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「ファッション民主にサヨナラ」ばらばらの国を変えるために=韓寒コラム解読編

2011年12月28日

鋭い風刺エッセイで人気の小説家・コラムニストの韓寒が、中国言論界に爆弾を投げ込んだ。「革命を語る」「民主について」、そして「自由を求める」という3本のコラムをブログで公開したのだ。なんと人民日報まで引っ張り出される騒ぎとなり、中国言論界の2011年末は突然、革命論議で盛り上がることとなった。


これまで本サイトでは、韓寒のコラム3本と中国言論界の反応を紹介してきた。最終回となる今回はもう一度、流れを整理するととともに、中国の民主化問題について簡単に私見を披露したい。

中国人と民度と民主=韓寒論争

【鉄道追突】改革をしなければ中国という国自体が脱線することに=人気作家・韓寒が共産党批判
革命するには民度と公共心が足りない=人気作家・韓寒が「革命を語る」―中国
コネがあれば俺も汚職できたのに…作家・韓寒が語る「普通の中国人にとっての民主」
韓寒コラムに人民日報まで釣られた=「民主はペットではない」との反論も―中国
口だけの革命はもうたくさんだ!人気作家・韓寒のド直球コラム「自由を求める」―中国
「ファッション民主にサヨナラ」ばらばらの国を変えるために=韓寒コラム解読編


■韓寒って誰?


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韓寒(1982年生まれ、上海市出身)
2000年に18歳の若さでデビュー小説『三重門』(邦題『上海ビート』)でデビュー。一躍人気作家となる。小説だけではなく、鋭い切れ味が売りのエッセイも人気で、そのブログは累計4億PVを超える人気を誇る。いわゆる「80後」(1980年代生まれ)で、しかも大都会・上海の出身ということもあるのだろうか、消費社会化し拝金主義が横行し、他人への無関心がむき出しになった中国社会の現状に言及することが多い。

一方で中国の言論検閲基準すれすれのところにボールを投げるため、ブログ記事が検閲されてしまうこともしばしば。温州高速鉄道衝突事故を題材にしたコラム「ばらばらの国」ではNHKをはじめ、海外メディアも取り上げるほどの注目を集めたが、ブログからは削除されてしまった。また、自身が編集長を務めた雑誌『独唱団』は第1号が好調な売れ行きを記録したものの、雑誌出版コードを取得せずに書籍扱いで出版するという裏技を使ったたために、第2号は出版できないまま、お取りつぶしにあっている。

文筆業以外にもレーサーとして活躍。さらにはイケメンの風貌も生かし、テレビCMにも出演するほどの人気を持つ。




■クリスマスの論争 革命・民主・自由

今回の論争はまず韓寒の2本のコラムが起点となった。23日発表の「革命を語る」、24日発表の「民主について」だ。


革命を語る
中国人には民度がないし、拝金主義が蔓延している。公共道徳もないから他人の不幸にも関心がない。こんなんで革命なんかやったら、もう一回、毛沢東を生み出すだけだぜ

民主について
暴力革命は勘弁。無血革命には「民衆の民度」「為政者の忍耐」「知識人のリーダーシップ」が必要だけど、中国には何一つない。と言うか一般の民衆は普段、民主なんか求めてないよ。困った時に方便として使うだけ。それを見て知識人は「我らは民衆とともにある」とか思っているんだよね。

ざっと読むと、こんな風に「誤読」しかねない文章。民主化シンパの中国ネット民の多くは「裏切られた」と感じたようだ。また人民日報、環球時報などの体制側メディアは「暴力革命は勘弁」「党員8000万人、その家族は3億人と肥大化した中国共産党はもはや中国人そのものだ」というフレーズに大喜びし、悪ガキ・韓寒が大人になったと大喜びした。
(中国ネット民、メディアの反応については記事「韓寒コラムに人民日報まで釣られた=「民主はペットではない」との反論も―中国」を参照)


■種明かしとなった3本目のコラム、「自由を求める」

メディアやネット民の騒ぎが続く中、韓寒はまたも爆弾を投げ込んだ。「民主について」のラストで、「よいお年を」などと書いて年内はもう更新しないように見せかけておいて、3本目のコラムを発表したのだ。

