中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年12月15日
H1N1 vaksine / Haukeland universitetssjukehus
■中国のB型肝炎キャリア差別
重慶ビール株式有限公司はその名の通りビールメーカーだが、同社の株価は子会社・重慶佳辰生物工程有限公司のB型肝炎ワクチン開発によって支えられてきた。
中国ではB型肝炎ウイルスが蔓延している。1992年から1995年の時点では、全人口の10%がウイルスに感染していたとの研究もある。2006年の研究では7.18%にまで下がっているが、それでも相当数がウイルス保有者であることは間違いない。もっともB型肝炎は発症しなかったり発症しても自然治癒するケースが多いため、治療が必要な患者は約3000万人と見られている。
B型肝炎ウイルスの持続感染者となった場合、現時点では完全にウイルスを体内から排除する手立てはない。輸血や注射針の使い回しをしないかぎり他人を感染させるリスクは少ないとはいえ、中国ではB型肝炎持続感染者への差別が根強いこともあり、根本的な治療薬の開発が期待されている。
■臨床試験の驚くべき結果
重慶ビールは1998年から新薬開発に取り組んできた。2008年に「新薬完成間近。2~3年以内に販売へ」と報じられたことから株価は急騰。2008年12月31日時点では13元(約156円)だったのが、2011年時点では70元(約840円)弱という高値を付けていた。
12月7日、重慶ビールはB型肝炎治療薬の第2期臨床試験結果を公表した。二重盲検法による試験で、新薬と偽薬の効果には統計的に有意な差が認められないとの結果が出た。
もっとも新薬を投与されたHBe抗原陽性無症候性キャリアのグループも、偽薬を投与されたグループも、ともに30%前後が、ウイルス検査で陽性から陰性へと変化している。偽薬と効果に差がないとはいえ、30%に効果が認められるとあれば十分、薬として意味がある数値であり、検査自体に問題があった可能性もあるという(財新網)。
■「風説の流布」
臨床試験結果が発表されたのは12月7日だが、重慶ビールの株価は11月中旬から奇妙な動きを見せていた。24日から急に値を上げ、83元(約996円)にまで上昇。28日からは重要発表前で取引停止となり、12月8日の取引再開後は連日のストップ安。40元(約480円)代前半とほぼ半値にまで急落した。
臨床試験の結果が望ましいものだったとの噂を市場に流す「風説の流布」があったとも見られている。財新網の主席証券記者・李箐氏は、公開調査するべきだと呼びかけている(財新網)。
この11月、12月の問題もさることながら、より長期にわたる問題も考えるべきだろう。2008年以来、証券アナリストは重慶ビール新薬の可能性を喧伝し、株価つり上げに協力してきた。2年間で約6倍にまで株価は上昇しているが、この間に繰り返された「暴騰」は証券アナリストの推薦やレポートによるところが大きいという。
■関連リンク
「重慶ビール事件の公開調査を始めるべきだ」財新網、2011年12月13日
「重慶ビール・ワクチンの困惑」財新網、2010年11月15日
「打ち砕かれた重慶ビール・ワクチンの夢=株取引停止前に機関投資家は脱出」財新網、2011年12月8日