中国で広がりを見せつつある自然志向。母乳での育児が一番との考えも強まり、粉ミルクなど代行品の広告が禁止される法律が成立する見通しだ。

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■母乳代用品管理弁法
2011年11月8日、中国衛生部ウェブサイトは「母乳代用品管理弁法」(草案)を公開。パブリックコメントを求めている。
中国政府、乳幼児用粉ミルクの値下げや広告活動を大きく制限へ
「母乳代用品」とは、生後6カ月以内の乳児を対象とする、主に市場で販売される乳幼児用調製粉乳や飲料などを指す。衛生部による『母乳代用品管理弁法』は、中国政府による母乳での子育てを励行する目的で、1995年に発表された。発表当初は、販売メーカーによる値下げ商品などを含む商品の贈呈を禁止するに留まっていたが、今回発表した新案では、メーカーに対する広告活動を大きく制限した。
具体的には、◆製品の値下げ◆販売促進のためのサンプルや販促品などの配布◆製品の販売目的での妊産婦や乳児の家族などとの電話やメール、手紙、訪問による接触◆パッケージデザインにおける乳幼児の絵柄や、「人乳化」、「母乳化」などの文言による誇大広告◆テレビ、ラジオ、映画、新聞、雑誌、図書、音楽、インターネットなどでの広告活動◆産婦人科の病院内での販促活動――などの禁止を定めている。また、メーカー企業や医療関係者が新案に違反し、監督管理機関からの警告や命令を無視した場合は、1000元―3万元(約1万2000円―36万円)の罰金を科すという。
■メラミン粉ミルク対策……ではない
サーチナの記事には、
今回の新案の背景には、同案によって粉ミルクの製造、販売企業の活動を大きく制限し、これまでに多くの乳幼児による腎臓結石を招いた、メラミン入り「毒ミルク」の販路根絶を目指したい、との政府の方針があると見られる。
との独自解説(中国語ニュースをざっとあさったがメラミン問題と関連づけての報道は見られなかった)はミスリードだろう。草稿第1条にも書かれているとおり、同法は「International Code of Marketing of Breast-milk Substitutes」(母乳代用品の販売流通に関する国際基準)に基づく規定という性格を色濃く持っているからだ(
WHO)。
赤ちゃんには母乳だけを与えたほうがいいのか、それとも粉ミルクなど代用品でもいいのか。「母乳信仰」あたりのキーワードで検索すると、双方の意見が激烈に衝突しているのがよくわかる。立場が違う人々がともに上記WHOコードを論拠に「母乳あり、なし」を主張していたりと、かなりカオスな状況である。
■中国の状況
中国でも日本と状況はよく似ており、自然志向が高まり、かつ専門家の「母乳は健康!母乳は安全!母乳は安い!」キャンペーンがマスコミをにぎわすなか、仕事の関係や体調の関係で代用品を使う以外に選択のない母親がストレスを感じているケースも少なくない。
また「宅配便で母乳送ります」というネットショップが登場したり、本当にトレーニングを受けた経験があるのかわからない、怪しげな「母乳マッサージ師」がもてはやされたりという状況もある。
■非関税障壁としての「母乳代用品管理弁法」
さて、上記WHOコードは1981年発表のもの。なぜこのタイミングで法制化というのはちょっと疑問に思うところ。自然志向の高まりやメラミン汚染粉ミルクをはじめとする食品安全問題を受け、粉ミルク問題への関心が高まってきたことは間違いない。
ただ、もう一つ、邪推したくなるのがいわゆる「非関税障壁」としての法律なのではないかという点だ。メラミン汚染粉ミルク事件を受け、中国国産粉ミルクの信用は地に落ちた。高価な海外製粉ミルクの需要が高まり、市場シェアは逆転。今や販売量の過半は海外製となっている。
日本産粉ミルクも人気だが、特に「日本人が使っている、そのままのもの」を望む声が強く、日本と同じパッケージで輸入されているケースも少なくない。「母乳代用品管理弁法」がこのまま成立すれば、赤ちゃんの絵があしらっている海外の粉ミルクはすべて排除されることになる。