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コネがあれば俺も汚職できたのに…作家・韓寒が語る「普通の中国人にとっての民主」

2011年12月25日

鋭い風刺エッセイで人気の小説家・コラムニストの韓寒が久々にブログを更新した。「革命を語る」「民主について」の2本だ。「革命だ!」「民主だ!」と無責任に語る民主化シンパに対する強烈な“毒”となっている。今回は「民主について」について。


20111225_上海ビート
*韓寒著『上海ビート』。

韓寒(上海市出身、1982年生まれ)は2000年にまだ18歳という若さで、処女作『三重門』(邦題は『上海ビート』)でブレイク。一躍人気作家となった。小説、エッセイに加え、ブログも大人気で今年初頭に累計4億PVを突破したのだとか。

ところが本サイトでも紹介したブログ記事「バラバラの国」の後、めっきり更新が減り、まともな更新は5カ月ぶりとなる。今回、「読者からの質問になんでも答える企画」と題して書いたのが「革命を語る」「民主を語る」の2本の記事となる。

記事「革命を語る」を紹介した前編「革命するには民度と公共心が足りない=人気作家・韓寒が「革命を語る」―中国」に続き、今回の記事で「民主について」「民主化シンパの中国ネット民の反応」「Chinanewsの反応」を書こうと思ったが、長くなってしまったので、今回は「民主について」の紹介にとどめる。

中国人と民度と民主=韓寒論争

【鉄道追突】改革をしなければ中国という国自体が脱線することに=人気作家・韓寒が共産党批判
革命するには民度と公共心が足りない=人気作家・韓寒が「革命を語る」―中国
コネがあれば俺も汚職できたのに…作家・韓寒が語る「普通の中国人にとっての民主」
韓寒コラムに人民日報まで釣られた=「民主はペットではない」との反論も―中国
口だけの革命はもうたくさんだ!人気作家・韓寒のド直球コラム「自由を求める」―中国
「ファッション民主にサヨナラ」ばらばらの国を変えるために=韓寒コラム解読編

いきあたりばったりで紹介記事を書き始めたことがばればれで、もっと構成を練ればよかったと反省している……。まあ、こんなこと言う人もいるのね、ぐらいに受け止めていただければ。

民主について
韓寒ブログ、2011年12月24日

Q:
革命が絶対に暴力的な革命になると決まっているわけではありません。チェコのビロード革命こそ完璧な前例でしょう。

A:
ビロード革命が中国で可能だとは思わないな。当時の国際情勢と今は違うとか、チェコの人口は北京の半分程度とかいう問題を別にしてもね。

ビロード革命を信じるってことはさ、「民衆の民度」「為政者の忍耐」「知識人のリーダーシップ」を信じる道を選ぶってことなんだよ。この3つが合わさって初めてビロード革命になる。だけど、今の中国には1つもないじゃん。

「完璧な革命もあるんだ」って主張することで、完璧じゃないかもしれない未来の改革を批判するのはやめて欲しい。いや、中国の知識人や学者がビロード革命にすごい思い入れを持っているのは知っているよ。ひょっとしたら自分こそハヴェルになるっていう妄想を抱いて、悦びに打ち震えているのかもしれないけど。

たださ、暴力革命でも非暴力革命でもいいけどね、中国で革命が起きた場合、知識人の地位や役割って、彼ら自身が想像しているよりもずっと低いと思うよ。もちろん指導者どころじゃないよ。国民の民度が低ければ低いほど、知識人なんて何の役にもたたない存在だ。

「完璧な民主、完璧な自由、完璧な人権とはどのようなものなのか」とかうそぶいても、中国の現実から目を背けることはできない。改革と民主ってのは値段交渉の過程だよ。(知識人が書いた本を)何冊か読んだ為政者が感動して、(権力の)すべてを君にプレゼントしてくれるなんてことは期待しちゃだめでしょ。

日々ひたすらビロード革命の到来を期待しているんじゃダメなんだ。突然ビロード革命がやってきて、で、欲を言えば君自身がハヴェルになって、それから瞬時に普通選挙権を獲得した中国人が買収されることなく投票してくれる、なんてことを期待しちゃダメってこと。ビロード革命のあったチェコだって、いまだに普通選挙じゃないんだから。
(チェコの大統領選挙は上院、下院の議員が投票して選出する。両院議員は普通選挙で選出される。国家元首が直接選挙で選ばれていないことを「普通選挙ではない」と表現していると思われる。中東欧・旧ソ連諸国の選挙データ参照)

ぼくの考えはシンプルだよ。暴力革命は起きて欲しくない。ビロード革命は近い将来起きることはない。完璧な民主が中国で出現することはありえない。だから、ぼくらは少しずつ前進するしかないんだ。そうじゃなきゃ、書斎にこもって民主と自由を空想して、そして(現実に)むしゃくしゃするだけという日々をおくることになる。それじゃつまんないしね。改良こそ、現時点では一番いい道でしょ。


Q:
あなたの結論はつまり「中国人の民度は低すぎる、民主にはふさわしくない」ということですね。政府に金でももらいましたか?

