2011年11月24日、テレビ東京は「NARUTO」「BLEACH」など人気アニメを中国の大手動画配信サイト・
土豆網で配信すると発表した。
经典阿童木形象 / utpala ॐ
■テレビ東京の英断
「NARUTO」放映当日に中国で配信 テレ東のアニメ
テレビ東京は24日、同局が放送するアニメーション3番組を、中国の大手動画配信サイトに即日配信すると発表した。12月1日から開始する。中国国内の業者と組んで正規の映像を流すことで、横行する違法映像を締め出すのが狙い。
配信する番組は「NARUTO(ナルト)」「BLEACH(ブリーチ)」「SKET(スケット) DANCE(ダンス)」。さらに4~5作品を検討中という。中国大手の動画サイト「土豆」と提携し、中国語の字幕とCMを付け、日本での放送より1時間遅れで配信する。
<テレビ東京>人気アニメ番組を中国に配信へ
日本での放送から1時間遅れで中国の大手動画サイト「土豆」に、北京語の字幕を付けて配信。また、過去に放送されたシリーズなど約2000話をアーカイブ化して供給する。広告付きで視聴は無料だが、中国国内限定。同局は米国のサイトには09年から、アニメを配信している。
英断だと高く評価したい。というのも「日本アニメを中国でいかに売るか?いかに金を回収するか?」という問題より前に、「中国市場における日本アニメ人気壊滅」という可能性のほうが高いのではないかと考えていたためだ。あるいは、テレビ東京が壊滅の危機を救う「救世主」となるかもしれない。
■中国は儲からない市場
10月28日に開催されたシンポジウム「「「80后」「90后」が変える中国のアニメビジネス」を聞いたのだが、「中国の状況が変わるのか、アニメビジネスで稼げるのか」という期待を与えるようなタイトルとは裏腹の内容だった。本サイト寄稿者でもある
百元籠羊さん、
安田峰俊さんのお二人がそういう甘い期待を激しく踏みつぶすという修羅場が繰り広げられた。
「80後」「90後」でも変わらない中国のアニメビジネス=百元籠羊・安田峰俊のシンポを聞いてきた
■中国でアニメビジネスを成功させる道は?
・なかなか儲からないのでは。もともと安い娯楽だから日本アニメは広がった。ネットが普及した今、アニメを流して金を取るビジネスは難しい。(百元)
・日本式ビジネスは無理。しかし、アニメ展覧会などイベントビジネスとしてなら可能性がある。(郭)
・同人イベントや日本の声優を呼ぶイベントはそこそこ人気がある。ある声優イベントでは500人のチケットが即日完売。でも小さな儲けでしかない。(百元)
→体験に金を払うのは女性。だから男性声優のイベントが人気です。(百元)
・体験を売るという可能性はありうる。音楽と同じ、ライブには行く、B'zは世界に2人しかいなくてコピーきかない。(安田)
「あーあ、日本アニメにとって中国市場はまだ儲かる場所じゃないのか」とがっかりした人もいるかもしれないが、実際には「まだ」どころの騒ぎではない。状況はもっと深刻で、海賊版が流通する今の「人気」も尻すぼみになる可能性が高いと考えている。
■テレビによる日本アニメ信者量産と外国アニメ規制
当サイトを含め、外国人のアニメ好きを伝えるサイトやマスメディアの記事は少なくないが、ごく少数が楽しむ趣味ということは押さえておくべきだろう。
いや、中国では「1990年代前半、「北斗の拳」「聖闘士星矢」がテレビ放映され大ヒット。「80後」(1980年代生まれ)の心に日本アニメが刻まれる(By 百元)」という事情があったのだが、2006年に外国アニメ規制が導入されて以来、テレビをつけていたら日本アニメにどっぷりはまった人間が製造されていたという特殊な状況は失われている。
もちろん中国のネットには海賊版の日本アニメがあふれかえっているが、それは「アニメを見よう」という意志のある人間が見るものであり、テレビによる洗脳とは比較できない。また海賊版の字幕をつけているボランティア、いわゆる「ファンサブ」(字幕組)は、過去に洗脳された人々が担っていることも重要だ。
彼らが「ファンサブ」を卒業していけば、今のようなほぼあらゆるアニメが中国語字幕付きで流れることもなくなるだろう。海賊版の消失というめでたい事態と同時に、日本アニメファンの急減という問題につながることは明らかだ。
私の知り合いのある「80後」中国人は、日本で最強の聖闘士星矢グッズ、等身大「黄金聖衣」が発売されるとの情報を聞いて(実際には展示だけで販売はなかったようだ)、「2つ買ってくれ。1つは自分のコレクションにする。もう1つは転売して儲ける」と電話してきたことがあった。こうした将来、お金を落としてくれるかもしれない信者をいかにキープするか。外国アニメ規制導入から5年、実は日本アニメは危機に瀕していたと言える。
■中国動画共有サイト界に正規版権確保の動き
海賊版の流通で「コンテンツじゃ儲からない」状況が続いていた中国市場だが、一方で変化も起きている。当初は「ユーザーが勝手に海賊版をアップしただけ。うちの責任じゃない」と言い張って、海賊版コンテンツでアクセスを集めていた中国動画共有サイトが続々と正規版権を購入する動きを見せているのだ。
中国国内のコンテンツホルダーが動画共有サイトを訴える動きもあり、またコンテンツ産業を育てたい中国政府の意向もあり、海賊版コンテンツの流通が止まったわけではないが、正規版権購入のトレンドは明らかに加速している。しかも大手プレーヤーが乱立する中国動画共有サイト戦国時代の中、有料コンテンツの版権は奪い合いで、契約金も上昇しているという。
上昇したといっても、課金モデルがなかなか普及せず広告モデルしかない現状では限度があるだろうが、少なくとも一銭も回収できない状況に変化が生じつつあることは確かだ。
■テレビ東京の「英断」は突破口となるのか?
「土豆網」でちょこっとアニメを流したからといって、それで日本アニメの危機的状況が変わるわけではない。テレビに放映できるわけではないし、今後、ネットコンテンツ検閲が強化された暁には「最低でも放映3カ月前に中国政府に見せなさいね。問題がないかチェックするし」的な規制が科されることも十分考えられる。
とはいえ、リアルタイムで高画質の正規版アニメが大量に流れてくれば、中国の日本アニメ信者を再び増加させるきっかけとなるかもしれない。テレビ東京の「英断」に各社が続くのか、「NARUTO」の視聴者数が爆発して動画共有サイトに正規版日本アニメの価値を認識させることができるのか、注目したい。