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「外」交部は「援」交部に堕した!スクールバス寄贈問題で炎上―中国(水彩画)

2011年11月28日

■スクールバス問題の行方■

*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。


今年2011年9月に、定員10名程度の船に90人以上の子供を載せて沈没した事故が起きましたが、事故を紹介した記事「定員14人の渡し船に子ども90人が乗っていた?!超過積載船事故のナゾ」で、「スクールバス」とは到底呼べない、トラックの荷台に載れるだけ児童を詰め込んだ写真を紹介しました。

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*画像は中国青年報の報道。広東省梅州市五華県の小学校「送迎車」。

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*画像は9月、湖南省邵陽市邵陽県で沈没した舟。この小さな舟に90人が乗っていた。


バスや船など、子どもたちを乗せる交通機関の「超・定員オーバー」問題は、各地で常態化しているのではと感じていたのですが、果たして去る2011年11月16日に甘粛省慶陽市で幼稚園児60人以上を詰め込んだ9人乗りの「スクールバス」がトラックと衝突し、最終的に21人が死亡する大惨事が起きています。


■21人が死亡した幼稚園送迎車の衝突事故


(1)定員オーバーの幼稚園バス、事故で20人死亡=車の改造、逆走も発覚(凜)(2011年11月18日)
(2)超超超・定員オーバーは当たり前?!園児20人死亡のスクールバス事故(凜)(2011年11月19日)
(3)9人乗り送迎車に64人乗って事故で20人死亡3(政治学に関係するものらしきもの、2011年11月19日)
(4)9人乗り送迎車に64人乗って事故で20人死亡4(政治学に関係するものらしきもの、2011年11月20日)

ブログ「政治学に関係するものらしきもの」が詳しくまとめてらっしゃるので、手抜きして引用させていただきますが、我々が「スクールバス」と聞いて思い浮かべるものとは程遠く、エブリイみたいな軽ワゴンの座席を引っぺがし、粗末な木製のベンチのような物を置いて、園児を詰め込んだのが「スクールバス」の正体です。


■足りないスクールバス、事態沈静化に動き出した政府


公用車を売って、来年はスクールバスを買う!(山東商報、2011年11月20日)

事故が起きた慶陽市は2012年の公用車購入計画に当てられた予算を、全てスクールバス購入に回すと発表し、事態の鎮静化を図っています。

同時に全国規模の調査結果も公表されています。小中生、幼稚園児1億8000万人に対し、スクールバスは28万5000台しかないだけではなく、ほとんどの車に問題があることも発覚。事故を起こしたような違法改造されたものを除くとわずか2万9000台しかないという状況も明らかになりました。

もちろん、徒歩で登下校したり、バスや自家用車などを使う生徒、児童が多く、実際に「スクールバス」を利用するのは全体の2.77%に当たる約515万人なのですが、それでも足りていない現実には変わりません。しかも、正規のスクールバスがあっても、それが正規の使われ方をしているとは限らないのです。貴州省貴陽市では、わずか5台しかないまともなスクールバスが教員の送迎用に使われていたと報じられ、世間の怒りに火を注いでいます。


■マケドニアへのスクールバス援助


スクールバス問題に対する怒りが満ち満ちている最中、中国外交部はマケドニアにスクールバスを23台寄贈すると発表し、ネット民の怒りに油を注ぎました。国内にはろくなスクールバスがないのに、マケドニアには立派なスクールバスを贈ったというのが、怒りのポイントでしょう。

20111128_中国_マケドニア_バス
RFI中文の報道。


写真を公表するのは別のアイテムにしておいて、リストだけ公表という形ならあまり騒がれなかったのかもしれませんが、中国外交部の世論を読む力の低下に驚かされます。

中国:マケドニアへバス寄贈、ネットに批判 園児事故が響き…「自国の問題解決を」
毎日新聞、2011年11月28日

中国政府が東欧のマケドニアに大型のスクールバス23台を寄贈したことが、中国国内で強い反発を受けている。今月16日に内陸部の甘粛省で幼稚園の送迎車が定員のほぼ7倍の園児らを乗せて事故を起こし、21人が犠牲となったことが背景にあり、インターネット上では「外国よりも先に自国のスクールバスの問題を解決すべきだ」といった意見が書き込まれている。

バスの寄贈は25日に行われ、崔志偉駐マケドニア大使は贈呈式で「中国は発展途上国で課題に直面しているが、力の及ぶ限り対外援助をしている。バスの寄贈は学生の学習環境をさらに改善するだろう」とあいさつした。

崔志偉・駐マケドニア大使のコメントも振るっています。いつもなら政府の擁護に走るはずの『環球時報』編集長・胡錫進ですら、「この時期の援助は考え直すべき」と微博で反対を表明しました。


■「中国より豊かなマケドニアになぜ?」ネット民の不満紛糾


中共外交部は援交部となったネット民が作る流行語(博訊、2011年11月26日)


ネット民はマケドニアが、1人当たりGDP、購買力、人口当たりの大学進学率がいずれも中国以上であるとするデータを、即物的な中国人にも共感できるよう、引き合いに出しています。

微博では

「中国に援助が必要なところに援助はしないのに、なんで外国にはするんだ?」

「甘粛の事故で外交部が得たのは、マケドニアで再演させないようにという結論か」

などの批判が上がっています。まあ、当然の反応でしょう。これまでもアフリカを中心に、自国の貧困地域を飛び越して援助を続けてきているので、今に始まったことではないのですが、流石に時期が悪過ぎました。


■温家宝も厳しく言及

温家宝、第5回婦人児童工作会議で講話(人民網、2011年11月27日)

鎮静化しないスクールバス問題に、温家宝はスクールバスの生産や学校などへの配備に加え、同様の事故が起きないように地方当局者の責任を厳しく追及していくと強調しました。人民日報もわざわざゴシック調にしており、喫緊の問題である事がうかがえます。

ただ、外交部の失態までは流石に知らなかったようで、今後数日以内に「2012年は公用車購入費用を全てスクールバスに回す」といった人気取りの方針を打ち出すのではないかと期待しております。

関連記事:
中国では倒れている子供を助けるのも危険=学校のお迎えは人さらい対策(百元)(2011年11月4日)
「違反しホーダイ」始まりました=何回交通違反しても罰金は定額?!―中国・江西省(2010年8月19日)

*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。


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