2011年12月1日、
人民日報は、中小企業の資金難につけ込んだ新手の融資詐欺について報じた。

Banking District / bsterling
■新型詐欺の手口
温州危機、高利貸(民間金融)、頼母子講と本サイトが飽きずに扱っている問題が中国の中小企業及び零細企業の資金繰り問題。私が興味がある分野という理由もあるのだが、中国の雇用を支えているのに政府からは冷たい仕打ちをうけてきた企業が、金融引き締めで真っ先に犠牲になっている現状が気になっているからでもある。
さて、人民日報が伝えたのは高利貸や民間金融の倒産といった草の根金融のきしみといった問題ではなく、より直接的な中小企業の資金難につけこんだ詐欺事件だ。
ちょっと複雑なのだが、その手口はいかのとおりとなる。
・資金不足に悩む中小企業経営者が奔走
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・「金融引き締めが厳しい中国国内じゃ資金調達は大変だけど、海外の資金引っ張ってこれるよ」と誘惑
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・同意した経営者に振り込み用の新しい銀行口座を作らせる
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・「ちょっとチェックするね」とキャッシュカードを取り上げる。実はこの時にカードを改造。中身を香港の銀行口座を照会するように変える。
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「もう1000万元(約1億2000万円)振り込んであるからATMでチェックしな」とカードを返す
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チェックすると本当に入金されている!
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違法融資のプレミアム利子として12~18%程度をただちに振り込むよう要求。
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背に腹は代えられないので、120万~180万元を指定された口座に振り込む。
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それで業者とはお別れ。翌日、振り込んでもらった資金を引き出そうとすると口座からは金が消えている。
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詐欺られたと気づく
見せ金を使って、相手から金をだまし取るという昔からある手口なのだが、興味深いのは「キャッシュカードの書き換え」と「口座から金が消えるトリック」だろう。
■2つのトリック
まず「キャッシュカードの書き換え」だが、磁気カードの書き換えはそんなに困難ではないという。犯罪集団が器材を使ってちょこちょこと操作するだけで、キャッシュカードの中身は全くの別物に変わってしまうとのこと。
もう一つのポイントである「口座から金が消えるトリック」が面白い。記事によると、
香港の銀行で小切手を現金化する場合、チェックが完了するまでに1日かかるという。本当は現金化できない空手形を使うと、チェックが完了するまでの間、ATMでチェックすると口座残高には小切手の額面「1000万元」が表示されている。翌日になると銀行はチェックを終えているので、「1000万元」が消失しているという寸法だ。
詐欺には警戒している中国の経営者たちも、一度自分の口座に入った金が突然消失してしまうとはさすがに予測できなかったのだろうか。複数の経営者が被害にあっていたという。被害額は1件あたり数十万元から数百万元程度。
ちなみに犯罪グループはカモを探す役、交渉役、キャッシュカード偽造担当者、マカオにいる現金引き出し役と、その役割は細かく分担されていたという。被害額から考えて、それなりの数をこなさないとたいした利益にならなさそうだ。金をだまし取られた経営者も非正規ルートで資金を調達しようとした「犯罪者」なので、そうそうは訴えられないという読みがあったのかもしれない。
中国経済の先行きも不透明感を増してきた今、中小企業・零細企業の資金繰りはさらに困難なものとなりそうだ。経営者の悩みにつけ込む融資詐欺も今後、次から次に新手法が登場してくるのではないだろうか。
*追記タイトル及び記事の一部でクレジットカードと表記していましたが、キャッシュカードの誤りです。おわびして訂正します。