中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年12月01日
*海賊版DVD。海賊版のDVDは、通常は正規版DVDやポスターなどをカラー・コピーした紙が入れられています。右端のものは、性能の悪い機械でコピーしたらしくひどい印刷状態です。
■中国と肩を並べる海賊版天国
タイはDVDに関しては、中国と肩を並べて東南アジアNo.1の無法地帯となっています。さすがにキャラクターに関しては中国ほど大胆ではありませんが、DVDに関しては決して引けを取りません。
そんなタイの海賊版DVD事情の一端をご紹介しましょう。初めて巡り合ったタイの海賊版DVDは、アメリカ映画のものでした。画像はクリアで音声は英語、字幕が英語の他にタイ語、中国語、マレー語があるというすぐれものでした。
でも、考えてみれば当たり前ですよね。これはタイで売られている正規版のDVDをコピーしたものなのですから。中身は正規版と全く同じです。違うのはジャケット(DVDの入っているケース)くらい。いやはや、デジタル媒体というのは恐ろしいものです。一切品質が劣化せず、コピーできてしまいますので。ちなみに、この手のものはスクムウィット通りやシーロム・ロードの露店で1枚100バーツ(約249円)で売っています。
■露店ならずとも、ショッピングモールで堂々と
海賊版DVDは人の多く集まる場所にある露店で売っているのをよく見かけます。あと、市場でも売っていますね。タイのすごいところは、比較的有名なショッピング・モールの中でもそれらが堂々と売られていることです。しかも、ちゃんと店を構えて売っているのです。
ショッピング・モールを回っていると、大規模な正規店ではなく一坪ショップのような小さな店でビニール袋に入ったDVDが束になって置かれている店を見かけたことはありませんか?あれがそうなのです。正規版を安売りしているわけではないのです。つまり、同じショッピング・モール内に、正規版販売店と海賊版販売店とが同居している状況です。
■店の奧にある謎の扉
もうひとつ、ショッピング・モール内のお店で正規版販売店と海賊版販売店の中間的なタイプの店があります。まあ、こういった店は事実上の海賊版販売店なのですが。ショッピング・モール内に店を構え、間口はそれほど広くありませんが海賊盤専門店のような小さな店ではありません。この種の店は、外から一見すると正規版販売店に見えます。店内に並んでいるのはすべて正規版DVDです。
ですが、店内をよ~く見ると、店の一番奥にドアがあるのですね。そして、お客さんたちがそのドアを開けて入っていくではありませんか。そして、恐る恐る中に入ってみると、そこには海賊版のサンプルがズラリと並んでいます。この手の店は、バンコクではラチヤダーピセーク通りのショッピング・モールに多いです。
■海賊版なのにマスターDVD!?
「海賊版DVD」とひとくくりに言っていますが、タイでは大きく分けて二種類のものがあります。まず一つ目は、前述した正規版DVDをコピーしたものです。当然のことながら、中身は全く正規版と同じ。
さて、もう一つはなんでしょう。ある時、海賊版DVDに「Master」という文字が印刷されているのに気付きました。海賊版なのに「マスター」なの?そんなはずないですよね。DVDケースには入っておらずビニール袋に入れて売られているので、誰もこれが正規版だなんて思いません。実は、この「Master」というのは「正規版」という意味ではなかったのです。これは、「正規版のDVDをコピーしたもの」という意味だったのです。
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海賊版マスターDVD。ちょっと見にくいですが、左の海賊版には赤い文字で「MASTER」、右のものには赤い囲みの白文字でタイ語の「マーストゥー
(มาสเตอร์)」と記載されています。ちなみに、マスターでないものはタイ語で「チョンローン(ชนโรง)」と記載されています。
■スクリーンを直接撮影したチープ海賊版
では、「マスター」でないものは何なのでしょう?それは、映画館で上映されたものを客席からビデオで撮影したものです。勘違いしないでいただきたいのは、ひと昔前でしたら観客が劇場内にビデオを持ち込んで撮影していました。ですので、前の列に座っている人の頭や途中で席を立つ人の姿が写っていたり、観客の話声が入っていたりしたものです。
現在では、その手の人(海賊版製作の関係者)が観客のいない映画館内で海賊盤用にビデオで撮影するのです。この辺の様子は、タイ映画の「カミング・スーン(Coming Soon)」<2008年>に出てきます。最初、不思議に思ったのです。映画がまだ劇場で公開中なのに、町中では既にその映画の海賊版DVDが売られているのですから。タイでは、正規版DVDも早いと劇場公開終了後3カ月ほどで発売されます。とはいえ、さすがに公開中の発売はありません。
