中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年12月22日
Bangkok / laurinkofler
タイは所得格差の大きい国である。他の東南アジアの国々より貧富の差は大きく、中南米並みであるといわれる。タイにおける黄シャツと赤シャツの対抗は、階級闘争的な一面も見せる。
所得分配を統計的に処理し、所得の偏在性を示す「GINI係数」(イタリアの統計学者ジニが考案。0に近いほど平等、1に近いほど不平等)において、「UNDP」(国連開発プログラム)の調査によれば、タイは、1980年代に格差改善をみせたフィリピンやマレーシア(0.43ほどに)を抜き去り、90年代以降0.53ほどと、非常に高い不平等さ維持している。
■他国と比べ突出して大きいタイの格差
OECDによれば、先進国の所得格差も、90年代以降拡大しているが、それでも2008年で、ジニ係数は0.26(スウェーデン)から0.38(アメリカ)の範囲に留まっている(日本は中間の0.33)。
もっと判りやすく言うと、タイではトップ20%の高所得者の収入は、ボトム20%の低所得者収入の平均12.8倍(2008年、UNDP調べ)にものぼるということだ。タイには、10バーツ(約25円)、5バーツ(約12円)の差にこだわって暮らしている人もいれば、平気で何百万、何十万バーツ(100万バーツ=約249万円)を使う金持ちもいる。
この「リッチェスト5分の1/プアレスト5分の1」の貧富差比率は、東南アジア諸国でも9~11倍、欧米では4~8倍といわれるから、タイの貧富の差はあまりにも大きい。
street beggar / huipiiing
■20年たっても変わらぬ状況
UNDPのタイの所得5階層分布(所得の上から2割ずつの人口5階層毎の、手にする所得の全体に占める割合%)だと、1988年、2008年の数字は以下の図のようになっており、過去20年で改善は見られない。人口の6割の人間が、国民総所得の4分の1しか得ていないことになる。トップ2割が、半分以上の55%を手にしているのだ。もっとも、所得の水準自体は上がってきているが……。
poor Cambodian girl at Poi Pet border / permanently scatterbrained
■考えられる理由
タイの所得格差の大きさに対する理由は、いろいろと考えられる。
(1)そもそも、田舎と都会では暮らしぶり、働きぶりが全く異なる。田舎は半ば自給自足、農業や、自営、出稼ぎで収入を得ている。農家の平均月収は、2010年で4234バーツ(約1万600円)、非農業の1万534バーツ(約2万6200円)の40%である。なお、バンコク首都圏だけで、全国電力消費量の70%を消費している。
(2)また、勤め人、サラリーマン、従業員と言うのはマイノリティーである。サラリーマンは、3850万人の労働力の、およそ3分の1にしかならない。残りの3分の2の働き方は、農業や、臨時雇い、小さな食堂などである。当然収入は勤め人に比べ、かなり劣る。
(3)もともと、上座部仏教では、足るを知ることが大事で、背伸びして、出世競争して、世の中で偉くなろうという指向性が少ない。現世は今の生活に満足して、せっせとタンブン(善行の長期預金)し、来世に備える人が多い。日本のように、勉強して、がんばって、出世しようという考えを持つ物は元より少ないのだ。ほかと比較しなければ、暮らしやすい国でもある。
(4)さらに、税制が貧富の差を広げている。不動産税、贈与税、相続税といった資産課税が存在しない。金持ちは、ますます金を残せる。放っておけば、その差は広がる一方だろう。
「1が平等、0に近いほど不平等」の記述は完全に数値が逆ですね。
それにしてもフィリピンよりもタイの方が、(数値的には)富の偏在が大きいというのは驚きでした。