中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年12月16日
*画像は捜狐の報道。13日、在ソウル中国大使館前の抗議活動。中国国旗を噛み破った一幕。他写真多数。
■環球時報社説が書かれるまで
2012年12月12日、韓国の近海で違法操業していた中国人漁民が、韓国海上警察の取り締まりに抵抗し、海洋警察官1人を刺殺、1人を負傷させる事件が起きた。
(関連記事:中国漁船船長、韓国海洋警察官を殺害=黄海の「漁業戦争」)
中国漁船の違法操業、摘発への暴力的抵抗は珍しいことではなく、ここ5年で韓国海上警察官2人が殉職している。とはいえ、人命に関わる一大事であったこと、「韓国側は人道的な対応を」と中国外交部の「逆なで」コメントがあったことなどを受け、韓国は敏感に反応し、抗議団体による中国大使館前でのデモ、韓国紙の「煽り気味」報道へとつながった。
(関連記事:【写真】中国国旗を燃やし大使館に車で突撃=激怒する韓国人と中国の反応)
こうした韓国の「激烈な反応」をなだめるといった体で書かれたのが14日付環球時報社説「韓国无需証明自己“不容欺負”」(韓国は「侮りに甘んじない」と証明する必要はない)である。
■ニュアンスをとれていない日本ウェブメディア
この社説については、本サイトでも記事「「中国の漁民がルールを守れるはずがなかろう!」環球時報のスゴい社説―中国(水彩画)」で扱った。他にレコードチャイナが「中国人は貧しく素養が低い、韓国はどうか寛大な心で理解を―中国官制メディア」、サーチナが「韓国社会よ、貧しき中国漁師に同情を―人民日報系メディア」というタイトルで報じている。
ところがタイトルを見ても分かるとおり、本サイトが指摘したような「逆なで感」についてはレコードチャイナもサーチナも伝えていない。むしろ「韓国さん、同情してください」ととれるようなタイトルだ。ちなみに韓国メディアにはちゃんとこの「逆なで感」は伝わっている。
(関連リンク:「<中国の違法操業>「大したことでもないのに…」中国メディア」中央日報、2011年12月15日)
さらにタイトルの「韓国は「いじめを甘んじない」と証明する必要はない」の意味を外している。レコードチャイナは「韓国は自分たちが「馬鹿にする者は容赦しない」ことを中国に証明する必要はない」、サーチナは「『侮辱は許さない』ことを示す必要はない」と訳しているが、中国人の心性を考える上できわめて重要な「欺負」という言葉を理解していないのではないか。
■中国人の心性を理解するキーワード「欺負」
「欺負」(いじめる、ばかにする、あなどる)は、中国人の心性を読み解く重要ワードであり、中国のニュースやドラマ、映画を見る上でも欠かせない。一番理解しやすい例はブルース・リーの名作『ドラゴン怒りの鉄拳』ではないだろうか。
「東亜病夫」という侮辱に激怒したブルース・リーが、たった一人で日本人道場の門弟たちを壊滅させる。「中国人は侮りを受ける存在ではない」と証明したわけだ。近代以降の中国史は、まさに外国人の「欺負」を跳ね返す歴史として中国では受け止められている。
対外国以外でいうと、地主やら豪商やらが貧乏人をいじめ、ひどい仕打ちをするのも「欺負」だ。これは立派な罪であり、清朝の裁判記録を読むと「貧乏人が暴力事件を起こしたことはよろしくないが、原因が金持ちの「欺負」であったことは酌量の余地がある、云々」という判決文が山のようにある。
そればかりか、地方反乱、暴動のいった類でも、「皇帝の威光が行き届いている中国でなぜ民草が反乱を起こすのか。それは地方官僚が民草を「欺負」したからである」との物語でオチをつけていることがしばしばだ。ことほどさように、「欺負」という言葉は中国において特別な文脈を持っているのである。
*画像は環球網の報道。中国漁船の模型を打ち壊す抗議団体。他写真多数。
■環球時報社説に見る「大国意識」
ならば、環球時報が「欺負」という言葉をどう考えるべきか。それはむき出しになった大国意識であろう。韓国のデモやメディアの猛反発が、かつての中国で見られたような大国の強引な態度に対する反発、ブルース・リーの鉄拳のようなものであると解釈しているわけだ。その背後には、いじめられる立場からいじめる立場へと中国の地位は変わったのだという大国意識が見え隠れする。そして「韓国は小国だよね」という意識も、だ。
