna", Michael Winterbottom(Director), マイケル・ウィンターボトム(監督). その他…( Ustream.tv、2011年10月27日 ) 【レビュー】東京国際映画祭 ⑤( Tex の独断フィルムレビュー&More、2011年10月28日 ) *当記事は10月29日付ブログ「インド映画通信 」の許可を得て転載したものです。