■アジアに経済、軍事、地政面で手を打つアメリカ政権
*当記事は2011年11月22日付ブログ「チェンマイUpdate」の許可を得て転載したものです。
Obama / art_es_anna
オバマ米大統領が自ら太平洋を駆け巡った。米国現政権のアジアに対する思い入れは並々ならぬものがある。
■アメリカのアジア回帰、3つの動機
その背景は、3つあろう。
(1)成長するアジア経済によりコミットしたい。
(2)膨張したい中国をけん制したい。
(3)イラク、アフガニスタンから手を引き余裕ができる。
この秋のアメリカの大統領の動きは大きかった。アメリカの観点から一連の動きを振り返ってみよう。
■アジア太平洋経済協力会議「APEC」
(1)オバマ大統領の生誕地であるハワイで、2011年11月12~13日の週末に、「APEC」(アジア太平洋経済協力フォーラム、1989年12カ国で発足、現在21カ国・地域)の第23回年次首脳会議をオバマ大統領が主催した。
そこで、懸案の「TPP」(環太平洋パートナーシップ)の協議に、日本、カナダ、メキシコの3カ国を参加させることに成功した(9カ国から12カ国に)。ことに、日本を協議に参加させたことは、TPPの重要性を高める上で大きかった。
APECは、その名の示すとおり、政治色を抜いた経済協力の緩いフォーラムだが、アメリカ、中国、ロシアが入っているとなると(インドは入っていない)、その前にフランスのカンヌで開かれた「G20」金融サミットではないが、参加国が多すぎてなかなかまとまりがつかないものになってしまっている。その中で、TPPは一本の大骨となろう。
日本ほか3カ国の交渉参加によって、APEC20カ国(香港は中国領)のうち、TPP協議に参加していない残りの8カ国の顔ぶれは以下のようになる。
フィリピン、台湾 → 参加意向あり
タイ → 検討中
インドネシア、ロシア、パプア・ニューギニア、韓国、中国 → ?
この中で特に注目されるのは中国の動向である。
TPPは経済協力だから、けっして中国を封じ込める政治的な意図はないが、アメリカは、TPPの中に知的財産権の尊重や、労働慣行の規律を求めることにより、間接的に中国に圧力をかけていくだろう。つまり、「これこれの通商、労働慣行をTPPでは守ってもらいますよ。それをクリアするなら中国もぜひ入ってください」というスタンスだ。
今のところ中国は参加する意思はないようだが……。
TPPなどに入らなくても、中国のASEAN諸国との経済的結びつきは強まっているという自負があるかもしれない。
具体化には、少なくとも数年はかかりそうだ。
■ダーウィンへの米海兵隊駐留決定(2)オバマ大統領は、その後19日からのバリ島での「EAS」にも参加するのだが、アメリカへ戻ることなく、その間豪州へ飛び、16日には豪州のギラード首相と会談。第2次大戦時のマッカーサーを思い出させる、豪北部ダーウィンへの米海兵隊駐留を決定した。イラク、アフガニスタンへの軍事力投入を終え、今後は南シナ海をにらんだ軍事プレゼンスを強化するわけで、非常にわかりやすい展開である。
■第6回東アジアサミット「EAS」
(3)そして、19~20日の週末には、バリ島で第6回「EAS」(東アジア・サミット)に、アメリカとして初めて参加した。
EASは、その名の示すように、1990年に「ルック・イースト」で知られるマレーシアのマハティール首相の提唱で、東南アジア諸国中心に経済統合を進めようとの意図で発足したものだ。
この首脳会議も、アセアン10カ国+6、つまり日中韓に豪、ニュージーランド、インドが加わり、さらに今年から米・ロシアも参加し18カ国参加と、すっかりにぎやかになった。アセアン+3でいいと言う中国に対し、さらに3カ国加えて+6のバランスを日本が推しているうちに、それぞれが、ロシア、アメリカを招きいれ、肥大した。
東アジアの経済連携を図ると言う意図から離れ、何やら米中印露日の経済を超えた政治的、戦略的会議の場になっていきそうだ(APECには入っていないインドも、ここだけには入っている)。
2005年、EASが発足した時、米ブッシュ政権は、「何をやる会議なの?」と無視したが、アジア重視となったオバマ政権になって、一挙に乗り込んできた形だ。EASは、5つの討議テーマ(金融、教育、鳥インフルエンザ、災害管理、気候変動)を伝統的に持っているが、これにアメリカは「海洋安保」「人権問題」などを加えていきたい意向のようだ。
■着々とアジア戦略に打って出るアメリカ以上追ってみると、アメリカは、
(1)経済面で、TPPを軸にし、
(2)軍事面で、ダーウィンに駐留し、
(3)地政面で、EASに加わり、
アジアに対し着々と手を打っていることがわかる。
欧米経済の衰退から、アジア圏での成長に活路を見出すと同時に、中国に対し囲い込むと言う見え透いたやり方でなく、経済、通商、労働、知的所有権、人権面でのルールを推進し間接的に中国にも採用を迫る、という方法論をとるのではないか。この米のアジア戦略に対し、今後中国がどういった動きを見せてくるのか、大きく注目される。
U.S. and them / borkur.net関連記事:
【まとめ】最後の盟友まで離反=東アジアサミットに見る中国の四面楚歌(2011年11月24日)中国との経済的連携を強める、TPP参加国マレーシア(ucci-h)(2011年11月20日)【追記】2011年南シナ海問題が残したもの=東南アジアの軍拡競争(2011年9月10日)*当記事は2011年11月22日付ブログ「チェンマイUpdate」の許可を得て転載したものです。