環球時報社説は韓国人をなだめる体で書いているが、結局のところ読者は中国人。大衆紙的性格を発揮して、中国人読者を喜ばせる方向に流れ、結果、「逆なで感」大爆発の記事になってしまったのだろう。
■パロディで環球時報の傲慢さを批判する中国記事
当然、韓国的にはかちんと来る内容だが、人を殺しておいてよくもまあ「逆なで」社説を書けるものとあきれている中国人も少なくない。
その中でも、騰訊網ニュースチャンネルのコラム編集者・丁陽氏が、サイト編集後記欄に秀逸なパロディ記事「権貴无需証明自己不容欺負」(金持ちは「侮りに甘んじない」と証明する必要はない)を書いていたので、ご紹介したい。
金持ち世論は、泥棒が引き起こした金持ち一家お抱えの警備員「刺殺」事件について、昨日も激烈な議論を続けていた。同時に金持ち代表は乞食集住区において、乞食・泥棒を打つべしとの声を上げている。金持ち社会の受けた傷と屈辱は驚くべきもの。揉み合いの中、ガラス片で警備員を「刺殺」した貧しい泥棒を、まるでマフィアか土匪のように扱っている。これは、乞食の金持ちに対する態度について深刻に読み誤ったものである。
(…)ここ数年、金持ちは乞食・泥棒に対する処罰を強化し、罰金を数元にまで引き上げ、一部の乞食を徹底的に破産させた。金持ち社会はこれで憂さ晴らししたようだが、乞食たちの悲しみ、さらには拘束に対する反抗の衝動を理解していない。金持ちたちよ、考えて欲しい。誰もやりたくて金持ち警備員と争っているわけではないのだ。もし別の方法があるならば、乞食たちはこんなことをするだろうか?
(…)金持ち社会が事件当初の激情から速やかに平静さを取り戻すことを心より希望する。乞食と金持ちの間には戦略的衝突はない。具体的な問題は協議し、妥当に処理するべきだ。金持ちは今回の事件を通じて乞食たちに「侮りに甘んじない」と証明する必要はないのだ。金持ちたちのプライドについて、乞食たちはよく理解している。
【韓国海洋警察官刺殺事件】
「中国は大国、韓国は小国」傲慢社説の真意=海上警察官刺殺事件
「中国の漁民がルールを守れるはずがなかろう!」環球時報のスゴい社説―中国(水彩画)
【写真】中国国旗を燃やし大使館に車で突撃=激怒する韓国人と中国の反応
怒る韓国メディアと逆ギレした中国=中国漁民が海上警察官を刺殺
中国漁船船長、韓国海洋警察官を殺害=黄海の「漁業戦争」
しかしながら今回の記事では、多くの示唆を受けながら、特に興味深く読みました。
「欺負」という単語がなければ環球時報の記事も、「中国漁民は貧しいのだから、少々の違法操業くらいは韓国も多めに見てくれよ」という意味になるのでしょうが、「欺負」という単語が含まれることで、「東夷の韓国が吠えている」的に嘲笑・冷笑する雰囲気になるのでしょうね。
中国・韓国・日本の東アジア文化圏は非常に似ていると思いますが、単発的に「欺負」的なテーマは取り上げられるものの、やはり日本のドラマは「おしん」であり、韓国のドラマは「正統」がメインテーマになることが多いと思っています。
(具体的に言えば、日本は個人の苦労がメインテーマであり、韓国では苦しい立場におかれた主人公が徳(五常:仁・義・礼・智・信的なもの)のを守って困難に打ち勝っていくという筋立てが多いと感じます)
さて今回の記事ですが、
> 「サーチナが「韓国社会よ、貧しき中国漁師に同情を―人民日報系メディア」というタイトルで報じている。」
の部分に使えないリンクが張られています。
また、
> 「<中国の違法操業>「大したことでもないのに…」中国メディア」中央日報、2011年12月15日
の部分では全体が青文字になっていますので、リンクを上記見出し全体に適用した方が参照しやすいのではないかと思います。
そして文章後半の
> 泥棒が金持ち一家警備員「刺殺」事件について
は「泥棒が引き起こした金持ち一家警備員「刺殺」事件について」などとした方が意味が通るのではないかと思います。