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【書評】溝口敦『暴力団』:「構造的不況産業」としての暴力団と半グレ集団

2011年11月16日

■ブックレビュー:溝口敦『暴力団』新潮新書、2011年(700円+税)■


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■集大成としての概説本

作家・高野秀行さんがブログで「溝口敦『暴力団』は入門書にして名著」と絶賛していたのでついつい購入。暴力団についてなんとなく知っていたつもりではあるが、その知識を整理するのにうってつけの一冊だった。目次を見てもわかるとおり、暴力団の定義、稼ぎ方、性格、海外との対比など全般的な内容を抑えてある。第七章にいたっては実際に暴力団とかかわらざるを得なくなった時にどうすべきかというハウツー本的性格まで備えている。

それでいて、本としての芯となるストーリーもちゃんと用意されている。すなわち「暴力団の終焉」と「半グレ勢力の台頭」だ。


■目次
まえがき
第一章 暴力団とはなにか
ヤクザと暴力団員/22の指定暴力団/寅さんと清水次郎長/山口組の組織とカネ/暴力団員の出没地域とは?/暴走族と愚連隊/「暴力団関係者」って誰?/共生者と企業舎弟
第二章 どのように稼いでいるか?
しのぎの手口は四つ/覚醒剤はいくらか?/恐喝は割に合うのか?/野球賭博や闇カジノはなぜ儲かるか?/みかじめとは?/解体と産廃処理で稼ぐ
第三章 人間関係はどうなっているか?
志望動機と学歴/暴力団の求人活動/女性は入団できるか?待遇は親分次第/出世の条件/組員の性格分析/なぜ入れ墨を入れるのか?/なぜ指を詰めるのか?/暴力と信仰
第四章 海外のマフィアとどちらが怖いか?
海外の暴力組織とは?/欧米のマフィア/公然か秘密か/香港「三合会」幹部は語る/足を洗えるのか?/台湾の「流氓」とは?/厳罰に処す/日本に現れた「冷面殺手」/戦慄のチャイナマフィア
第五章 警察のつながりとは?
暴力団対策法の効用は?/対マフィアの場合/腐れ縁と三ない主義/権力との闇取引/芸能人や政治家となぜつきあうのか?/なぜ暴力団はなくならないか?/ヒットマンとは何者なのか?/警察から暴力団への「賠償事件」/暴対法ではどこまで守られるか?
第六章 代替勢力「半グレ集団」とは?
半グレ集団とは何なのか?/暴力団との四つの違い/アンダーグランドの商売/入団の条件とは?/暴力団が恐れる集団
第七章 出会ったらどうしたらよいか?
「女々しい性格」と対処法/暴力団は労働するのか?/懲役はハクになるのか?/暴力団のタブー/暴力団がなくなると/もし会うことになったら/妥協は禁物
あとがき


■「構造的不況業種」としての暴力団の終焉

暴力団の収入源は次の4つが柱だという。

・覚醒剤:もともとは御法度。今は下っ端の仕事をお目こぼし。
・恐喝:警察に通報されたら共謀で幹部まで引っ張られるので御法度。
・賭博:野球賭博は携帯の普及により賭け金を振り込む前に口約束で賭けるスタイルが流行→負けたら結局賭け金を払わない人が多く廃れてしまった。闇カジノは儲かるが全国的に少なくなっている。
・解体と産廃処理:外国人労働者を使ってのアスベスト処理。そのアスベストや産業廃棄物の不法投棄。

この4つの収入源のうち、儲かるのは解体と産廃処理だけ。暴力団ビジネスは厳しく、金回りが悪くなっている。上納金をもらう上位の暴力団ならばともかく、下っ端は本当に貧乏で美人をはべらして外車を乗り回すといった「かっこつけ」もできない。となると、あこがれて入ってくる新規組員を獲得できないという悪循環。かくして暴力団は「構造的不況産業」となった。

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■代替勢力としての半グレ集団

海老蔵事件で注目を集めた、暴走族OBつながりの集団「関東連合」。暴力団の代わりに「関東連合」のような半グレ集団(溝口氏の造語。堅気とヤクザの中間的な存在。また愚連隊、グレーともかけている)が台頭してきた。若い構成員が多い半グレ集団は、暴力団よりもITなどを使った新しいシノギに詳しく、振り込め詐欺、出会い系サイト、偽造クレジットカード、ネットカジノ、ドラッグ、ペニーオークションなどの収入源を獲得してきた。

暴力団との違いは主に以下の2点となる。

・警察がまだ本格的に対応しておらず、暴力団対策法や組織犯罪処罰法の対象となっていない。
・暴力団は組事務所を設け代紋を見せびらかして自分たちの存在を誇示することで金を得てきた。一方、半グレ集団はやっているビジネスの秘匿性、メンバーの匿名性が特徴。


■ヤクザはマフィア化するか

海外のマフィアも秘匿性、匿名性という特徴を備えており、その意味では暴力団よりも半グレ集団に近い。俗に取り締まりを強化すると、暴力団は地下に潜りマフィア化するのではとの指摘もあるが、溝口氏はそう簡単に変化はできないと否定的に見ている。

むしろ最初から犯罪をして稼ぐつもりならば、秘匿性、匿名性がある半グレ集団のほうが適合的であり、七面倒臭い暴力団の中に入る必要はないと分析している。

マフィア化が怖いと取り締まりの手を抜くのではなく、「構造的不況産業」となった暴力団はこのまま取りつぶしてしまえ、別に半グレ集団が台頭するかもしれないがその対策はまた別の話と結論づけている。また、暴力団が別の犯罪勢力の台頭の抑止力となっているのではという説についても否定的な見解を示している。

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■新たな組織犯罪をどう取り締まるか?

ヤクザ映画など、暴力団に関するロマンチックなイメージを全力で粉砕する一冊、という印象を受けた。振り込め詐欺など新たな犯罪を担う人々と暴力団がイコールで結ばれるわけではないという話も勉強になった。

となると、溝口氏自身も指摘しているとおり、問題は暴力団以外の新たな組織犯罪に対して、日本警察が後手後手に回っている点となるのだろう。先日も中国から電話しての振り込め詐欺事件が話題となっていたが、より巧妙に身元を隠し、複雑な手口を使う問題をいかに取り締まっていくかが課題となりそうだ(MSN産経)。

Japanese police
Japanese police / localjapantimes


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