中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年12月24日
韓寒(上海市出身、1982年生まれ)は2000年、まだ18歳という若さで、処女作『三重門』(邦題は『上海ビート』)でブレイク。一躍人気作家となった。小説、エッセイに加え、ブログも大人気で今年初頭に累計4億PVを突破したのだとか。
ところが本サイトでも紹介したブログ記事「バラバラの国」の後、めっきり更新が減り、まともな更新は5カ月ぶりとなる。今回、「読者からの質問になんでも答える企画」と題して書いたのが「革命を語る」「民主について」の2本の記事となる。
【中国人と民度と民主=韓寒論争】
【鉄道追突】改革をしなければ中国という国自体が脱線することに=人気作家・韓寒が共産党批判
革命するには民度と公共心が足りない=人気作家・韓寒が「革命を語る」―中国
コネがあれば俺も汚職できたのに…作家・韓寒が語る「普通の中国人にとっての民主」
韓寒コラムに人民日報まで釣られた=「民主はペットではない」との反論も―中国
口だけの革命はもうたくさんだ!人気作家・韓寒のド直球コラム「自由を求める」―中国
「ファッション民主にサヨナラ」ばらばらの国を変えるために=韓寒コラム解読編
革命を語る
韓寒ブログ、2011年12月23日
最近、いろんな問題についての文章を読んだんだけど、「革命」と「改革」という単語がよく出ていたね。メディアもよく質問してくる話題ではあるんだよね。ただ回答が掲載されることはないんだけどさ。どんな観点で書こうが、だいたい検閲されちゃうから。
今回は読者の質問に答える企画の1本目として、まず革命についてのぼくの考えを書いておこう。読者、それから中国内外のメディアの質問について、まとめて答えるよ。
Q:
最近、中国では「群衆事件」(デモ、ストライキ、暴動などの総称。中国固有のカテゴリー)が頻発しています。中国に革命は必要だとお考えですか?
A:
社会が複雑な国家、とりわけ東洋の国では、革命の最終的受益者は「残酷無情」な人になるんでしょうね。率直にいって、革命ってクールで刺激的なものに思えるけど、中国にとっていい選択とは限らない。
まず、革命には要求が必要だ。で、要求ってのは「反腐敗」から始まることが多い。でもね、この要求はそう長くは続かないんだ。「自由」「公正」にもマーケットはないね。文学者やメディア関係者以外の人々、例えば街を歩く人にさ、「あなたは自由ですか?」って聞いてみたら「そうですよ」って答えるでしょ。
「公正が必要ですか?」って聞いたら?自分が不公正の犠牲にならなければ、それでいいっていう考えなんだよ。みんながいつも不公正に苦しんでいる訳じゃない。だから、誰かが公正と自由を求めたとしても、それは他人には届かない。
つまり、中国ではみんなが一致できる要求を見つけ出すことが難しいんだよ。必要かそうじゃないかっていう話じゃなくて、できるかできないかっていう問題なんだ。ぼくは「できない」し、「不必要」だと思っている。ただ「中国には強力な改革が必要ですか?」って質問にはイエスと答えるんだけどね。
Q:
なんで革命の指導者にならないんです?
A:
冗談はやめてよ。例えぼくが革命に賛同したとする。で、上海で革命を起こしたとするよ。ちょっと規模が大きくなれば、政府はネットと携帯電話をシャットアウトする。そうしたら何が起きると思う?政府が鎮圧部隊を出すまでもないんじゃないかな。チャットやゲームができず、ドラマを見ることもできなくなった「怒れる群衆たち」があっという間にぼくたちを殲滅するだろう。
「革命をマイクロブログで支援する!」なんて話はやめてよね。なに、君だってさ、マイクロブログに接続できない日が3日も続けば、ぼくのことを恨むようになるって。
Q:
では中国に民主と自由は不必要なのでしょうか?
