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2011年12月16日
■アジアの大動脈メコン
2011年12月5日のタイ国王の84回目の生誕日に、ラオス国境のプーチーファーの断崖に登ったついでに、チェンコーンからチェンセーン(ゴールデン・トライアングル)まで、メコン川沿いに走って、チェンラーイに戻った。臨む大河メコン川は、中国のダムの影響か、雨季明け間もないのに心なしか水量が少ないように見えた。
メコン川は、チベット高原の高さ5000mの地を水源に、中国雲南省、ラオス、ビルマ、タイ、カンボジアを通り、ベトナムのメコン・デルタに抜けるインドシナきっての大河である。全長は4000kmにまで及ぶ。
■ラオスが建設を目指す「サヤブリ・ダム」
ここで今、ラオスが建設を目指す「サヤブリ・ダム」の賛否を巡って、国際的にもめている。資源に乏しい山国ラオスは、水力発電が主要な輸出品だ。下メコン(ラオス・ビルマ以南)に、35億ドル(約2720億円)をかけて、発電量1260メガワットのサヤブリ・ダムの建設準備にすでに入っている。サヤブリが通れば、さらに10のダムを作る予定だといわれる。
なお、上メコン(中国)にはすでに1996年に建設された漫湾ダム(発電量1500mw)など、3つの中国国内のメコン本流上のダムがある。なお12のダム建設計画があり、下流の国々を大いに心配させている。こちらは規制できないのだろうか……。
■環境問題の懸念
メコン川でのダムの環境問題としては、以下の点が懸念されている。
(1)水量が減ることにより、カンボジアのトンレサップ湖やベトナムの穀倉メコン・デルタへ十分な水が行かない時期が出ること。流域住民6千万人の生活にかかわる問題である。また川の汚染の問題もある。ベトナムは、早くから反対している。
(2)メコン川には1200種の魚類が生息し、120の魚が流域住民の主要な蛋白源になっている(チェンコーンで食べたメコン川の魚は、うまかったなあ)。中国のダム建設で見られたように、水位の低下により、漁獲量のいっそうの低下が心配される。
また、メコン川を多くの魚が産卵のためにプノンペンあたりまで遡ってくるが、これも難しくなる可能性があるといわれる。メコン川は魚類、爬虫類、哺乳類の宝庫だが、乱獲で減った「メコン大ナマズ」や「メコンイルカ」は絶滅の危機にあるといわれる。
■ラオス政府とMRC(メコン川委員会)の軋轢
メコン流域の環境・発展を守るために、古く1957年から「MRC」(メコン川委員会)が、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの関係4カ国の政府間協議機関として存在する。強制力はないが、1995年の取り決めで、4カ国の合意で物事を進めようという政府間委員会となっている。
2010年には、委員会の委嘱を受けた2つの調査機関から「11のダム建設は、深刻で非可逆的な環境破壊を生み出すおそれがあり、10年は延期し、いっそう調査することが望ましい」との結論を得たが、その後、MRCは、「このレポートは公式のものではない」と跳ね除けている。
2011年になって、「USAID」(米国国際開発局)は、ポートランド州立大学に研究を依頼したが、「この計画はコストが便益をはるかに上回り、2470億ドル(約19兆2000億円)のマイナスが出る」と結論付けられた。
今年2011年も、4月にサヤブリ・ダム建設の是非を巡ってMRCで協議が行われたが、「より調査が必要」との結論で、賛成は先送りされた。
しかし、その後ラオスは5月にスイスのポイリー・エナジー社を雇い、「ダム建設は進めるべきだ。ネガティブな影響は、建設後でも修復可能だ」との結論を出させ、推進しようとした(このレポートは、グリーンウオッシュ、環境配慮のごまかしとして退けられたが……)。
■注目されるのは融資元であるタイ
そして、この12月7(水)~9日(金)の3日間、カンボジアのシェム・リアップで再びMRC会合が持たれた。結論は、今回もなお調査が必要とのことで、承認は持ち越された。環境保護団体やベトナムが望んでいる「10年間延期」まではいたらなかった。しかし、すでに準備に入っているラオスは、委員会に強制力はないので建設を進めるかもしれない。
ポイントはタイの出方である。タイの「EGAT」(タイ発電公社)が、このダムの発電量の95%を買うことを6月にサインしており、ダム建設はタイの会社が、資金はタイの銀行が融資することになっているからだ。タイは、そういう関係だから、基本OKの立場で来た。
そもそも、タイの流域8地域のグループは、タイ側の建設決定が、公聴会なしに閣議承認だけで決められたと(時の政府は民主党)、建設の中止を求めている。住民の声を聞く公聴会を開けと圧力をかけているのだ。
タイのインラック政権が今後どう出るか、注目される。守って欲しいなあ、メコン川の生態系。
Laos Sunset / Paul Stevenson
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*当記事は2011年12月10日付ブログ「チェンマイUpdate」の許可を得て転載したものです。