中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年11月12日
ニジニ・ノヴゴロドは一昨日から雪が積もり、街中はちょっとシックな(?)白黒になりました。今日は-4℃~-6℃です。
Novgorod bus (Новгородский автобус) / Vokabre
■ミンクおばちゃんと切符チェックおばちゃん
この前の3連休に妹とショッピングセンターに行こうとしてバスに乗りました。ニジニ・ノヴゴロドのバスは、運転手と一緒に切符を売る女性が乗っていることが多いです。しかし、このバスは運転手だけだったので、切符を直接運転手から買うことになっていました。
あるバス停でのこと。ドアが開くなり、体の大きいおばちゃんが二人乗ってきて、「切符チェックですよ~!」と大声で叫びました。喧嘩ごしの言い方で「どうせ払ってないだろ」という口調。チェックおばちゃんの登場効果はてき面。運転手のところに次から次へとお金が渡ってくるようになりました。
すると、ミンクのロングコートを着ているおばちゃんが切符を持っていないことが発覚。「今乗ってきたところ」とミンクのおばちゃんは言い訳をしているけれども、チェックおばちゃんは「うそだ、私と一緒に乗ってきた人を私は全員覚えてる」と叫ぶ。怒鳴り合いの中「このミンクのおばちゃん、私たちと一緒に乗ってきたんだよ」と妹は小声で私に言いました。あ~あ。
今度は私たちの番です。バスに乗ってすぐに切符を買いましたので、余裕の表情でチェックおばちゃんに切符を渡しました。そうしたら「どうせチェックが始まってから慌てて買ったんだろ」と、いきなり怒鳴られてしまいました。ミンクのおばちゃんとの喧嘩の勢いがそのまま私たち二人にぶつけられてしまったわけです。私たちはびっくり。「乗ってすぐに払いましたよ」と反論しようとしましたけれども、チェックおばちゃんは信じようとしません。
「はいはい。切符の通し番号を見ればそんなもんすぐにわかるよ」と言う。私たちの後大勢の人が慌てて切符を買っているから、私たちの切符番号はそれよりもずっと前。チェックおばちゃんもそれを確認して、ちゃんと払っているとわかったようです。しかし、そこがロシア人。チェックおばちゃんは謝ろうとはしない。でも、申し訳ないとは思ったみたいで、しばらく黙ってからしみじみとしゃべり出しました。
「あなたたちだってバスの運転手と結婚したら、どれだけ大変かわかるよ。この人たち、ノルマがあるんだよ。しかし、払わずに乗っている人が多いと、運転手の手元にお金が残るどころか、会社に納めなければならないノルマだって達成できないんだよ。運転手たちの奥さんの身になってみてくださいよ」と。
「だから、すぐに払いましたから」と私たちはまたまた静かに繰り返しました。
「それはもうわかったからね。あなたたちに言ってるんじゃないの。他の人たちにわかってほしいんだ」とおばちゃんもやっと落ち着きました。
そこでちょうど次のバス停に着いたので「あなたたちのような良心的な子ばかりだといいのにね」と言い残しチェックおばちゃんは次のバスへと突進していきました。戦いはまだまだ続くようです。
■日本とロシアの違い
切符を買ったぐらいで良心的と言われると複雑な気持ちになります。ミンクのおばちゃんがどうして最初から切符を買わないのかということも気になる。しかし、私が一番気になったのは、日本とロシアの違いです。
ロシア人のバスやタクシー運転手は制服を持っていないどころか、突然の故障を治さないといけないようなケースに備えてか「汚れてもいい私服」で運転をしています。夏場なんて、シャツの前ボタンをすべてはずして毛深いビールっ腹を出している運転手も多いです。チェックおばちゃんだって、とても清潔とは言えない作業着らしき服装で、おしゃれな乗客たちとはとても対照的でした。
■なぜ喧嘩ごし?
チェックおばちゃんの態度も、礼儀正しい日本の運転手さんや車掌さんとは大違い。乗った瞬間から喧嘩ごしのしゃべり方にお客さんとの怒鳴り合い。日本では考えられないと思います。
しかし、チェックおばちゃんも大変だと思います。次から次へとバスに乗っては切符チェックをしているけれども、きっとどのバスも同じで、おばちゃんが乗ってこない限りお金を払おうとしないお客さんが多いと思います。無賃乗車をした場合の罰金も設定してあるのですが、そんなのを図図しいロシア人乗客に払わせるのは到底無理。切符代だけでも出させたらもう万々歳。
■ひとりひとり「素のまま」
とにかくロシアのバスに乗るだけでも日本ではなかなか体験できないことが盛りだくさん。チェックおばちゃんにしても、ミンクおばちゃんにしても、ロシア人はひとりひとり「素のまま」。怒鳴って、怒鳴られて、しみじみ話をして、なんとなく納得して(納得しないで)、別れる。
ロシアで暮らしていると、どこでどういう目に遭うかわからないけれども、こういう人間くさいコミュニケーションの仕方、タチアナはきらいじゃないです。
*当記事はブログ「ロシア駐在日記」の許可を得て転載したものです。