A:
それは誤解ってもんだよ。文化人はだいたい民主と自由を一緒くたにする。だけどね、中国人にとって民主の結果は往々にして不自由なものなんだ。だって、大部分の中国人にとっての自由って、出版、ニュース、文学、言論、選挙、政治と関係がないんだもの。
ほとんどの中国人にとって、自由ってのは「公共道徳からの自由」なんだよ。コネがないような普通の人間にとっては、「自由にやかましく騒げる、自由に道路を横切れる、自由にタンが吐ける」っていうのが自由なわけ。ちょっとコネがある人間にとっては、「自由にルール破りができる、自由に法律の抜け道を使える、自由にひどいことが出来る」ってのが自由の意味になる。
いい民主主義は社会を進歩させてしまうからね。それに法制も整っちゃえば、文化の自由なんか要らないっていう大部分の人間にとっては、逆に不自由な結果になっちゃうんだよ。先進国に行ったらなんか居心地が悪いなって感じる中国人がいるじゃない?それと一緒だよ。
だから民主と自由を必ずしも一緒くたにする必要はない。思うに中国人は自由に対して特別な定義をしているんだよ。だから自由って言葉は、中国で一番人に伝える力がない言葉なんだ。
Q:
中国の病は深刻だと感じます。もはや改革は役にたちません。革命を断行して初めて社会を変えることができるのです。
A:
革命を起こしても鎮圧されないと仮定してみよう。もちろんありえない話なんだけど。ま、仮定の話。もし革命がね、中期の段階にまで進めたとする。そうしたら大学生、一般大衆、エリート、知識人、農民、労働者は共通認識なんか持てなくなるよ。
それからぼくたちはずっとある社会グループについて見過ごしてきた。貧困層のことだけどね。中国全土にだいたい2億5000万人いるんだけど、彼らの存在について気にしたことなんかないでしょう?彼らはネットを使わないしね。
で、革命が中期にいたった時点では、当然新たな指導者が登場しているはずはずだ。指導者がいない革命なんて必ず失敗するからね。白蓮教の反乱なんかがいい例だ。でもね、指導者がいる革命がいい結果を迎えるとは限らない。太平天国なんかその好例だよ。
中国式の指導者って、パソコンの前にいる君が想像しているような、温厚で慈悲深き人なんかじゃ絶対にないんだ。こういう指導者は独断専横にしてわがままな妄想狂。残虐なのにカリスマがあるって相場が決まっている。そう、どっかで聞いたことがあるようなタイプでしょ。
中国人はこの手のやり口にいつもやられている。こういうやり方をする人間だけが上に上がれるんだ。中国社会は悪人が成功し、善人が失敗することに慣れてしまった。文芸青年たちが気に入った指導者は1週間で全員消えるだろうね。教育水準が高い人ほど誰かに従ったり、独裁幹部になったりしようとはしないから。だからこの手の人たちは一番始めに革命から離れていくんだ。次はエリートが消える。すると革命参加者の構成には変化が生じてくるだろうね。
革命が始まった当初のスローガンがどれほどすばらしいものであっても、最後には「金」っていうスローガンに変わっているんだ、必ずね。
だからぼくは革命が怖いし、(今を)失うことが怖い。iPhoneを持っている君、バイクを持っている君、それからネットをやって新聞を買って、時々ケンタッキーを食べることもある君は、革命という洪水の中で金持ちとみなされる。いや、ネットでこの文章を読む能力があることだけで金持ち扱いされてしまう。君たちは原罪を背負った者、革命によって打倒されるべき対象となるだろう。
資産1億元(約12億円)を持つ人は、1万元(約12万円)の人より安全かもしれない。なにせ玄関にはニューヨークタイムズが届いているからね(移民したという意味)。中産階級、準中産階級、そしてどうにか食えるようになったぐらいの人たちにとって、革命は最悪の事態となるだろう。
中国人は歴史上、いろんな政治運動において殺し合いを繰り広げてきた。今の人たちは金しか認めない。つまり、多くの人民は金目当てで殺し合いするように訓練されてきた人々ともいえる。だから想像してごらんよ。中国人は相手の罪を償わせるってことに長けているけどさ、それも最終的には鎮圧の対象となるでしょ。
どんな革命にも時間が必要だよ。中国ほど巨大な国家となれば、天下大乱、軍閥割拠、権力の真空状態といった一大事にならなくとも、ちょっとした混乱が5年も10年も続けば、みんな新たな鉄腕独裁者の誕生を望むようになるだろうね。社会秩序を取り戻し、情勢を安定させるためにさ。
百花斉放を経て、再び人民日報を読む生活に戻るだけ。どうでもいい話だよ。どうせぼくたちの仮定は「軍隊の国軍化」という前提で話している。だから全部幻想の話。幻想ですら楽観的になれないんだから、革命には手を出すなって話だよ。
(百花斉放は1956年に打ち出された政策で、自由活発な議論を呼びかけるものだったが、後に反右派闘争という弾圧を招いた。人民解放軍は中国国家の軍ではなく中国共産党の軍と位置づけられている。「国軍化」については今も御法度。)
Q:
じゃあ、エジプトやリビアについては……
A:
エジプト、リビアは一人の独裁者に数十年支配されていたじゃん。街も多くない。なにかの事件がきっかけになって、広場で演説が始まれば、それでもう革命成功!ってなるわけ。
中国は革命で打倒する対象になる個人がいないじゃない。街も人口もむちゃくちゃ多いよ。それから訳の分からない災難がやまほど起きて、Gスポットはもう麻痺している。爆発なんて起きないよ。
たとえ社会の矛盾が今の10倍になってさ、10都市同時で10人のハヴェルが演説したとしても、ついでに当局が取り締まらないと仮定してもだよ、この演説も最後にはのど飴メーカーのスポンサーがついて、劇場で公開されるようになって終わるだろうね。
(ハヴェルはビロード革命を指導したチェコの劇作家、チェコ共和国初代大統領。無血革命を成功させたとして、中国民主化シンパの中では非常に評価が高い。ハヴェルも作成に加わった憲章77を真似て、中国の民主化活動家らは零八憲章を作成した。その発起人の一人、劉暁波は2010年にノーベル平和賞を受賞している。上記段落は、チェコの人々を奮い立たせたハヴェルの演説も今の中国人には届かないだろうという意味。)
もちろんこれは馬鹿話だよ。一番重要なことは大部分の中国人が他人の生き死にには関心をもたないのに、ひとたび自分の損になるようなことが起きると、ぎゃあぎゃあわめき出す。この悪習が問題なんだよ。一生かかっても団結なんか無理無理。
Q:
あなたの見方は、五毛党(政府のネット工作員)みたいですね。政府に買収されましたか?なぜ(中国人は)1人1票の権利で主席を選んではならないんですか?
