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2011年12月20日
*2011年10月9日、人民大会堂での辛亥革命100周年記念大会で存命をアピールした江沢民。一部日本メディアでの死去の大誤報も大きな話題を呼んだ。
■江沢民が序文を執筆した『指導幹部外事用語シリーズ』が刊行
『指導幹部外事用語シリーズ』(幹部向け外交用語シリーズ)が外交部参加の世界知識出版社から出版されました。その出版発表会が魚釣台国賓館で行われ、戴秉国国務委員(外交担当)を筆頭に党中央、政府機関、解放軍の責任者、外交部の古参同志らが出席しています。
同書は幹部の外国語レベルの向上と外交活動の拡大を目的として発行され、中国の歴史、政治、経済、文化などの情報が、英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、日本語、アラビア語、スペイン語、イタリア語、ルーマニア語の9言語の対訳付きというもの。
中国はここ数年対外宣伝活動に力を入れており、ニューヨークのタイムズスクウェアに新華社が巨大広告を出すなど、巨額の予算を投じています。六中全会でも再確認されましたが、ただの本にしては物々しい数の出席者と顔ぶれですね。
■楊潔篪外交部長が序文全文を読み上げ
それもそのはず、楊潔篪外交部長が同書の序文は江沢民に書いてもらった事を明かし、全文を読み上げたのです。
江沢民の序文「幹部は外国語学習に努力せよ」(新華社、2011年12月17日)
素晴らしい中華文明や中華民族精神を世界に広め、理解させるには外国語だろう、お前ら外国語ちゃんと勉強しろよ、と書かれています。
江沢民は1950年代にロシアに留学していましたので、ロシア語は話せるはず。メジャー言語の中でルーマニア語が入っているのも、江沢民が話せるからなのでしょう。江沢民は1970年代にルーマニアに1年間滞在しており、意外と海外生活の経験はあるのです。
そうした自身の経験から、「間接的な言語交流よりも、直接的な言語交流の方がいい。幹部諸君には翻訳ではなく全面的な言語交流を求める」と、何故か上から目線。江沢民自身が現役時代にどこまで外国語を使いこなしていたのかはさておき、希望ではなく要求なのがポイント高いです。
■江沢民の存在を改めて強調するねらい
また、2001年、2002年と李嵐清(当時常務副総理)が省級幹部(閣僚級)の外国語学習を組織した事に触れ、「大変に支持している」と、何故か現役時代の昔話。序文は1300字近くありますし、9月28日と日付も記してあるので、江沢民の存在を改めて強調する狙いがあるのでしょう。
序文の最後に「曾培炎同志(前副総理)に依頼し、我が国の基本状況を紹介する資料編纂を、外交部の同志には部門別に編纂して指導幹部が外国語教本に使えるようにしてもらった。非常に意義と必要性のあるものだ」とありますので、同書は江沢民主導でまとめられたのは間違いありません。だからルーマニア語がごり押しされたんですね。
■最後までアピールを続ける漢
江沢民は11月にも自らの提案でまとめられた、『中国電気工業発展史』でも序文を書いており、表には出てこなくても、過去の栄光と子飼いを使って、これからも死ぬまでアピールと続けていくのだと思います。
(関連記事:江沢民が新聞、テレビで健在をアピール=次期人事介入への野心めらめら?!(水彩画))
曾培炎の現役時代の担当は経済で外交ではありませんが、息子の国外情報流出疑惑で危なっかしくて使えない銭其シンや、引退したとはいえ日中友好協会会長に就任するなど外交畑でまだまだ現役な唐家センではなくあえて曾培炎をチョイスしたのは使いやすいからに他なりません。曾も江沢民の期待に応えて、かいがいしく働いています。
■いまだその力衰えず?
『中国電気工業発展史』は江沢民の専門分野ですから手がけるのもわからなくはないのですが、直接関係ない外交部の単語帳にまで手を広げているというのは、外交部にまだまだ影響力を保持しているという証左でしょうか。
『指導幹部外事用語シリーズ』出版(新聞聯播)
本日の新聞聯播で、発表会の様子がうかがえました。肝心のシリーズは本当に単なる用語集みたいですね。曾培炎歴史とか政治とか中国の状況まとめ損。どこに使ったのやら。まあ、江沢民がやれることなんて、実情はこんなものでしょう。
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*当記事は2011年12月17日付ブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。