中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年01月03日
武汉站 / chinnian
中国では太陰暦の正月、いわゆる「春節」(旧正月)が最大の祝日。多くの人が故郷に帰省するため、のべ数億人が移動する民族大移動が起きる。春節前後40日間は特別ダイヤが組まれ移動需要に対応するのだが、今年は1月23日の旧正月に向け、1日より特別ダイヤが施行された。
昨年はのべ2億人が鉄道を利用していることからもわかるように、春運は決してたやすいミッションではない。今年は切符実名制、ネットでの切符販売という新たな試みが導入されたことで、混乱に拍車がかかっているようだ。
■実名制の混乱
従来は一部路線に限定されていた実名制、ネット切符販売システムだが、1月1日から高速鉄道全路線で実施される。列車番号がGから始まる高鉄とDから始まる動車組が対象だ。切符には名前と明記されており、乗車の際には身分証やパスポートなどを提示する必要がある。
そのチェックに時間がかかって駅が大混雑しているという。現状では一人当たり8~13秒という時間がかかるとのこと。「春運」と呼ばれる旧正月前の民族大移動がスタートしている中でのタイムロスだけに大変だ。
■ネット販売の混乱
切符を買う際にも、身分証を提示し名前などを入力する必要がある。これを窓口でやるのは大変なのでネットで注文し駅の発券機で受け取ると便利ですよ、というのがネット切符販売システム。ダフ屋を防ぐために、1便あたり1人1枚しか買えない仕組みとなっている。
ところがこのシステムでもトラブルが続発。まずアクセスが集中し、ネットがダウン、あるいは接続しづらくなる現象が生じた。さらにはお金だけとられたのに予約が取れていなかったという切ない話も伝えられている。
中国鉄道部によると、仮予約→入金→予約確定のプロセスを30分以内に終了させないと、仮予約がキャンセルされてしまうためだという。つながらないネットにいらいらしているうちにタイムオーバーとなってしまったようだ。なお入金したお金は15営業日以内に払い戻される。
■もう一人のボクが切符を買っていた
もっと笑えないのが予約しようとしたら、「あなたはすでにこの便の切符を購入済みです」と表示されたケース。システムのトラブルという可能性もゼロではないが、ダフ屋か誰かが他人の身分証番号を使って切符を購入したとの見方が強い。
もっとも乗車時には切符に加えて身分証を提示する必要があるので、そこをダフ屋がどうクリアするのかは気になるところ。大混雑でろくにチェックできないはずと踏んでいるのか、あるいはニセ身分証とセットで乗車するのか。
■アグレッシブの功罪
高速鉄道限定とはいえ、実名制とネット切符販売を旧正月時期に導入するとは……。無謀だと批判するべきか、あるいはアグレッシブさをほめたたえるべきか。
実名制の無茶っぷりは言うに及ばずだが、ネット予約の難しさは常々指摘されているところ。例えば語学試験の受付などネット化されたシステムでは申込日にアクセスが殺到してサーバーダウン、というのはもはや日常茶飯事となっている。
閉塞感漂う日本にいると、「多少の失敗があっても、新しい仕組みを取り入れるんだ!」というアグレッシブ精神が好ましく思える時もあるが、温州高速鉄道衝突事故のようにしゃれにならない被害を生み出す可能性もあるというのもまた事実。40人がお亡くなりになる程度の事故では、中国は怯みはしないということだろうか。
・主な参照記事
「中国铁道部回应售票网系统瘫痪」BBC中国語、2012年1月3日
「全国列车今起全部实名制 身份证被假冒注册频发生」財経網、2012年1月1日
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