中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年12月01日
56年ぶりという歴史的な米国務長官のミャンマー訪問。ASEAN復帰も決定し、いよいよ本格的に民主改革路線を突き進みだしたミャンマー。しかし、その行く手を阻む巨大な難題、病理の存在があります。
2回にわたる特集、後編です。お読みでない方はまず前編からどうぞ。
Hillary Clinton / Center for American Progress Action Fund
■2000人近いともいわれる政治犯の釈放
米国ヒラリー国務長官の歴史的なビルマ訪問に当たって、少数民族への政府軍のここへ来ての弾圧に加え、ビルマの抱えるもうひとつの課題は、政治犯の釈放である。
革新的なテイン・セイン大統領だが、政治犯の問題についてだけは、以前の軍事政権トップとなんら発言は変わっていない。「ビルマには良心の囚人(政治犯など)は居ないと信じている」となお言っているのだ。これは、明らかな政治的な偽りの発言である。
10月12日に政治犯200人ほどを含む6000人を超す囚人が恩赦で釈放された。その後11月にも釈放の噂が立ったが、実際に釈放行われなかった。なお500人から1900人ほどの政治犯が牢獄の中に居るとみられる。
■あくまでコントロールされた釈放パフォーマンス
ビルマにおける政治犯の釈放は、過去何度か行なわれてきている(政府は、政治犯の釈放とは言わないが……)。1992年タン・シュエ将軍(現在78歳)が国家元首・首相の座に就いた際、数千人の釈放令を出したし、2004年キン・ニュン首相が失脚後も、同じく数千人の政治犯を釈放している。
*チャネル・ニュース・アジアの報道。ヤンゴンの刑務所。
言い方は悪いが、多くの政治犯をしょっ引いて、その後釈放すれば、釈放の実績はいやでも増える。実際、逮捕→釈放→再逮捕といった点数稼ぎの形式も多い。
今回のクリントン国務長官の来訪にあたって、ビルマ政府は何人かの政治犯を釈放し、民主化路線を印象づかせようとするかも知れないが、なお現政権と厳しく対立する強固な政治犯は釈放しないとみられる。
2週間ほど前に、最も名の知られているふたりの政治犯、ミン・コ・ナイン(政治家と言うより詩人)とクン・トゥン・ウー(シャン州出身の政治家)等が、監獄を移されたと、チェンマイ在住のイラワジ誌編集長のアウン・ザオ氏は伝えている。
例えば、影響の少ないミン・コ・ナインを釈放して、政治的影響力の強いコ・コ・ジー(88年学生反乱の時のリーダー)はとどめるといったバランスを考えた方法論が考えられるという。
■なお厳しいアメリカの目
アメリカも楽観的には見ていない。1988年のデモ鎮圧以来続いている経済支援の停止、経済制裁の執行を、50年ぶりの国務長官の訪問だからといって、すぐさま取り止めるというつもりはないようだ。
クリントンは言っている。
「我々は経済制裁を取り止めるなど、急な変更を行なうつもりはない。もう少し、事実を確かめる必要がある」
「ここまでビルマの進歩へのフリッカー(明かりの点滅)を見てきている。進歩は進歩で歓迎すべきだ。しかし、フリッカーだけでは、改革への道に乗ったかどうか判断するには不十分だ。まだだ!」