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タイの価格つり上げ政策、インドの輸出増=2012年の米価格は波乱含み(ucci-h)

2011年12月26日

■タイのコメ輸出は減少に向かうが、世界のコメ市況はどうなるのか?■
 
*当記事は2011年12月22日付ブログ「チェンマイUpdate」の許可を得て転載したものです。


Rice Paddies As Far...
Rice Paddies As Far... / iriskh


■米価をめぐる世界情勢

インラック政権になり、世界一の米輸出国タイでは10月7日よりコメ抵当システムが導入され、米価の高値誘導政策がとられた。一方、世界第3位のコメ輸出国インドは7月より民間業者によるコメ輸出が3年ぶりに解禁されている。そして水害。タイを筆頭に東南アジア諸国は米作に被害が生じている。
(コメ抵当システムとは政府が市場価格より高値で米を買い上げる政策。米の国際価格上昇を促すと意気込んでいる。)

アジアの主食・コメをめぐり、多くの変化が生じているわけだが、来年にかけてコメの需給関係、そして価格はどう推移していくのだろうか?


■世界一の輸出国・タイの事情

世界一のコメ輸出国タイの生産事情と輸出状況を見てみよう。コメ抵当システムの導入は、コメ市場に2つのインパクトを与えた。第一に価格上昇による輸出への影響だ。第二に高価格に刺激されてのコメ作付けの増加だ。

タイ産輸出米の指標となる「100%グレードB白米」だが、11月半ばにはトン663ドル(約5万1800円)と、2008年10月以来となる3年ぶりの高値をつけた。7月初頭のタイ総選挙時点ではトン526ドル(約4万1100円)前後だったので、約4カ月で26%上昇した計算になる。

タイ大洪水の影響もさることながら、価格上昇は主にポピュリズム的政策に起因する。ちなみに洪水被害について説明しておくと、タイの全水田の15%にあたる1000万ライ(160万ヘクタール)が水没した。雨季米(収穫量は全年の3分の2に相当)の予想収穫量2300万トンが、19%減となる430万トンの減収となった。

Rice Paddies
Rice Paddies / fortes


■コメ抵当システムの影響

10月7日から始まったコメ抵当システムだが、11月21日までの1カ月半の間に、農家から115万トンが提供された。洪水の影響もあり出足は鈍い。また手続きが面倒なため、農家から精米業者(400社が登録済み)に直接手渡すケースが増えている。この場合、抵当価格のトン1万5000バーツ(約3万7400円)のうち、1部を精米業者に手数料として渡す必要があるが、面倒な手続きが不要なため人気のようだ。

さて、2011年のコメ生産量だが、2010年の3450万トンから11%減の3080万トンとなる見通し。2012年はコメ抵当システムの影響で作付けが増え、再び増加に転じそうではあるが。

コメ生産量の減少に伴い、輸出量も減少している。今年9月までは月100万トンという順調なペースで推移したが、洪水の影響を受けた10月以降は6割近い減少となった。年間の輸出量は1030万トンと前年とほぼ同量になる見通しだ。
(関連リンク:「タイの稲作被害と国際コメ価格のゆくえ」チェンマイUpdate、2011年10月22日)

むしろ問題は来年だ。2012年は輸出減少が予想される。洪水の影響もさることながら、価格上昇で敬遠される可能性が高い。実際、今年10月は輸出契約ゼロという状況になった。国連食糧農業機関(FAO)は2012年のタイコメ輸出量を前年比2割減の820万トンと予想している。

タイ政府は輸出量が減少しても価格上昇分で取り戻せると強気だが、果たして国際市場はタイの思惑どおりに動くのだろうか?


■活発化する米貿易

目を世界に転じると、世界の2011年コメ生産量は、タイやビルマ、パキスタン、フィリピンの洪水などによる悪影響にもかかわらず、中国、インド、ベトナム、エジプト、バングラデッシュなどの改善により、7億2100万トン(籾重量)と昨年比2000万トンほどの増加(3%増)を記録する見通しだ。

コメは、世界貿易量が生産量の5%未満と少ないのだが(タイは3割、ベトナムは2割弱と輸出量が多い。巨大な自国市場を抱えるインドの輸出量はわずか3%)、昨年の3150万トンから今年は3430万トンと9%にまで増加する見通しだ。昨年、今年と2年連続で生産量に占める貿易量の比率は史上最高を更新することになる。巨大な人口を抱える中国、インドネシア、バングラデッシュ、イラン、そしてアフリカ諸国の需要が増えているからだ。


■タイの輸出減少を補う国はどこか?

こうした状況で、世界一のコメ輸出国タイの輸出が減少するとなると、どこの国がカバーするのだろうか。世界2位の輸出国ベトナムでは、今年の生産量は737万トンと昨年の675万トンを超える見通し。初めて700万トンの大台になる。ベトナム米は最近品質改善が進んでおり、また納期が守られるようになったこともあって、インドネシアなどからの引き合いが増えている。

タイ米が減るとすると、ベトナムはそれをカバーする最有力候補だが、輸出余力は今のままでは限られている。この5年間で輸出量は50%増えたが、生産量は現在3900万トン程度。10%しか増えていない。

世界3位の米輸出国インドだが、輸出には政府の規制がある。米買い上げ制度があり、政府在庫が貯まると輸出弁が開かれるという仕組みだ。その際の輸出量は数百万トンという規模になる。生産量9500万トン前後、在庫量2000万トン以上と規模が大きいだけに、インド米が輸出市場に放出されると大きな需給変化要因となる。

インドの今年の米作は豊作のようである。インドのコメ輸出量は2011年で280万トン。来年は6割増の450万トン前後になると、米農務省は予想している。


■2012年の米価は波乱含み

世界の米価は、タイの輸出米「100%グレードB白米」が指標となる。11月半ばにはトンあたり663ドルという2008年10月ぶりの高値をつけたのだが、2008年6月にはトンあたり1000ドル(約7万8100円)を記録したこともあるので、600ドル台でも記録的な高値とまでは言えない。

タイの輸出減少、高値志向を反映して、世界の米価はどこまで上昇することになるのだろうか。そして、来年に控えたインドの輸出増というワイルド・カードはどのような影響を及ぼすのか。

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*当記事は2011年12月22日付ブログ「チェンマイUpdate」の許可を得て転載したものです。


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