『グル・ダットを探して』
*当記事は2011年11月2日付ブログ「インド映画通信」の許可を得て転載したものです。

*1989年イギリス公開 監督:ナスリーン・ムンニー・カビール
第24回東京国際映画祭 | グル・ダットを探して
グル・ダット:wikipedia
■インド映画界伝説の巨匠の生涯をたどる
グル・ダットの作品を紹介しつつ、彼の家族や一緒に仕事をした人物のコメントによるドキュメンタリー作品。
グル・ダットという人物の生涯を紹介しているのだが、それ以上に興味を持ったのは映画監督やそのスタッフがいかに細かいところまでこだわって作品を作り上げているかということだ。カメラのアングル、歌の韻、光の加減……特にモノクロの時代は陰影のつけ方が作品の印象を左右させるので、重要なポイントとなってくる。
私たちが何気なく見聞きしている映像・音のすべてが計算しつくされている。それぞれのジャンルのプロたちが職人技を駆使して1つの芸術を織り成している。そんな映画製作の裏側が垣間見れる作品でもあった。
■人間の本質を問い続ける作品たち
グル・ダットは『55年夫妻』のような比較的軽い作品もあるのだが、彼の本質は代表作の『渇き』『紙の花』でよりいっそう開花している。自分の内面へ内面へと向かい、追い詰め、追い込んでいく。
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観ているこちらがつらくなってしまうほど人間の本質を私たち問いかける。このストレートすぎる問いかけに、正直言うと最初はあまり好きになれなかった。だがこれらのすばらしい作品は、時間がたつとまた観たくなってしまうのだ。
■美しさの要因である女優の描き方ともすれば重苦しいテーマの作品が美しく描かれている要因のひとつは女優の描き方にある。グル・ダットの女優の選択はワヒーダー・ラフマーンをはじめとして抜群のセンスだ。ワヒーダーは今でも品の良いおばあさまなどを演じていたりするが、若い時の彼女といったらそれはもう「絶世の美女」という表現は彼女のためにあるのではないかというような美しさだ。
さらに女優を単なるお飾りにするのではなく、一人の人間としてていねいに描いたことが特徴的だというコメントがあったが、そのとおりだと思う。美しさだけではなく、女性の内にある人間的な魅力すらもグル・ダットは引き出したのだった。
■インド映画界の中で生き続ける功績『渇き』や『紙の花』の自伝的作品に象徴されたように彼は己との葛藤の末、39歳の若さで自ら命を絶ってしまう。グル・ダットが今も生きていたらどんな作品が生み出されていただろうか?だが彼が築きあげてきた功績は今もインド映画の中に脈々の流れている。
刺激的でキャッチーなインド映画は観ていてとても楽しい。だけど時にはシンプルに「人間」というものを描いた古き良き作品を観るのも悪くはない。この作品でグル・ダットの人となりを知り、ますますその思いが強くなった。
*当記事は2011年11月2日付ブログ「インド映画通信」の許可を得て転載したものです。