中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年12月02日
■混乱する野菜市場
11月29日付「2010年韓国キムチ危機が生み出した2011年中国白菜価格暴落」では白菜、大根、ジャガイモ価格の下落をお伝えしたが、中国の物価報道を見ると、あの作物は値上がりしたがこちらでは下落、この地域では上がったがこちらでは下落と情報が入り乱されている。ちょっと前までは食品インフレ傾向が鮮明で、「ほぼ全部値上がりか横ばい」といった状況から大きく変化している。まあ、冬野菜の収穫が一気に進んでいるなどの事情もあるので一概には言えないが。
なので、「**の街でにんじんが山積みに。農民を救うために購買を呼びかけ」「山東省青島市の警察は白菜8トンを購入。転売せずにすべて警官が食べきる宣言」といったニュースと同時に、「サツマイモが高いです。危ない」「ジャガイモが先週比20%値上がりしました。暴騰です」といったニュースもある。「これはどこの地域のどの作物の話だな」と整理しなければならないので、すこぶるややこしい。
■市民たちの略奪祭り
*画像は財新網の報道。他写真多数。
さて、鄭州市の韓崗韓紅崗さんのお話。80ムー(約5.3ヘクタール)あまりの土地に大根を植えたが、価格が安すぎて売っても元がとれない。腐るがままにするのもなんなので、「無料で進呈します。福祉施設を優先したい」という意向を“メディア”で発信してしまった。これが大きく取り上げられたから、さあ、大変。
*画像は財新網の報道。他写真多数。
イチゴ狩りならぬ、大根狩りじゃとマイカーに乗って駆けつけた市民たち。争うように大根を奪い合い、それがなくなると他に植わっていたサツマイモ、ほうれん草、トウガラシを持っていく輩まで登場したという。「いやいや、そっちは売り物なんで!」という悲鳴も届かず、被害はサツマイモ10トン以上に上ったという。
*画像は財新網の報道。他写真多数。マイカーでの「大根狩り」。
■群集心理の怖さ
このニュースを読んで思い出したのが、1999年、湖南省長沙市に住んでいた時のこと。日系スーパー・平和堂が「グランドオープン」したのだが、日本のオシャレ・スーパーを見ようと20万人が押し寄せてきた。私もぶらっとでかけたのだが、そのあまりの人出に心底驚いた。
さて、そのうちの1人がお祝いの造花を1つむしったのがきっかけになったのだと思うが、「私も造花をもらわなきゃ損」という心理が働いたのか、平和堂を囲んでいた造花はすべて抜き取られるという略奪劇が演じられていた。まさに群集心理というやつである。今回の韓崗韓紅崗さんの悲劇も同じ状況だったのではないか。
■市民のパフォーマンスアート
というのが私の見方だが、南方都市報の賈志勇記者のコラムがなかなかに面白い。曰く、今回の大根狩りは市民によるパフォーマンスアートであり、農村へのあこがれを満足させてくれるイベントになったのだ、と。韓崗韓紅崗さんは大変な被害を被ったわけだが、ショックを受けすぎることはないと賈記者は言う。もう一度、大根無料贈呈の告知をしなさい。これが最後の無料贈呈であり、混乱によって大変な被害を受けたことをメディアを通じて伝え、銀行口座を公開すれば、今度は無数の心ある市民が義援金を送ってくれるでしょう、と。
被害を受けた韓崗韓紅崗さんに対する同情が見られないのはなんだかなとも思うが、口コミやメディアを通じて広がった情報が、すぐに群衆的雪崩的動きにつながるという中国社会の特徴をよくとらえたコラムだとうならされた。こうした雪崩のような動きを無数に見てきたメディア関係者からすれば、「大根略奪」も「善意の義援金ラッシュ」も市民によるパフォーマンスアートに見えるのだろう。
■参考リンク
2011年11月29日付財新網
2011年11月30日付南方都市報
*2011年12月5日追記
当初参照した中国メディアの記事では人名が「韓崗」と表記されていましたが、「韓紅崗」さんの正しい表記です。訂正いたします。
*2011年12月5日追記 続報です。「炎上で儲ける中国版フリーミアム「炒作」=大根アニキの逆転劇―中国」