中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年11月07日
■サーブの切ない物語 リーマンショック編
大手ではないが、世界中に根強いファンを持つサーブ。しかし、リーマンショック以後は涙なしでは語れない、切ない境遇に置かれている。1990年に米自動車大手ゼネラルモーターズ(GM)に買収されたのが最初の買収劇。だが、その後は親会社の不振も響き、シェア低迷が続いた。そのサーブにとどめを刺したのがリーマンショックの荒波だ。
Saab 96 / FotoSleuth
2009年、GMが破綻。サーブも公的管理下に置かれた。売却交渉が進まぬなか、2009年12月には中国・北京汽車に一部生産設備と技術を売却。さらに2010年2月にはオランダのスパイカー・カーズへの売却が完了した。
■サーブの切ない物語 欧州債務危機編
2011年5月、スパイカー・カーズはスウェディッシュオートモービルに変更。サーブ経営を業務の中心にすえるという覚悟を打ち出した決定だったが、今度は欧州債務危機が襲いかかる。
業績不振が続き、部品不足で操業がストップするなど危機的な状況に陥り、9月には会社更生手続きを申請した。売却先が探されたが、このご時世で手を挙げてくれる企業など中国以外ではなかなか見つからない。結局、厖大汽貿集団と青年汽車と中国企業2社が共同で買収する方針が決まり、9月中に覚書も締結された。
■サーブの切ない物語 徳俵で粘りすぎ編
流転が続くサーブの運命も、これで中国企業の配下になるということで、ひとまずの決着を見たのか……。と思ったのも束の間、ここからさらなる波乱が待ち受けていた。世界最古の官僚大国・中国では何事もお役所の認可、ハンコが必要。その承認が遅れた結果、約束通りに購入資金を送金できない状態が続いた。
10月23日、不信感を覚えたサーブ側は買収契約の取り消しを発表。途中まで首を突っ込んだ中国企業も4億元(約48億円)もの大赤字をぶっこき、サーブも再建のための貴重な時間を無駄にし……というせつなすぎる「白紙撤回」となった……はずだった。
28日、スウェディッシュオートモービルは1億ユーロ(108億円)で上記中国企業2社への売却が正式にまとまったと発表した。5日前の「白紙撤回」はなんだったの?!とみながあ然とするなか、サーブの売却騒動も幕を閉じた……と思っていたのだが。
■サーブの切ない物語 昔の親からのクレーム編
で、ここからが2011年11月6日付ボイスオブアメリカ中国語版の報道。ようやく決まった中国企業による買収に、かつての親会社GMが不快感を示しているとのこと。AFP通信によると、GM広報官は、「GMとしてはこの取引に賛同できません。サーブの財務的苦境を助けるために長期の資金貸付をする用意がGMにはあります」とコメントしている。
SAAB 96 V4 / liftarn
ついこの前破綻したばかりのGMさんにそんな余裕があるのかはともかくとして、なぜ妨害工作をしかけようとしているのか。中国のサーブ専売店関係者は、「技術流出がいやなんでしょ。サーブのエンジンや技術はGMのキャデラック、リーガルにも採用されてますから」とコメントしている。
スウェディッシュオートモービルが売却を正式発表したとはいえ、事態はまだ流動的だという。というのも、まだいくつかもらわなければならないハンコが残っているためだ。GMもその一つ。他にも欧州投資銀行やスウェーデン政府の債務管理機構。そして中国政府のハンコが必要。
各者各様の思惑が渦巻くなかをサーブは漂っている。切なすぎるサーブの流転ヒストリーはまだまだ決着していないようだ。