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弱者救済の志はどこへ?!金持ち息子だけが喜ぶ住宅購入減税―タイ(ucci-h)

2011年12月28日

■タイの住宅初回購入者への所得税控除は、有名無実で終わるか■

*当記事は2011年12月23日付ブログ「チェンマイUpdate」の許可を得て転載したものです。


20111228_タイ_住宅

チェンマイの街は建設ブームだ。我が家(街の中心から7km郊外の住宅街)の回りも、新しくムーバーン(住宅街)やビルが建設中。道路も拡張中である。サンカンペーンへ行く拡張中の新道を、ひそかに「インラック街道」と名づけている。


■住宅初回購入者に対する所得税控除


インラック政権になり、自動車と並び住宅の初回購入についても税優遇が導入され、2011年9月27日より施行された(2012年末までの有限措置)。自動車と同じく、こちらも洪水に大きく水をさされた形だ。というか、もとより低所得者への優遇にはちっともなっていない。

新車初回購入者に対する税還付策=洪水も重なり悲惨な結果に―タイ(ucci-h)

Construction
Construction / WordRidden



■所得税を払っていない中低所得者層には効果なし


前回記したように、住宅購入代金の10%を5年間に渡り税額控除できる(当初の課税所得控除案から変わった)仕組みだが、このスキームで明らかになったことは、こういった所得税優遇策は、所得税をほとんど払っていないタイの中低所得者層にはほとんど効き目がないということである。

とんでもなく変わるタイの住宅初回購入優遇策 (チェンマイUpdate、2011年10月3日)

タイでは、個人所得税の支払いが必要になる最低収入、課税最低限は非常に高く設定されている。例えば、月収2万バーツ(約4万9300円)(給与の高い公益ユティリティーや金融機関の勤め人など)で家族を3人を抱える人は、いろいろな控除を受けた後、基本、所得税はゼロである。

タイの個人所得税の控除項目は、基礎控除(6万バーツ(約14万8000円)まで)から始まり、本人控除、配偶者控除各3万バーツ(約7万4000円)、児童控除ひとり1万5000バーツ(約3万7000円)、住宅ローン利子控除(5万バーツ(約12万3000円)まで)、生命保険料控除(5万バーツまで)、年金積立控除、社会保険料控除など全部で12種類もある。

タイにおける個人所得税納入者は高額所得者のみ(チェンマイUpdate、2011年9月22日)


多くの国民が所得税ゼロなのに、所得税控除といっても……、もちろん、その分逆にもらえるわけではない。

Bangkok Construction Workers
Bangkok Construction Workers / twicepix



■減税例

仮に月収3万バーツ(約7万4000円)の独身貴族が、新規に200万バーツ(約493万円)の家を買ったとする。年収36万バーツ(約88万8000円)だが、所得控除が、基礎控除6万、本人控除3万、住宅ローン利子控除5万、生命保険料控除5万、年金積立控除1万などで、20万バーツ(約49万3000円)となると、課税所得額は16万バーツ(約39万5000円)。

税率が課税所得15~50万バーツ・ブラケットは10%だから、通常なら1万6000バーツ(約3万9500円)の税金を払うが、今回の税額控除(200万バーツの1割の20万バーツ(約49万3000円)を5年に分けると年4万バーツ(約9万8700円)まで税金を減らせる)で、所得税はゼロになるわけだ。5年間で8万バーツ(約19万7000円)ほどの税金の節約になる。

ただし、この住宅購入優遇制度の恩恵にあずかる高所得者層にしても、統計はないが、いったい何人の「初回」購入者がいるかである。金持ちの若年層くらいか。


■1230万円以上の高所得者向け住宅も適用


住宅初回購入の税優遇策は決まったけれど(チェンマイUpdate、2011年9月22日)


優遇策の対象となる新築売り出し住宅の価格は、500万バーツ(約1230万円)までと、天井は高い。チェンマイでも住宅売出しが盛んだが(バンコクよりは安いが)、100万から200万バーツ(約247~493万円)台が、庶民に人気のある価格帯だ。

500万バーツ(約1230万円)という高所得者向けの住宅も含まれるということは、「低所得者向けの制度ではなく、タクシン一族の投資会社のためだ」と後ろ指を差される理由となる。500万バーツ(約1230万円)の住宅を買えるのは、月収10万バーツ(約24万7000円)以上の高所得者だ(住宅購入は月収の50倍が適正住宅価格と言われる)。

Entire Gormenghast
Entire Gormenghast / neajjean



■誰がための政策か

住宅ローンの金利を2~3年ゼロにしたほうが低所得者には助かるが、住宅ローン補助案は成立しなかった。ただし、「GHB」(政府住宅銀行)が、100万バーツ(約247万円)未満の安い住宅に限っては、3年間ゼロ金利制度を2011年10月4日に提供している。

ただし、いずれにせよ新規住宅が対象で、マーケットがはるかに大きい中古住宅は対象外である。低所得者のための住宅購入促進ではない。自動車の初回購入者への物品税免除以上に、この住宅初回購入者への税優遇スキームは、誰のために、何のために行なうのか判らない制度である。

おそらく「選挙公約は果たした、しかし利用者が少なかった(実際は、対象者がほとんどいなかった)」で、来年末に終わることとなるのかもしれない。

Room with a view!
Room with a view! / gerrypopplestone


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*当記事は2011年12月23日付ブログ「チェンマイUpdate」の許可を得て転載したものです。


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