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2011年12月17日
*土豆網、テレビ東京特設ページ。
■大手動画共有サイトの戦争勃発
16日、土豆網と台湾・中天電視台は記者会見を開き、優酷網に1億5000万元(約18億円)の賠償を求める方針を明らかにした。同時に政府関連部局にも通報したという。問題となったのは中天電視台制作の人気バラエティ番組「康煕来了」。土豆網は同番組を含む中天電視台制作のバラエティ5番組の版権を取得した。契約期間は2011年12月1日から翌年11月30日の1年間。
優酷網には、土豆網が版権を取得した期間の「康煕来了」が公開されている。ユーザーがアップした海賊版とはいえ、優酷網はバラエティチャンネルのトップページにリンクを掲載しユーザーを誘導していたという。該当の動画の再生回数はなんと2億4000万回に達しているという。警告したにもかかわらず、優酷網が版権侵害を辞めなかったというのが土豆網の主張だ。
一方の優酷網はというと、韓国の人気番組「強心臓」「人気歌謡」「スター夫妻ショー」「Star King」(いずれも中国でのタイトル)の正規版権を取得したのに、土豆網はその海賊版を公開しているという、相手側とうり二つの主張だ。韓国コンテンツばかりか「武則天秘史」「後宮」など版権取得済み中国ドラマ60作品、さらには優酷網自主制作の番組「老男孩」の海賊版まで、土豆網が盗んでいると批判した。
■ネット動画に正規版権の波
以前にも取り上げたことがあるが、中国動画共有サイトには正規版権取得の波が押し寄せている。優酷網や土豆網など、Youtube型のユーザー投稿による動画共有サイトは、「ユーザーが勝手にアップしたものだから、海賊版だろうがなんだろうがうちには責任はない」という「避風港原則」を強弁する立場だった。しかし、その後、映画会社など中国の権利保有者による訴えや文化産業育成を目指す政府の方針から次第に正規版権を取得する動きが広まっていた。
もっともこれまでは中国権利保有者対動画共有サイトという構図で、しかも外国のコンテンツが問題になるケースは基本的になかった。それでも動画共有サイトは海外コンテンツの版権取得を進めていたのだが(同時に版権をとれなかったコンテンツの海賊版アップは黙認。あるいはサクラにアップさせていた)、大手プレイヤーが相当数の版権取得に成功した今、ついに動画共有サイト戦争の火ぶたが切って落とされたという次第だ。
■日本アニメへの影響
今回、土豆網は台湾の超人気バラエティ番組を戦いのネタとしているが、同サイトは先日、「NARUTO」「銀魂」など、テレビ東京の版権を取得したばかり。このまま戦いが広がっていけば当然、優酷網及びその他サイトにアップされているテレビ東京アニメの海賊版も訴えることになるだろう。
実は土豆網はすでに動きを見せているという。中国には字幕組(ファンサブ)と呼ばれる「海賊版動画に中国語字幕をつけるボランティア・グループ」が存在するのだが、ネット掲示板情報によると、版権侵害だとしてサイトから動画を削除させられた事例があったとの書き込みがあった。
知的所有権意識は皆無だが、自分の好きなアニメを人にも見せたい、好みの字幕組がつけたアニメを楽しみたいという人々はちょっとしたパニック状態となっていたようだ。
外国企業がいくらがんばっても海賊版は一向になくならないのに、中国企業とタッグを組んだ瞬間にいきなり情勢が変わるというのはちょっと勘弁して欲しいような気もするが、日本のコンテンツホルダーが中国動画配信サイトに版権を売れば、海賊版を抑制できる可能性が出てきたことには注目するべきだろう。
■動画サイト戦争と日本コンテンツホルダーの決断
毎日経済新聞によると、優酷網のアクセス数のうち20%は日本アニメによって占められているという。ユーザーの数以上に、アニメはアクセス数、ひいてはサイトの広告収入に貢献している。まあ、話数の多さで考えれば当然かもしれないが。「NARUTO」などすでに400話以上あるため、1人のユーザーが全部見れば400回の閲覧となるからだ。
それだけ重要なコンテンツだけに版権取得戦争が広がれば、土豆網に負けずに優酷網も日本アニメの版権を奪いに動くのは必至。となれば版権料の上昇も期待できる。優酷網、土豆網以外にも、奇芸、捜狐、酷6網など、ともかくプレイヤーの数が多い中国IT業界だけにひとたび競争が始まれば、どこまでも過熱していくことは間違いない。
日本のコンテンツホルダーも安いとはいえ一定の版権料が得られ、かつ無秩序な海賊版の蔓延を抑止できるとあっては、真剣に検討するべき時が来ているのではないか。中国市場に限れば、動画視聴サイトに版権を売るのが得策のように思えるが、日本側が懸念しているのは中国以外への影響だろう。なにせネット配信は便利すぎる。
土豆網では400話以上の「NARUTO」がすべて公開されており、好きな時に好きなだけ、しかも無料で見られるのだ。日本からのアクセスは遮断するようになっているが、少しコンピューターの知識があれば規制を回避することはたやすい。中国市場で小銭を稼ぐために、メインの日本市場を失ってはたまらないという不安は間違いなく存在するはずだ。
とはいえ、現在の日本でも海賊版コンテンツはごろごろ転がっている。中国に売った場合のリスクがどれだけのものになるのか慎重になる必要があるとはいえ、決断すべき時期が近づいている。
■関連リンク
財経網、2011年12月16日
毎日経済新聞、2011年12月16日
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