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2011年12月01日
Taipei Night View - 23 / Kabacchi
2011年11月29日付ボイスオブアメリカ中国語版、28日付台湾中央通訊社、23日付台湾聯合新聞網を主に参照した。
■ECFAとTPP
2011年11月27日、台湾の馬英九総統は、第27回世界華商経貿会議に出席、TPP参加への意欲をアピールした。
馬英九総統は「かつて台湾は孤島のようだった」と振り返り、自らが推進役となって中国本土と締結した両岸経済協力枠組協議(ECFA)によって、そうした状況は変わりつつあると強調した。その成果として「日本メーカーの利益」を例に上げた。ECFAによって台湾で生産された日本の製品もまた関税撤廃の恩恵にあずかることができるが、そればかりではない。
中国市場での海賊版被害にあった日本コンテンツメーカーが、同社の下請け企業がある台湾を通じて交渉したところ、海賊版製品の販売差し止めに成功したとの事例を馬総統は紹介し、「その効果は絶大だった」と自らの業績を誇った。
鳩山由紀夫元首相が等距離の日米関係、日中関係を説いたのが代表的だが、「米国と中国という二大国の橋渡しをする役割としての日本を目指せ」という論者は少なくない。だが、こと経済分野に限っては「中国との橋渡し」という役割は台湾の独壇場となっている。中国本土進出を目指す日本企業も、台湾企業とタッグを組むケースが多く、日本が「橋渡し」ポジションを担うためには相当の努力が必要ではないか。
さて、ECFAの成果を誇った馬総統だが、それだけでは不十分だと指摘。今後さらに自由化を進めなければならず、今後10年以内にTPPに参加できることを望んでいると発現。「アジア太平洋地域の経済統合に参加する機会を逃してはならない」と気炎をあげた。
■野党の蔡英文主席も推進派
馬英九総統及び与党・国民党はTPP推進派だが、加えて野党・民進党もTPP推進に賛意を表明している。11月22日、米国商会で講演した蔡英文主席は、ECFAに象徴される馬英九総統の「中国本土寄り」の姿勢が米台の経済関係を停滞させたと批判した。
蔡英文主席は米台の「新計画パートナーシップ関係」締結を呼びかけ、また馬英九総統はTPP参加の意思を表明しているものの具体策を示していない、民進党ならば最短の時間でTPP参加条件を整備すると発言した。
与野党ともに推進派というのはなかなかに面白い構図ではないだろうか。想像するにその背景となっているのは、ECFAの「成功」だ。締結前は「中国に飲み込まれてしまうのではないか」という政治的不安に加え、「経済がめちゃくちゃになってしまうのではないか」との不安も相当なものだった。
だが、馬英九総統の「中国本土寄り」政策は大成果を収め、台湾は2010年に10%という高成長を実現している。台湾市民が自由貿易という果実の味を知ったことが、来年1月の総統選を前にしたこの敏感な時期に与野党一丸となってTPP推進という構図を生み出したように思う。
■国民を説得しているか?日本と台湾の違い
日本を見ると、「国論を二分した大議論」というのは名ばかりで、かみ合わない、相手を説得する気のない自説開陳ばかりが目立つように思い、どうもTPPネタを積極的に扱う気になれない理由となっている。
台湾の馬英九総統は個人的にはあまり好きではないのだが、前回総統選前から「政治問題を棚上げにして、中国本土との経済交流を促進しようぜ。儲かるよ、経済成長するよ」と主張し続け、民草を説得し、そして現時点ではプラスの結果を出している。その国民説得の手腕については評価している。
日本の野田佳彦首相も客観的に見ると、外交では華々しい動きを見せている。南シナ海問題では「悪辣な日本外交に中国はしてられてばっかりだ!」と反日論調の中国官制メディアが嘆かせる動きを見せ、またTPP参加問題ではそれまでやる気ゼロだった台湾を動かすなど国際舞台での注目を集めた。
(関連記事:日本人が知らない日本外交の真実=「やられた……中国は包囲された」と中国官制メディア)
問題はそうした動きが野田首相、あるいは民主党のどのようなポリシーに基づくものなのかがまったく伝わってこないことにあるのではないか。他国という相手がいる外交では手の内を明かせないことも多いだろうが、少なくとも方向性やポリシーを示すことは可能なはずだ。なんだか、「国民を説得する必要はない。政治なんていままでどおりもやもや動かせばいいよ」と考えているようで、台湾政治ネタを調べるたびに日台の違いにがっかりする。