最初の2本は、民主化シンパの人々の問いに答えるという体をとっており、中国における革命、民主や自由の可能性についてネガティブなことが書いてあるかのように読める内容だった。3本目の「自由を求める」はがらりとおもむきを変えている。ざっくり要約すれば以下のとおり。

自由を求める
韓寒ブログ、2011年12月26日

民主ってのは価格交渉の過程だと言ったよね?まずは自分から交渉するよ。中国政府さんよ、ぼくは文化人として言論の自由が欲しいから言論規制を緩和して欲しい。緩和してくれたら、その代わりに過去の失敗、過去の汚職については追及しないぜ。これでどうよ?もしこの条件が嫌だというなら、作家協会の全国大会で一人抗議運動を展開して嫌がらせしてやる。

これがぼくの価格交渉で、ターゲットは言論の自由。民主や法治が欲しい人は、みんなそれぞれ政府と価格交渉すればいいじゃないか。

「民主、自由、法治が欲しいならば中国人一人一人が立ち上がれ」的なアジテーションとも読める内容。自慢するわけじゃないが、一人の韓寒ファンとして最初の2本のフェイクっぷりは想像していた。「中国人の民度」が足りないという挑発的な内容に目が奪われがちだが、出版や司法、教育の重要性やファッションとしての民主化シンパ批判、個々人が実践的な活動をする重要性、中国国民のばらばらっぷりなどが盛り込まれていたからだ。もっともここまでストレートな文章の3本目を書くとまでは予想していなかったが。


■韓寒コラムの波紋といまだに釣られ続ける人たち

韓寒が引き起こした論争はツイッター、中国マイクロブログ、ブログなどのウェブだけではなく、人民日報や環球時報の紙面も飾る騒ぎとなった。ついでに言うと、ウォールストリートジャーナルニューヨークタイムズのウェブ版でまで取り扱われている。革命、民主、自由についてこれだけの問題提起をしたのだから、もはや内容のいかんを問わず大成功と言うべきだろう。

最初2本のコラムで釣られた中国の人々は、3本目が出た後もなかなか自分の主張を変えられずに戸惑っているようだ。環球時報はこの問題に関する著名人のコラムを掲載しているが、「悪ガキが大人になった」という当初の見立てに沿ったままという印象だ。民主化シンパのネット民もいまだに「民度が低いから中国には革命は無理」という部分にこだわって怒っている人が多いように見える。


■民主を神聖化するする民度論

あるいは、民主化シンパの皆様方は、「釣られたとか誤読したとか言うが、コラムには民度についてしっかり書いてあるし、3本目でも撤回されていないじゃないか。おまえがファン心理ゆえに韓寒の暴論を釣りと解釈しているだけじゃないのか」と、私を怒るかもしれない。

確かにその通りかもしれない。本当のところは本人に聞くしかないかもしれないが、本気で民度発言を書いている可能性だってある。本気だとしたら、おマヌケすぎる話である。

・民主は賢人のみが得られる高尚ななにかではなく、多数の利害関係を調停するためのツールである。
・地球上には山のように民主主義国があるが、それらの国の人々はみな高い民度を備えているとでも?
・現状の中国は利益集団間の衝突が激化している。年18万件の群衆事件(デモ、ストライキ、暴動を総称する中国の用語)は伊達ではない。
・中国の治安維持費用(維穏費)は2010年に5500億元(約6兆6000億円)を超えた。軍事費よりも多額のコストが必要となっている。もはや力で利害衝突を押さえ込むのは限界だ。高くつきすぎる。
・安くて効率的なツール、民主の導入が現実的ではないか。

ロジカルに「民度論」を否定する人々の主張をまとめるとこんな感じになるだろうか。私は基本的に同意する。さらに「独裁者が恣意的に権力を振るう国では商売がしづらいし、市場の論理ではなく統治者の顔色をうかがうようになって経済がゆがむ」という一項も付け加えたい。

しかし、もし韓寒が本当におバカな「民度論」を振りまわしているのだとしたら(個人的には民主化シンパの皆様を釣るために手垢のついた民度論を引っ張り出してきたのであり、3本目に明らかなように主眼はそこにはないと考えているが)、そんな部分は無視すればいいだけだろう。例えその部分が本気だったとしても、もっと重要な話がたくさん書いてあるではないか。


