中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年12月20日
2011年12月19日、広州日報が伝えた。
*画像は都市晩報の報道。生後100日時点で広告用に撮影された八つ子。
■3人の母から生まれた八つ子
広東省広州市に住むLさん夫妻。ビジネスで成功し経済的には恵まれていたが、子どもが出来ないことが悩みだった。中国では体外受精を含む不妊治療が普及しており、治療を受けることはもはや珍しいことではない。2008年のデータだが、1988年に初の「試験管ベイビー」が誕生。北京市だけで20年間に6000人が生まれた(レコードチャイナ)。
Lさん夫妻も体外受精にチャレンジしたところ、卵子8個すべての受精に成功した。通常ならば、そのうちもっとも状態のいい受精卵を選んで子宮に戻すのだが、Lさん夫妻の判断は違った。Lさん妻に3個を戻したほか、2人の代理母を雇い、それぞれ3個と2個の受精卵を預けた。3人の女性のお腹で育てられた受精卵はすべて無事に育ち、3人の母親から八つ子が生まれるという不思議な現象が生じることとなった。
■保母さんが11人いる!大家族の生活
一挙に大家族となったLさん夫妻。なんと11人の保母さんを雇って子どもの世話をしてもらっているという。赤ちゃん1人に保母さん1人。さらに掃除、洗濯担当の保母さんが2人。調理担当の保母さんが1人という構成だ。1歳を迎えた後には幼児教育教室に通っているが、妻と保母さん8人、そして8人の赤ちゃんが大行列で出発する。移動のために専属運転手も雇っている。1歳段階で教育を受ける子どもが他にいないこともあって、八つ子だけのクラスになっているという。
八つ子を産み、育てられるのはもちろんLさん夫妻の経済力のたまものだ。体外受精及び代理母にかかった費用はゆうに100万元(約1200万円)を超えるものと見られる。さらに11人の保母さんの給料や子どもたちの衣食、病院費、教育費は月10万元(約120万円)を超える計算だ。
■代理母出産の「抜け穴」
中国には「一人っ子政策」があるとはいえ、さすがに双子や三つ子などの多胎児への罰則規定はない。そして、代理母を使った八つ子というイレギュラーな事態についても想定されていない。
不妊治療に関する法律「人類補助生殖技術管理弁法」(2001年)では代理母そのものを禁止しているが、同法は医療機関及び医療関係者を対象としたもの。依頼者や仲介業者を罰するものではないため、インドやタイなど国外で代理母を雇うなどの「抜け穴」が存在する。
中国の「代理母ビジネス」はすでに相当な規模を備えているという。中には「120万元(約1440万円)で男児出産を保障」という触れ込みの仲介業者もある。複数の代理母に妊娠させ、女児とわかった時点で中絶させるという恐ろしい手口だ。
(参照リンク:「中国本土の代理出産業界の混沌=120万元で男児出産を保障」世界日報、2011年12月3日)
■八つ子報道がもたらしたもの
今回の八つ子報道は多くのメディアに転載され、注目を集めている。ポイントは2つある。第一に「人工授精技術を使って生まれた多胎児は、「一人っ子政策」の規制に引っかからないのか」という点。この抜け穴が多用されれば、高額な費用をまかなえる富裕層は多くの子どもを持てるようになる。
第二に生殖技術の倫理性だ。中国に限らず、科学技術がどこまで人間の生に関与することが許されるのかという倫理問題は大きな課題となってきたが、改めてこの問題がクローズアップされた。先に述べたように、体外受精・代理母出産は中国ではビジネスとして広がり続けている。それは許されることなのか、政府がなんらかの対応を示すべきなのではないか、議論は広がっている。