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炎上で儲ける中国版フリーミアム「炒作」=大根アニキの逆転劇―中国

2011年12月05日

「タダで大根プレゼント!」と告知したところ、大根どころか、別の売り物の野菜まで略奪されてしまった農民・韓紅崗さん。しかし、「大根の借りはサツマイモで返す」。“中国式フリー”の力で大逆転を果たした。



■前回までのあらすじ
(関連記事:「無料で大根プレゼント」に3万人殺到、売り物まで略奪―中国

河南省鄭州市黄河灘区で農業を営む韓紅崗さん。今年は大根の値下がりが激しく売っても損するばかりということで、一つのビッグアイディアを思いついた。それが「大根無料プレゼント」。地元紙などを通じて、「畑まで取りに来てくれたら、タダであげるよ」と告知した。

ところがところが、その反響は韓紅崗さんの想像をはるかに超えたものだった。大根をゲットするため、ガソリン代も無視してマイカーで駆けつけた市民たち。その数はなんと3万人に達したという。無料大根では飽きたらず、その隣に飢えてあるサツマイモ、ほうれん草、トウガラシまで略奪して帰っていった。盗まれたサツマイモは10トンを超えるという。

良かれと思っての告知がとんでもない結果をもたらしてしまった。これには韓紅崗さんもがっくり肩を落としていたという。


■驚きの大逆転

20111205_写真_大根アニキ_中国版フリー
*画像は信息時報の報道。大根アニキのサツマイモ露店。

というのが前回記事のあらましだが、思わぬ大逆転劇が発生した。2011年12月4日付RFI中国語版を参照した。

「3万人が襲来し、野菜を略奪」のニュースは全国全土で大々的に報じられ、ウェブをかけめぐった。その量たるや「大根無料プレゼント」とは比べものにならないレベルだ。一躍、「時の人」(紅人)となった韓紅崗さんはマイクロブログを開設すると、数日で6000人がフォローするほどの人気となった。

そして12月3日のこと、支持者とメディアの支援の下、鄭州市ボランティアによる「大根アニキ・韓紅崗のサツマイモ露店」イベントが開催された。掘り出したばかりのサツマイモを鄭州市市内までトラックで運び、集まった人に販売するというもの。トウガラシも併売されたようだ。

なにせ爆発的な知名度と同情を集めている「大根アニキ」。多くの人々が集まり、サツマイモは飛ぶように売れた。午前中だけで15トンを完売したというから、まさに恐るべし。品物が足りなくて何度もトラックを往復させたという。

そればかりか、3日午前にはある企業経営者からサツマイモ20万元(約240万円)を購入したいという申し出があったのだとか。これには韓紅崗さんもほくほく顔。「まだ100トンは畑に埋まったまま。明後日には雪が降るだろうから、急いで掘らないと」と喜びを隠しきれないでいた。


■中国版フリーミアム

驚くほどの大逆転だが、前回記事で紹介した南方都市報・賈志勇記者のコラムは、逆転劇を予見していた。

韓紅崗さんは大変な被害を被ったわけだが、ショックを受けすぎることはないと賈記者は言う。もう一度、大根無料贈呈の告知をしなさい。これが最後の無料贈呈であり、混乱によって大変な被害を受けたことをメディアを通じて伝え、銀行口座を公開すれば、今度は無数の心ある市民が義援金を送ってくれるでしょう、と。

韓紅崗さんは「無料大根プレゼントを続ける」とコメントしているし、集金手法は義援金ではなくてサツマイモ販売だったとはいえ、今回の騒ぎが「損にならない」ということを予測していた時点でたいしたものではないか。

一世を風靡したビジネス書『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』では、「無料」によって関心を集めて、その注目をお金に変える「フリーミアム」というモデルを提唱しているが、今回の「大根アニキ」事件はまさに「中国版フリーミアム」の典型というべきかもしれない。


■大根アニキの成功には前例があった

気になるのは韓紅崗さんが「無料告知→略奪→同情」のすべてを計画していたかという点だ。報道によると、大根だけではなくサツマイモも売れずに困っていたという。この大成功を見ると、「すべては計画通り」だったのではないかと勘ぐりたくなる。

というのも、今夏にも「こんなに頑張ってスイカを作ったのに、値崩れして売れないよ!」というマイクロブログのつぶやきで、支持者への直販に成功した例があるからだ。
(関連リンク:「4000トンのスイカが売れ残り=農家の助けを求めるつぶやきに注目集まる」人民網、2011年9月22日)

実はこうしたメディアやネットを通じた「関心の調達」は中国ではよくあること。メディアやネットを通じて、ホットな話題を作り上げることを「炒作」と呼ぶが、ウェブでの工作を担当する広告代理店(俗に「水軍」と呼ばれる)も無数に存在する。


■中国版フリーミアム=「炒作」というビジネス

「炒作」の対象は、あるお店のプラスの評判、ある製品のマイナスの評判、汚職官僚の不正行為、政府の無法な仕打ちから、オモシロ画像やビデオなどまでさまざまだ。盛り上げる動機がわかりやすいものまであれば、動機がさっぱりわからないものまで無数にある。

「炒作」の中でも最大級のヒットと言われているのが「賈君鵬事件」。オンラインゲーム「World of Warcraft」関連のネット掲示板で、「賈君鵬、お母さんが家に帰って食事しなさいと言っているよ」というスレが立ったのだが、これがありえないほど爆発的な話題となった。
(関連リンク:「ネトゲ掲示板で「お母さんが食事だから家に帰れだって」」中国リアルIT事情、2009年8月25日)

後にある広告代理店関係者が「あれは俺たちの仕掛けだよ、大成功だった」と暴露しているのだが、それが最終的に何の利益を生み出したのか、いまだに理解出来ない。あるいは暴露発言の関係者が「あの騒ぎは俺たちが起こしたんだ」とほらを吹くという「炒作」だったのかもしれないが。
(関連リンク:「“賈君鵬”炒作の内幕を暴露=800人を動員し数十万元を稼ぐ」北京青年報、2009年8月4日)


記事「商売の天才・中国人が生み出したミラクルビジネス「蟹券」が面白い」では、「上海ガニを金融化する」というちょっと不思議な中国のビジネス手法を紹介したが、大根アニキの逆転劇に見る“中国版フリーミアム”、ネット炎上をお金に変える「炒作」もまた、中国ならではの面白さを秘めているように思う。


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