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「日本アニメをみんなに見せたいだけ」海賊版王国・中国を支えるボランティアたち

2011年12月03日

ネットにさえつなげば、後は無料で無限大のコンテンツを享受できる海賊版大国・中国。そんな状況を支えるボランティアたち、「字幕組」(ファンサブ)について、南方都市報が興味深い記事を掲載している。


高达河蟹
高达河蟹 / webfee


■海賊版王国を支えるボランティアたち

2011年11月17日、南方都市報は「中国字幕組の気まずい境遇」「ユートピアにも楽しみがある」「Viki:字幕版のウィキペディア」の3本からなる字幕組の小特集を掲載した。

中国で字幕組のお世話になったことがない人はいないだろう。海賊版動画コンテンツの多くは彼らによって字幕が付けられている。そうした字幕組には大手から零細まで大小1000グループが存在するという。米国ドラマ専門、韓流ドラマ専門、そして日本アニメ専門のグループなど、サークルはジャンルごとに別れている。

興味深いのは彼ら字幕組のメンバーはほとんどがボランティアだということ。ウェブ広告、動画広告、あるいは海賊版メーカーに字幕を売るといった収入源がないわけではないが、サーバーの維持費などの経費も必要でとても稼げるような収入ではないという。逆にメンバーがお金を出し合って経費を捻出することもあるという。


■現実離れした理想主義者の群れ


記事「ユートピアにも楽しみがある」で、こうした事情を語っているのは老舗字幕組・漫游字幕組の創始者の一人、晶晶だ。

ユートピアにも楽しみがある
南方都市報、2011年11月17日

■字幕組の創成期と動機

中国最古の字幕組は「行星」です。アニメが専門でした。2000年に解散した後、一部メンバーが漫游字幕組を作りました。当時はまだ日本ドラマや米ドラマの組織だった字幕組はありませんでした。私は漫游の創始者の一人です。初期のメンバーは5人でした。うち一人が有名な字幕作成ソフト「POPSUB」(百度百科)の開発者です。漫游成立から1週間後にサークル「動漫花園」がネット掲示板を立ち上げ、後に彼らも字幕組となります。

字幕組を立ち上げた理由はシンプルです。誰かに見せたかった。自分が受けた感覚を分かち合いたかったというだけです。もし私たちが翻訳しなければ、もっとレベルの低い人々、悪質な海賊版業者などが翻訳していたことでしょう。それは最も許せないことでした。また、中には翻訳を通じて外国語のレベルを上げようと思うメンバーもいました。しかし、それは最も重要な要因ではありません。


■字幕組では稼げない

現在、字幕組の大半は独自の掲示板、サイトを持っています。特に米ドラマ・ジャンルがそうで、効率や質もきわめて高いレベルにあります。一方、当時の行星といえば、専門の日本語翻訳者すらいませんでした。外国人のファンダムが訳した英語をさらに中国語に訳し直していたのです。

字幕組はお金を稼げるようなものではありません。字幕組の活動によってネット掲示板の人気を高めることはできますが、それで稼げるウェブ広告の金額など小遣い程度。通常は経費をまかなうこともできません。中国の字幕組の99%のメンバーはきわめて単純な人間で、利益のあるなしなど考えていないのです。現実離れした理想主義者の群れと言ってもいいでしょう。

もし字幕組のメリットを最大限に見出すとしても、せいぜい宣伝と人材発掘の場といったところでしょうか。中には字幕組の活動を通じて知名度と人気を得て、利益をあげられる人もいるかもしれません。しかし、大多数の参加者にはそんなメリットはないのです。


■お金と時間を費やした青春

漫游字幕組は設立から11年が経ちました。組織はきわめてゆるいもので、恒常的に参加しているメンバーは20人前後でしょうか。最盛期は100人以上いたのですが。誰にも給料は払われませんでしたし、それどころかサーバー代のためにお金を集めたこともありました。ある古参メンバーは2万3000元(約27万6000円)とメンバーの中でも一番多い金額を出してくれました。ただ、みんな帰属意識があれば自発的にお金を出してくれるのです。たとえ、数百元だったとしても、それは大事な気持ちです。

私も合計で2000元(約2万4000円)以上は寄付したでしょうか。しかし、それ以上に費やしたのが時間と精力、それに情熱です。日本には毎年、何作品か1年間放映が続く番組があります。例えば「ガンダムSEED」がそうです。こうした番組を担当するとなると、1年間もの間、毎週決まった時間(例えば日曜日の夕方5時)にはパソコンの前で翻訳しなければなりません。たとえそれが大みそかだろうと、です。もし2作品を担当するとなれば、費やす時間はもっと多くなります。3カ月(1クール)ぐらいはなんともないのですが、1年間続けるとなると誰でもできるわけではありません。


■台湾字幕社の衰退と中国字幕組の未来

現在の中国本土における字幕組は、10年前の台湾字幕社と似ています。つまり繁栄期にあるという意味です。台湾の知的所有権意識は比較的高く、正規版の導入により字幕社は次第に代理店に「投降」していきました。有名な字幕組メンバーには台湾最大の日本アニメ代理店に就職し、翻訳者になった者もいます。

