中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年12月25日
Kim Jong il Team America / zennie62
北朝鮮のキム・ジョンイル(金正日)労働党主席が、2011年12月17日に、70歳(報道はなぜか69歳)で亡くなった。父のキム・イルソン(金日成)は、抗日戦線に立ち建国をリードしたが、この建国の父の長男は基本的に何も動かず、「瀬戸際外交」を行ない、かつ国を窮乏に追い込んでしまった。
■マッチポンプ的な日本報道
死去報道後の日本のニュースを見ると、「これから、北朝鮮が不安定になるのが心配だ。うまく安定してくれるといい」という、マッチポンプ的というか、自己矛盾的な報道で事足らしているという印象が強い。
「悪かった国の指導者が亡くなったのだから、変化のきっかけになる方がいいんじゃないの?悪かったまま安定して何がいいの?」とで言えば、屁理屈と言われてしまいそうだ。日本は、ないものねだりの「安定」がお風呂のように好きである。
屁理屈はさておき、北朝鮮については、うわべの政治的、軍事的議論ばかりが多い。外国からの援助や譲歩を引き出すために、危なっかしい「瀬戸際外交」をとってきたといえばその通りだが、国の根底にある経済となると、「貧しくて国民は飢えている」だけですんでいる。
世の中、表面的で現象的な情報ばかりが、複製され、広まり、大事な情報はほとんど出てこないが、北朝鮮情報はその典型かも知れない。
■見えざる経済状況
どの程度貧困なのか、また経済政策はどこを向いているのか、GDPは?貿易は?税制度は?となると、情報閉鎖国なので、ほとんど何も出てこない(北朝鮮は経済活動もまだ伸びていた1974年に税を廃止したといわれるが、別の名称で財政収入は獲得しているようだ)。
朝鮮労働党も奉じたはずのマルクス経済学を引き合いに出すまでもなく、国の「下部構造」である経済は、その国の体力を決めることになる。ブルンバーグのユンキュン・セオ記者が、最近いろいろなところからの情報を元に、北朝鮮の経済の現状と流れをうまくまとめているので、これに情報を付加して、ポイントをまとめてみたい。
Front page of The Economist, 17 June 2000 / Lars Plougmann
■70年代初頭までは隆盛を誇った北朝鮮経済
北朝鮮は、今でこそ経済がひどく落ち込んだ国になったが、かつて70年代初め頃までは、韓国に負けないぐらい頑張っていた。石炭(無煙炭)や鉱物資源に恵まれ、その埋蔵価値は6兆ドル(約468兆円)を超え、韓国の24倍に及ぶと、韓国の資源会社は見ている。北朝鮮は、大戦中に日本が残したインフラを活用し、経済発展を果たしたのだ。
しかし、1974年頃から、工業化と輸出強化を図った韓国に引き離され始める。今や、韓国の輸出入金額8900億ドル(約69兆4000億円、2010年)に対し、北朝鮮のそれは42億ドル(約3280億円)しかない。200倍の差である。少ない輸出品に代わって、ミサイルや麻薬、偽造たばこ等で数億ドルの外貨を稼いでいると、10月31日の米国国務省のレポートは伝えている。
North Korea Banknotes( trade or exchange welcome) / panaxy
■没落の最大の要因「チュチェ(主体)思想」
最大の経済発展の失敗は、72年ごろより、金日成が育ったソ連からも、朝鮮戦争で助けてくれた中国からも独立した「チュチェ(主体)思想」を、経済分野にも適用しようとしたからのようだ。
早い話が、経済鎖国である。20世紀終わりごろから21世紀にかけて世界はいやでもグローバル化していったのに、ひとり取り残された。資源はあっても、燃料や部品や材料が足りなくては工業化は進まない。北朝鮮の経済状況については、韓国の「NIS」(国家インテリジェンス・サービス、かつてのKCIA)が25人のエコノミストを抱え、追っている。
面白い話がある。北朝鮮の化学者リー博士が、戦前日本の研究所で、「ビナロン」を発明した。国産の石灰石を原料にして、ナイロンに2年遅れて世に出てきた化学繊維である。これをいつまでもチュチェの製品として誇りにし、
世界の繊維産業発展の潮流からすっかり出遅れてしまったのだ。
Ryugyong Hotel, Pyongyang, North Korea / yeowatzup
■韓国の40分の1、世界195位のGDP
北朝鮮の2010年のGOPは、韓国中央銀行の推計によると、およそ265億ドル(約2兆700億円)。パナマ、ヨルダン、ラトビア、キプロスといった小国なみである。人口は2430万人とちょうど韓国の半分いるが、GDPは韓国の40分の1だ。CIAによると、世界228か国中、195位だという。
後編に続きます。
後編:
知られざる北朝鮮経済の実態=ステレオタイプの日本メディア報道(後編)(ucci-h)
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*当記事は2011年12月24日付ブログ「チェンマイUpdate」の許可を得て転載したものです。
まず没落したのは北朝鮮だけではないこと。
欧州・日本が戦後の回復軌道に乗ったのは1960年代後半だと思いますし、経済発展を続ける地域が増えたことでアジアの香港・シンガポールといった地域も恩恵を受けるようになったのだと思います。
こうした自由主義諸国の発展に取り残される形で社会主義ブロック全体が凋落していったのが1960年代だと思います。
次は1970年代初頭に米中・日中の国交正常化が行われているという点。
「主体思想」は確かに北朝鮮の体制を維持するために考案されたものだと思いますが、これは北朝鮮の仇敵である日米と北朝鮮の同盟国たる中国が国交を正常化するという異常事態に直面した結果、「社会主義」に代わる体制維持の思想として考案されたものではないかと思います。
つまり北朝鮮がどれだけ豊かな資源を持っていても、社会主義国ブロックに属している限り(朝鮮戦争では米国と直接戦ったわけだし)輸出先はソ連と中国しかなかったでしょうし、情報鎖国は体制側の意図だったとしても、経済的な孤立を主体思想に原因を求めるのは非常に無理があると思います。
経済的な孤立と結果としての経済鎖国、そして主体思想は金日成体制を維持するために行われたものの、結果としては国を貧しくすることに役立ってしまったと考える方が筋が通ると思います。