■かっこわるい民主だって意味がある

そもそも「直接投票で大統領を決めること」だけが民主ではない。例えば上述したような利害調停のツールとして考えた場合、共産党末端組織の選挙制導入だけでも、多くの社会問題は解決されるはずだ。

今月、世界的な注目を集めたのが烏坎事件だ。広東省の農村が共産党組織を追い出し、農民たち自身が自治組織を設立。武装警察隊に包囲されたという事件だが、これも長い間、末端行政を支配してきた村役人が勝手に村の土地を企業に売り飛ばしていたことが発端となった。

こんな話は枚挙にいとまがない。共産党の末端組織に選挙を導入するだけで、村役人の横暴は相当制限されるはず。中国共産党上層部も末端の腐敗には手を焼いているだけにかなり現実味のある話だが、中国の民主化シンパの皆様は、あまり「党内民主」ネタに期待していないようだ。「直接選挙で大統領を選ぶ」ほどカッコイイ話ではないからだろうか。


■キーボード民主を脱して

韓寒が説く価格交渉の民主とて、現実味のある話ではない。そも13億人一人一人と政府が価格交渉できようはずもない。これはむしろ民主を望む人間の態度を説く話なのだ。ファッションとして民主を語るのではなく、それぞれの人間が自らの立場に根ざした具体的な要求を意識し、その具体化に向けて実践するべきという心構えを説いているのだ。

「自由を求める」の冒頭で、韓寒は「いまだにキーボード民主を口にし、書斎革命を続ける友人たちに関してはもう取り合わないことにする」と書いている(後に削除されたが)。ファッションとしての民主から脱しなさい。ぼくは作家だから良い作品を書くために言論検閲の緩和を要求する。みんなは自分の生活から根ざした要求をしなさいという呼びかけなのだ。


■ばらばらの国

自分の生活から根ざした要求という話でいくと、もう一つ問題なのがウェブでひしめく民主化シンパの人々と一般人、とりわけ農民との乖離だ。中国のウェブは都市民の文化である。現代芸術家、人権活動家、そして重度のネット民である艾未未が不当に拘束された件について、民主化シンパの中国ネット民は過剰なまでに反応した。その一方でウェブの力に助けてもらおうと自分の不遇をマイクロブログに書き込んだが、誰にも相手にしてもらえず、市政府庁舎に自爆テロをしかける道を選んだ農民もいる。

前回の記事に、中国人留学生のマネさんがこんなコメントを書き込んでくれた。

韓寒のこの3本のコラムを削除された部分まで読むと、「俺も民主をあこがれ、自由が欲しい、けど、革命厨のお前らと一緒にするな!」と読みました。

私がネットで見た「民主主義者」たちは、大体「民主」や「自由」を追求するために生きているみたいなことをアピールする人たちです。だけど、民衆は「民主」や「自由」のために生きるではなく、生きるために「民主」主義と言う手段を選ぶだけです。「民主」といい、「自由」といい、主義という字がつける全ての言葉はあくまでも手段の一つに過ぎない、追求すべき目的ではありません。

今回韓寒を批判する人たちもそうです。「民主」を愛する人たちは、民衆が本当に求めるのは「民主」ではない事実を認めることもできず、誇り高い理想がけがれたと感じ、騒ぎました。このままだと、民衆たちと距離が置くのは中国共産党ではなく、彼らです。最近私の友人たちの不満からみると、もうぜいぶん離れたかもしれません。

温州高速鉄道衝突事故後に韓寒が書いたコラム「ばらばらの国」。ばらばらになったのは鉄道だけではない。国も、国民も、各利益集団もみんなばらばら。そして、民主化シンパの中国ネット民もまた、独自世界の中だけで騒ぎ、外から隔絶されたばらばらの状況にいる。

むろん民主化シンパの人々がすべて間違っているとか、独善的だとか、ファッションとしての民主化シンパしかいないとまで言うつもりはない。だが、全体的な状況を見ると、韓寒の指摘はそんなに的を外していないのではないか。

中国人と民度と民主=韓寒論争

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 コメント一覧 (1)

    • 1. 虚言に踊らん
    • 2012年11月07日 11:53
    • 魯迅からこの坊やまで、本当のところは本人に聞くしかないかもしれない文章を操る中国作家のスタイルは、中国人と中国に興味のある人にしか面白みを感じさせることができないだろうな。
      誰か彼らに俳句か川柳を教えてやれよ。

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