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*左:ルーカス・パパデモス、ギリシャ新首相。右:マリオ・モンティ、イタリア新首相。ウィキペディアより。
■EUから送りこまれた、2人のテクノラート(経済専門家)新首相
かつての西洋文明発祥の地ギリシャとイタリアが、国の債務が拡大し、市場からの資金調達が難しくなり、欧州中央銀行、IMF、EUから支援を仰ぐこととなった。
その条件として、もはや自分で責任を果たせなくなったギリシャのパパンドレウ首相、ちっとも変わろうとしないイタリアのベルルスコーニ首相に代わって、両国ともテクノクラート(経済専門家)が、EUからトップに送り込まれた形になった。
■国を堕とした2首相、送り込まれた2人のプロ「経済屋」
パパンドレウ前首相は、祖父、父も首相。父アンドレアスの社会主義的バラマキ政策が今日のギリシャ財政赤字の源となった。
ベルルスコーニ。資本と女性をこよなく求めるこの75歳の前首相は、首相がたびたび代わるこの国でにあって
都合9年間首相を務め、戦争直後のガスペリ首相の7年半を抜き、戦後最長就任記録をたてた。ちなみに断トツで長かったのはムッソリーニ。22年間もの独裁政権であった。戦犯となった東条英機などは、3年弱しか首相を務めていない。
ギリシャの新首相になったルーカス・パパデモスは、ギリシャの中央銀行総裁、欧州中央銀行の副総裁を歴任し、ハーバード大学の客員教授をやっていた金融の専門家である。イタリアの首相になったマリオ・モンティは、ミラノのボッコーニ大学の総長をやり、欧州委員会のコミッショナーも務め、独占禁止案件などで活躍した。
■果たして「経済屋」に政治家は務まるか?
EU、欧州中央銀行、IMFからきつい緊縮策を突きつけられ、国民を説得することができなくなった政治家の両首相に代わり、テクノクラート、教授が首相になったわけだが、さてうまくいくだろうか。
職業政治家でなければ、皆に嫌われがちな政治はこなせないというのではない。テクノクラート首相は、支持基盤が薄い。選挙で選ばれたわけではないし、バックに多数党がついているわけでもない。さっそく、イタリアのベルルスコーニなどは、「自分の国に対する政治的関心を片隅に置くつもりはない」と息巻いている。
■求められる能力の違い
また、学者、テクノクラートの資質と、政治家の資質は違う。政治家に求められるリーダーシップ、やりくり、人間間の利害調整の能力などは、テクノクラートの分析、論理の積み上げ、適正解の抽出といった知的作業とはやや異なる。
パパデモスの同僚だったハーバード大学のジェフリー・フランケル教授は、偉大な大統領だったジョージ・ワシントンも、ドワイト・アイゼンハワーも「そう知的(インテレクチャル)ではなかった」と発言している。
■専門家に頼らざるを得ない窮地、成功の実例も
もっとも、今度のテクノクラート首相は、選挙で再選される必要もないし、EUの後押しで(はざ間に立つかもしれないが)、思い切りメスをふるえる立場にはある。というより、こういった人間にしか任せられない事態に陥ったと
いう方がいいのいいかもしれない。パパデモスの場合、「3ヶ月の執行期間をもう少し長くしてくれ」、「何人かの閣僚を自分に選ばせてくれ」という要望は否決されてしまったが......。
先のジェフリー・フランケルによれば、テクノクラートによる成功例もみられるという。1993年から1年間イタリアの首相になった、イタリア中央銀行総裁だったカルロ・チャンピは、時の欧州為替メカニズムから脱落してしまったイタリアのインフレを抑え、再び軌道に乗せることに成功した。
■「職人」の補修工事に期待
ギリシャとイタリアのふたりのテクノクラート新首相。外国では業績に対する知名度もあり期待は高いが、相手にするのは、それぞれの国民である。
たいへん難しい役柄だが、現在、地球丸の一部に大きな穴が開き浸水している状態である。その専門的な職人技を駆使して、ぜひとも沈没の危機から救ってもらいたいものだ。
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*当記事はブログ「チェンマイUpdate」の許可を得て転載したものです。