今年8月以来、福建省寧徳市福鼎市点頭鎮で頼母子講の破綻が相次いでいる。破綻はドミノ倒しで広がり、周辺地域でも破綻した頼母子講が増えているという。現地政府による関係者は頼母子講参加者は6000人以上。投資資金は1億9000万元(約22億8000万円)に達するという
2011年11月23日、財経網が伝えた。
■標会のやりかた
頼母子講、無尽講とは、古い歴史を持つ民間金融である。
複数の個人や法人等が講等の組織に加盟して、一定又は変動した金品を定期又は不定期に講等に対して払い込み、利息の額で競合う競りや抽選によって金品の給付を受ける。
日本だけではなく世界各地にあり、韓国では契、中国では互助会、標会と呼ばれている。福鼎市では標会という呼び名が一般的だったようだ。
財経網の説明による標会の方法について説明しよう。
標会は責任者(会首)1人と複数の参加者(会脚)から構成される。責任者1人、参加者9人の計10人で構成される月「標会」を例して考える。毎月10人が集まり、1人1000元(約1万2000円)ずつの金を拠出する。すると1万元(約12万円)の現金が集まるわけだが、これを誰が借りるかをめぐって入札を実施する。
一番高い利息を約束したものがお金を借りることができる。これを10カ月繰り返して全参加者が1度ずつ借りると、その標会は終了する。責任者は信頼できるメンバーを集め資金を管理する役割を担うが、その代わりにメリットもある。最初の集会時、メンバーは通常の金とは別に1回分の費用を責任者に渡す。この金は標会が終了した時点で返還されるのだが、それまでの間、責任者は無利子で自由に運用できる。
茶田 / abon
■仲間内の相互扶助から「民間金融」へ
点頭鎮はお茶の産地として知られ、短期的にまとまったお金が必要になる零細企業や農民が多いという。零細企業に冷たい銀行など金融機関よりも、仲間内で融通しあう標会を頼るケースが多かったと、点頭鎮の詹照育鎮長は明かした。
ところがこの標会が次第に変質していったことが問題の背景になったという。仲間内で金を融通し合う目的ではなく、高額の利子で釣って人々から金を集める「民間金融機関」としての性格を帯びるようになった。ここ数年の中国経済はなにせ毎年10%の経済成長を達成している。少々高い金利で金を借りても、目端が利く人間が株や不動産に突っ込めば十分に回収できたはずだ。
■もう一つの伝統「図頼」の登場
こうして過熱していった標会だが、中国経済の「異変」のあおりか、返済が滞って破綻、「倒会」してしまうケースが続出している。金を返さないメンバーの家を打ち壊すケースもあったばかりか、標会で数百万元の負債を抱えた参加者が飛び降り自殺した事件も起きている。
不謹慎ながら興味深いのは飛び降り自殺後のエピソードだ。関係者は自殺者の遺体を抱え上げて鎮政府に行き、鎮政府の金で標会を救うよう訴えたという。これは中国古来の風習「図頼」のパターンと見るべきだろう。「図頼」とは、「おまえが追い詰めたから、うちの親父が自殺してしまった」などと相手を訴える風習である。自殺した遺体を相手の家に持っていくケースもしばしばだった(
Wikipedia)。
福鼎市政府は「民間標会清算整頓グループ」を結成。現在、点頭鎮の標会の清算を進めている。大規模な標会責任者や、高額の利息を約束して金を借りた末に返
還しなかった悪質な参加者の逮捕を進めている。それ以外のケースでは、仕方がないということだろうか、決まりどおり標会を運営、終了させる方向に持ってい
くようだ。
■「民間金融」危機に直面した中国
「民間金融危機」の債務不履行といえば、温州の問題がまだ記憶に新しいところ。
(関連記事:闇金スポンサーは一般市民=銀行預金5兆円が地下経済に流入か―中国)
他にも内モンゴル自治区オルドスの「民間金融」問題が取りざたされているが、それだけではなく中国全土に大なり小なり似たような問題があるはずだ。金集めの手段も、昔ながらの頼母子講から高利貸金融屋、そしてインターネットを介した「人人貸」(P2P金融)までさまざまなバリエーションがある。
正規の金融システムから外れた「民間金融」が盛り上がってしまったのは、政府に責任がある。中小企業、零細企業が活用しやすい基層金融システム作りが遅れたこと、預金金利を低く抑えたためインフレ以上の投資回収率を目指して一般人が「民間金融」に投資する動機を作り出してしまったことは明らかに問題だった。
現在、中国政府は中小企業に金を貸すように銀行にハッパをかけている。近いうちに記事にしたいと思っているが、これはこれでリスクのある話だ。胡錦濤、温家宝の任期もあとわずかだが、最後の最後で厄介な問題を抱え込んだものである。