*海賊版DVD。
この手の海賊版ですが、映画館内の撮影なので当然画像のクオリティーはよくありません。また、音声もかなり厳しい部分があります。そして、ビデオカメラなどの関係で、画面サイズが実際の作品とは異なっています。たいてい、左右が切れていることが多いですね。あと、当然ながらこのDVDには字幕切り替え機能、特典映像などはありません。
■正規版DVDの値段
タイで売られている正規版のDVDの値段は様々です。定価ですと、新作は300バーツ(約748円)程度。通常、新作でも値引きして売られていますので、実質270バーツ(約673円)程度といったところでしょうか?発売から時間がたつにつれ、だんだんと販売価格は下がってきます。
人気のない作品ですと、一年もたてば100バーツ(約249円)近くまで下がります。それ以上古いものですと、80バーツ(約199円)程度にまで下がることも多いです。これがVCDですと、30~50バーツ(約75~125円)程度となります。
■海賊版DVDの相場
では、海賊版はいくらなのでしょうか?スクムウィット通りなどの露店で売られている外国映画のDVDは、基本は100バーツ(約249円)です。タイ映画は75~80バーツ(約187~199円)程度です。ただし、タイ映画は新作しかありません。外国映画もほとんどが新作のみですが。
ショッピング・モール内の海賊版専門店、正規版+海賊版販売店でも100バーツが普通です。これが市場へ行くと3枚で100バーツ(約249円)程度から1枚70バーツ(約174円)程度に下がります。内容は、露店やショッピング・モール内で売られているものと同じものです。
■取り締まり対策「5分待て」
次に、これらの購入時のことについて。スクムウィット通りなどの露店では、タイ映画を扱う店に関しては商品が並べられていますので、商品をもらって代金を払えばそれで終わりです。市場内の一部の店も同様です。外国映画を扱う露店や市場内の一部の店、そしてショッピング・モール内の店では、代金を払うと「5分待て」と言われます。
そして店員は店を出てどこかへと姿をくらまし、10分後に品物を持って戻ってきます。そうなのです。店には品物を置いていないのです。店外のどこかに置いてあるようです。屋外の車の中に置いてあるという説もあります。これは警察の取り締まり対策のためですね。
■1枚のDVDに5本の映画を……
海賊版には、なんと新作の映画5本が一枚のDVDに入っているものがあります(値段は、一枚に一本の作品が入っているものと同じ)。いくらDVDでも、一枚に5本も入るのでしょうか?もちろん、普通では入りません。ではどうするのでしょう。それは、広告や特典映像をすべてカットし、VCD並みに画質を落として強引に焼くのです。
■海賊版、買う価値ある?
さて、海賊版について解説してきましたが、違法性についての議論はちょっと横に置いておくとして、これらのDVDを購入する価値はあるのでしょうか?タイのバンコクにある有名ショッピング・モール内にあるシネコンでは、内外の新作映画の入場料は普通の席で通常140バーツ(約350円)です。
しかも深夜まで上映されており、最終回の上映開始は深夜0時を回ってからの回もあるほど。地方都市では、入場料50バーツ(約125円)なんて場所もあります(名画座ではありませんよ)。入場料がバカ高い日本ならまた話は別ですが、この条件で海賊版のDVDを購入する利点はあまりないような気もします。
もちろん、新作の正規版DVDと比べればかなり安いですが、旧作ならあまり差はありません(ただし、旧作の海賊版は売っていませんが)。特に、いくら安いからといって、劇場内で撮影された画質の悪いものを見たくはないですよね。ですが、それでもタイでは海賊版が広く売られています。
最近では、映画関係者が「海賊版を買うのをやめましょう」と言っているシーンをよく見かけますが、タイ政府が真剣に取り締まっていないので今のままでは海賊版はなくなりません。
■海賊版購入は当然ご法度
最後に、蛇足ですがこれらの海賊版を購入して日本帰国時に税関で見つかると当然……となりますのであしからず。えっ?タイで買った海賊版は、リージョン・コードの関係で日本で見ることができるかって?それはですね、海賊版にリージョン・コードは……。
このトレーラーの中に、海賊版のDVD用にビデオ撮影しているシーンがあるのですが分かりますか?撮影しようとしている男優は、『夏休み ハートはドキドキ!(Hormones)<2008年>』で蒼井そらの相手役をやっていたチャンタウィット・タナセウィーです。