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「がんの村」の悲鳴=「今じゃないよ、800年前の汚染だよ」と官僚は弁明―中国

2011年12月09日

江西省景徳鎮市楽平市に「がんの村」がある。村民の多くが病気で命を落とし、畑は重金属汚染で荒れ果て、川からは魚が消えた。しかし、上流の鉱山企業及び地方政府は惨状の責任を認めようとはせず、「800年以上前の、唐宋時代の汚染でしょう」とうそぶいている。


Water Pollution with Trash Disposal of Waste at the Garbage Beach
Water Pollution with Trash Disposal of Waste at the Garbage Beach / epSos.de


2011年12月8日、京華時報が伝えた。


■がんの村

楽平市名口鎮戴村は、汚染に悩まされる「がんの村」だ。2800ムー(約187ヘクタール)以上の耕地でもう農耕ができない。またここ20年弱というもの、同村から兵士になった者はいない。身体検査で不合格になるからだ。

この村では毎年4~5人ががんで命を落とす。現在分かっているだけでも70人以上ががんを患っている。昨年9月のこと、11歳の子どもが病気になったため上海の病院で検査を受けた。診断は「糸球体腎炎」。医師は「今後は絶対に村の水を飲んではいけない」と話したという。

問題は楽平市を流れる楽安河の汚染にある。河の両岸は黄色く染まり、その脇には作物を作れなくなり、荒れ果てた農地が広がっている。市政府の調べによると、楽安河周辺の村は地下水まで飲用できないレベルに汚染されている。また肝臓病発病率も他地域より高く、血液検査でも基準値に満たない地域が多い。


■上流の汚染源

楽平市政府は、江西省上饒市徳興市の鉱山が汚染源だと指摘している。徳興市では1970年代より有色金属の生産が始まり、現在では年間6000万トンの汚水が排出されている。その排水には重金属など20種類以上の汚染物質が含まれており、公害をまき散らしているという。

徳興市の鉱山企業は、“一応”、環境被害に対して補償金も支払っている。しかし、2001年に楽平市政府と徳興市鉱山企業の間で交わされた「農地賠償協議」は、20年前の調査に基づいたもの。そのため、補償金は年わずか18万元(約216万円)しか支払われない。公害の被害地域に住む人口は40万人以上。1人あたり0.5元(約6円)にも満たない。


■汚染はご先祖様が生み出したもの、自分たちの責任ではない

さらに驚くべきは、徳興市政府及び同市企業は、汚染の原因は自分たちにはないと主張していることだ。汚水処理施設を完備しており、排出している汚水は基準に合致したものだと説明している。しかし、現実に河は重金属など汚染物質であふれている。

その理由を説明するロジックがなんともすさまじい。曰く、徳興市では唐宋時代より銅採掘の歴史がある。その古代の坑道こそが汚染の原因なのだ。これが徳興市側の主張である。


■「責任は唐宋時代に」、新たな流行語へ

「汚染の原因は800年以上前の唐宋時代にあり」というオモシロすぎる言い訳は、報道されるやすぐにたちまち注目を集め、ネット民の揶揄とメディアの批判の対象となった。

先日、記事「「事故ではない。『破壊的実験』だ」高架橋崩落事故で官僚がスゴすぎる言い訳」で、官僚のトンデモ言い訳をご紹介した。高架橋の崩落事故を「事故ではない。「破壊的実験」だ」と強弁するというものだが、今回ご紹介する「言い訳」もトンデモ・レベルではそれに匹敵するもの。被害は比べものにならないぐらい大きい。

数日内にも、「テストの成績が悪くてごめん、母ちゃん。でもその責任は唐宋にあるんだ」などと応用を利かす「唐宋体」(唐宋文体)が登場するのではないだろうか。


■環境問題をめぐる複雑な利害関係と対立構造

上流の自治体が環境経費を節約するために汚水を垂れ流す。下流の自治体が公害で悩むという状況はそんなに珍しいものでもないようだ。本サイトでも黒竜江省鶏西市の事例を紹介したことがある。
(関連記事:昔ながらの商売「水売り」がある街=汚すぎて使えない水道水―中国

地方自治体の利害調整には上級部局の介入が必要となることが多い。今回は徳興市の上級政府が上饒市、楽平市の上級政府が景徳鎮市と違っていたことで、調整が難しかったという側面もありそうだ。

大連の化学工場移転デモ、あるいは北京市の大気汚染問題が代表的だが、今、中国では環境問題が人々の関心を集めるようになってきた。民主化運動よりもよっぽど切実な健康、命にかかわるだけに、より多くの人が興味を持ちやすいトピックだからだ。

一つ注意しておくべきは、環境問題で表出する対立の構造は、政府対住民、企業対住民だけではなく、自治体対自治体、あるいはA市の住民対B市の住民にもなりうるということ。地域、階層、職業など複雑な利害関係の構造をどのように紐解き、調停していくのか。中国にとっては新たな智慧が必要となる問題だろう。



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