A:
こういうさ、白か黒か、正しいか正しくないかという決めつけ、共産党を非難しなきゃ五毛党扱いされる社会で革命なんか起こしたら本当にやばいことになるよ。普通選挙で主席を選ぶことが中国の急務だと考えている人は多い。でも、喫緊の課題って違うでしょ。
むしろ逆でさ、普通選挙になったら共産党の候補が圧勝だよ。共産党以上に金を持っているところなんかないじゃん?500億元(約6000億円)で5億票は買えるでしょう。たりなきゃ5000億元(約6兆円)だ。なに、税収は年に10兆元(約120兆円)あるんだからね。どっちが金持ちだと思うの?
あなたの身近にいる公正、独立を重んじる人たち、彼らの票をかき集めても数十万票ってところでしょ。あなたが認めた有識者が10万票集められればすごいよ。唯一、共産党に対抗できるのは馬化騰だけだろうね。だってさ、QQにログインした時に、「馬化騰に投票すれば、Qコイン500枚をプレゼント!」とか広告打てるもん。問題は選挙の時にはもう馬化騰も共産党に入党しているだろうってことかな。
(馬化騰は中国チャットソフト最大手・QQを擁するIT企業・騰訊(テンセント)の創始者。Qコインは騰訊のサービスで利用できる仮想通貨。共産党Gongchandangと馬化騰MaHuaTengをかけたかけことばになっている。)
民主ってのは複雑で、大変で、そして必然的な社会の過程なんだ。「革命、普通選挙、多党制、「**」を倒せ」みたいな簡単な言葉だけで達成出来るようなものじゃないんだよ。もし君が司法や出版について関心がないのならば、普通選挙に関心を持っていたとしても何の意義があるの。たんにファッションで普通選挙って言ってるだけじゃん。カーレース・ファンを自称しながらF1のことしか知らない、サッカー・ファンなのにW杯しか知らない、そういう輩と一緒だよ。
Q:
中国の革命と民主は、もはや時期の問題でしかないと考えています。どの時期がふさわしいとお考えですか?
A:
革命と民主、この2つの言葉ってさ、全然違うものなんだよ。革命が民主につながる保障はない。これはずっと前にぼくたち中国人自身が証明しているけどね。歴史はかつて中国にチャンスを与えた。今の中国ってのは祖父の世代の選択がもたらしたものなんだ。
現在の中国は世界中で最も革命が起こりえない国だよね。同時に中国は世界で最も改革が必要な国でもある。もし、どうしてもどの時期が革命にとってふさわしいか答えさせたいってのならね、ぼくが言えるのはたった1つ。道行く車が対向車とすれ違う時に、ハイビームをオフにできるようになったら、安心して革命ができるようになるだろうね。
ただね、ハイビームをオフにできる国にはもうどんな革命もいらなくなっているんだ。国民の民度と教育水準がそのレベルに達したらね、すべては自然と正しい方向に進むんだよ。君が生きている間にこの偉大な変革を見られるかもしれないし、見られないかもしれない。あるいは君の生き死にすらも、このからまりあった難題にひっかかった糸の1本かもしれない。
ただ、このことだけは絶対に覚えておいてね。対向車とすれ違う時にはハイビームをオフにしなきゃいけないってことを。それだけで、ぼくたちの父親世代が求めてやまなかったものを、ぼくらの子ども世代は手にすることになる時期を早めることができるかもしれない。
【中国人と民度と民主=韓寒論争】
【鉄道追突】改革をしなければ中国という国自体が脱線することに=人気作家・韓寒が共産党批判
革命するには民度と公共心が足りない=人気作家・韓寒が「革命を語る」―中国
コネがあれば俺も汚職できたのに…作家・韓寒が語る「普通の中国人にとっての民主」 韓寒コラムに人民日報まで釣られた=「民主はペットではない」との反論も―中国
口だけの革命はもうたくさんだ!人気作家・韓寒のド直球コラム「自由を求める」―中国
「ファッション民主にサヨナラ」ばらばらの国を変えるために=韓寒コラム解読編