A:
この結論を君がどう思うかは知らないけど、ぼく自身はすっごいわかりやすい主張だと思っているけどね。(中国が)民主に向いているか向いていないかって問題じゃない。遅かれ早かれ、民主はやってくるんだから。

民度が低くても民主の時代は到来するよ。でもね、民度の高さが到来した民主の質を決めるんだ。誰もルワンダ式の民主なんか望んじゃいない。ルワンダ式の民主ってのは本当の意味での民主とは別物かもしれないけどね。

のろのろやってくるかも知れないし、突然かもしれない。根本的な変化や完全な変化じゃないかもしれない。アメリカ的や欧州的なものとは違うかもしれない。それでもね、君が生きている間に民主は必ず中国にやってくるんだよ。その時振り返ってみれば、その訪れはすごい静かな形だったと気づくんじゃないかな。


Q:
つまり為政者が民主を導入するかどうか決めるのであり、人民が勝ち取るものではない。あなたの話はそういうことですね。

A:
為政者に圧力をかけるのはもちろん重要だ。ただ残念なことに為政者と協調するのはもっと重要なんだ。これには運と品位が必要になるだろう。今、中国社会は階層ごとにばらばらだよ。

例えばさ、今夏の温州高速鉄道事故でね、君たちがもっと騒ぎを大きくしてやろうとしたとする。為政者は慌てないよ。どうせ民間のこと。手を下すまでもなく時間がたてば自然と解決するだろうと思うだろう。

為政者一族はそんなことに関心はないんだ。誰が出世して誰が地位を失うか。(向こうの官僚と比べて)誰の年齢が1歳若いのか、(政治的イベントの席次で)誰をどの位置に立たせるのか。気にしているのはこういうことばかりなんだ。

だから世論の圧力を受けたとしても、何も変わらずに時が過ぎるだけ。いや、彼らは一切世論の圧力を感じていないって可能性のほうが高いかな。.あれだよ、もし10億元(約120億円)の貯金があったら、1000元(約1万2000円)ぽっちなくしても気にしないじゃない。

知識人業界の財布の中身をかき集めたとしても500元(約6000円)しかない。なのに為政者の財布の中身も3000元(約3万6000円)はあるだろう。知識人業界はそう見ているんだよ。だから、(より貧乏な)知識人業界が感じている焦りっていうのは、(お金持ちの)為政者が抱く焦りを拡大したものと言えるんじゃないかな。

でも、(どんなに焦っても)他人様は誰も君のことなんか気にしてないよ。それなのに知識人業界に属する人々の多くはすべての問題は政治体制に原因があると言っている。まるで政治体制を変えればすべての問題が解消するかのようにね。

彼ら知識人は善良にして悪を憎む正義の人々だ。だけど農民や労働者にまで、自分たちと同じ認識を持てと要求している。まるで日々ひたすらこの問題を考えよとでも言いたげな様子だ。だけどさ、現実は往々にしてそうした考えをがっかりさせるものだよ。

ぼくはラリーレースに参加するためによくド田舎に行く。ここ数年で、100を超える各地の県を回ったね。格別に封建的で貧しい場所ってわけでもないんだけどね。でさ、そこでいろんな人たちとおしゃべりしたわけ。基本的に民主や自由に対する要求は知識人業界の人が考えるほど差し迫ったもんじゃないんだよ。強権や腐敗への憎しみはあるけどね、それは「なんで俺や俺の親戚がそのうま味にあずかってないんだ」っていう思いであって、(独裁権力を)制限、監視しようという方向には向いていない。

不幸なことになんか問題が起きて、政府に陳情しなきゃならなくなってはじめて、辞書を引き引き(「民主」やら「自由」やらっていう)言葉を調べだして、自分を守るんだ。政府が十分な金を与えれば彼らはそれで満足なんだ。

すべてが金で解決できる社会矛盾なんて矛盾とは言えないよ。緊急事態において国民が(「民主」や「自由」という)言葉を使用するだけ。その一事をもって、知識人業界は国民の普遍的要求だと決めつけている。国民と知識人業界は共通認識を持っているなんて思い込んでいる。