今、中国本土には多くの正規版が流れ込んできています。つまりコンテンツホルダーが正規に版権を与えた字幕付き動画コンテンツです。これらの正規版は奇芸網(最近、愛奇芸と改称)などの動画視聴サイトで公開されます。
(関連記事:快進撃の「正規版」動画視聴サイト・奇芸=レノボ、百度が約240億円を出資へ―中国

正規版に中国語字幕がつけば、字幕組の多くは活動を辞めるでしょう。ただ現在の公式字幕は往々にして優秀な字幕組に劣ります。だから、まだ字幕組の活動を続ける人がいるのです。すでにコンテンツホルダーと提携し、正規版の字幕を担当する字幕組も登場しました。翻訳会社よりもよっぽどマジメに仕事をします。
(関連記事:アニメ『Fate/Zero』、公式中国語字幕という新たな試み=中国オタの反応は?(百元)

台湾と異なるのは、中国が文化産業発展、そして外国ドラマや日本アニメの開放を声高に叫んでいるとはいえ、主管部局は代理店によるアニメの輸入を許さないことでしょう。個人的にはそうだと考えています。中国の規制は強力すぎるのです。

*小見出しはChinanews。


■日本アニメへのチャンネルをつないだ「違法」ボランティア

字幕組の活動は違法であり、日本のコンテンツホルダーに被害を与えている。また「悪質な海賊版業者とは違う」と自負する理想主義者の人々も、中国海賊版産業に組み込まれており、彼らが作った字幕付きコンテンツが海賊版DVDや動画共有サイトのコンテンツとして再利用されているのだ。インタビューでも触れられている ように、字幕組のメンバーが海賊版業者に字幕を渡して、多くはないとはいえ金銭を得ているケースもしばしばのようだ。

とはいえ、字幕組ボランティアの活動が日本アニメに対する興味をつないだこともまた事実である。記事「快進撃の「正規版」動画視聴サイト・奇芸=レノボ、百度が約240億円を出資へ」でも触れたが、中国政府のアニメ規制により日本アニメは中国のテレビチャンネルからほぼ姿を消した。日本アニメが中国で金を稼ぐどころか、まったく関心を持たれなくなっても不思議ではなかったのだが、彼ら字幕組の「違法」活動が細いチャネルを作っていた。

さらに付け加えるならば、膨大な仕事量(下訳、校正、字幕加工、アップロード、サイト運営……)とオリジナルの公開から24時間もたたないうちに公開されるという驚くばかりの速度を支えていた彼らの熱意、青春が透けて見える意味でも、面白いインタビューではないだろうか。


■字幕版ウィキペディアでは字幕組に勝てない

さて、最後に記事「Viki:字幕版のウィキペディア」についても触れておきたい。Vikiという米国のウェブサービスについては、テッククランチ日本版に紹介記事がある。

世界各国の映画/テレビ番組にボランティアたちが字幕を付けて提供するViKi, $20Mを調達
テッククランチ日本版、2011年10月21日

世界のテレビ番組や映画を100あまりの言語に翻訳して提供しているViKiが、SK Planet、BBC Worldwide、Greylock Partners、Andreessen Horowitz、Charles River Ventures、Neoteny Labsなどから新たに$20M(2000万ドル)の資金を調達した。これでViKiの資金総額は$25M(2500万ドル)になる。  ViKiのビデオの扱い方はオープンソース的で、権利を取得したテレビ番組や映画をそのチャネルの一つに置くと、24時間以内にボランティアのグループが、ViKiのソフトウェアを使って字幕を付ける。

韓国人留学生が創設したVikiは、「正規の版権を取得した動画コンテンツ」をボランティアが訳す、字幕版ウィキペディアとでも言うべきサービス。新しいマーケットの開拓にもつながるとして積極的にコンテンツを提供する企業も少なくないという。と言っても現時点では韓国企業が中心のようだが。Vikiで翻訳された韓流ドラマが米動画配信サイト・Huluで配信されるという興味深い動きもあるようだ。

また運営面で興味深いのは、1本のドラマの字幕を1人が担当するのではなく、細切れにして多くの人が少しずつ協力できるようにしていることだろう。

とはいえ、それでは翻訳の質も速度も字幕組とは比べるものにはならない。Vikiと比較することで、中国字幕組のほとばしる情熱がより鮮明に映し出されるように思う。


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 コメント一覧 (2)

    • 1. 反日国家だから
    • 2013年06月29日 00:58
    • 日本人の漫画家の利益をそこなっていると思います。
    • 2. 夢見る老いぼれ
    • 2013年10月13日 02:24
    • 漫画家の利益を損なっていますが
      将来世界の若者が同じ価値観を共通する事に役立っています
      ある意味日本の文化を世界に無料で広めているわけで悪い事ばかりでは無いとおもえる
      将来、その若者が育った時に今以上に国の垣根が無くなる事を求む

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