分裂しばらばらになったこの巨大な国・中国で、すばらしい革命が起きうるなんてぼくには思えない。「分裂状態は為政者による馴化の結果なのだ。だから為政者を変えなければならないのだ」なんて思っているんじゃない?ただ現実はすでにこうなっているわけだし、それも前の世代の時点でこういう状況になっているわけよ。

ただ幸運なこともある。(田舎の人々の)子どもたちと話すとね、ネットやその他メディアの影響で多少なりとも彼らの見識は広がっている。だからぼくは全然悲観してはいない。

それからさ、中国共産党には現在8000万人の党員がいる。彼らの家族を合わせれば3億人だ。これほど巨大な党を1つの党派や階層と単純に決めつけることはできない。むしろ共産党の欠点っていうのは、多くの場合中国人民の欠点でもある。思うに、強大な一党制ってのは無党制と同じなんじゃないかな。

党の規模が一定レベルを超えて膨張したら、もう党は人民そのものになってしまうから。人民こそ体制の本質なんだよ。だから問題は共産党をどうするかじゃない。共産党も現行政治体制もたんなる1つの名前になっている。人民を変えればすべてが変わるんだ。だからもっと改良を考えなきゃならない。法治、教育、文化こそが基礎なんだ。


Q:
もし革命が到来したならば、影響力ある知識人はどのような役割を果たすべきでしょう?

A:
革命が到来した時には、知識人は「風見鶏」になるべきだ。それもただの「風見鶏」じゃない。風向きとは逆を向く「風見鶏」だよ。知識人には自分の正義が必要だが、一方で自分の立場があってはならない。影響力があればあるほど、ね。

もしある勢力が強大化したとみれば、すぐに別の勢力を助けに行かないとダメだ。どんな主張も信じてはならないし、どんな信仰にも従ってはならない。革命家全員をうそつき野郎だと仮定するんだ。どんな公約も聞き入れちゃダメ。争う2つの勢力があれば、どちらかが滅びることのないよう全力を尽くすべきだ。

だからね、未来の中国で、もし革命が起きたとするならば、劣勢の側にぼくはいるだろう。もしその勢力が強くなれば、敵の陣営へと移るだろう。自分の主張が犠牲になってもいいよ。それで各勢力の共存が保たれるならば。こうすることによって初めて、君が望んでいたすべてが手に入るんだ。

それから最後に一言。今年の年末にこういう議論ができたことが、ぼくにとっては最高の新年のプレゼントになった。過去の論争と違って(明確な)相手がいないんだけどね。それでも論争してくれた友人たちに感謝を。君たちはみんな優秀だ。この文章がタイトルとは異なる内容になっていることについてはお許しを。新年おめでとう。

*文字装飾はChinanews

そも韓寒のエッセイは風刺と他人とは異なる切り口が売り。素直に読ませてやらないという、ちょっといじわるなところがある。

「革命を語る」は素直に読むと、「中国人には民度がないし、拝金主義が蔓延している。公共道徳もないから他人の不幸にも関心がない。こんなんで革命なんかやったら、もう一回、毛沢東を生み出すだけだぜ」という感じに読めるが、そう素直に読んではいけないんじゃないかと考えている。その意味では「民主について」のほうが素直に話しているようにも思える。

民度という言葉が繰り返し語られるが、それは車がすれ違う時のハイビームのオン・オフ(レーサーでもある韓寒らしい例だが)やタン吐き、ゴミのポイ捨ての話と矮小化するべきではない。法治や出版の自由といった民主主義のインフラに対する関心の低さ、一部先鋭的な知識人をのぞいては民主にも自由にも基本興味はないという現状、そして拝金主義が横行し他人と社会への関心がない中国人の心理を念頭に置いているように受け取った。

若くして金持ちになり、カーレーサーをやってみたりテレビCMにもでたりと、消費生活を享受する「80後」(1980年代生まれ)作家だけに人一倍、享楽におぼれ、他人(=公共)への興味がない中国の今にとりわけ敏感なのではないか。

言うまでもなく、架空の対談相手「君」は、「民主!」「自由!」という言葉を日々口にしている知識人だ。彼らに「まず現状を見ろ。できることとできないこと、ちゃんと理解しようね?「知識人」としてやらなきゃいけないこと、できることあるよね?」というメッセージだと読んだが、これはいささか深読みしすぎだったかもしれない。

今回はここまで。次回は「韓寒コラムに人民日報まで釣られた=「民主はペットではない」との反論も―中国」と題してお送りする。

中国人と民度と民主=韓寒論争

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