中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年01月04日
Beijing, China: Liang Ma river, behind Kempinksi hotel / Marc van der Chijs
■タダでマンション、ゲットだぜ
「タダでマンションが手に入ります?いかがですか?」
どう聞いても冗談にしか思えない言葉だが、これが本当のセールストークだというから驚きだ。広東省恵州市大亜湾のあるマンションでは、2011年12月18日から前代未聞のキャンペーンを実施している。
もちろんお金が不要なわけではない。購入者はまずマンション購入価格全額を支払う必要がある。しかし5年後には購入価格全額が返還されるという寸法だ。他にも1年ごとの分割返還、月ごとの分割返済を選ぶこともできる。いずれも満期は5年。1年ごとの場合は最終的な返還額が購入金額の75%、月ごとの場合は64%にまで減額される。
■5年後の資産価値と倒産リスク
「5年後にはお金が返ってくるんでしょ?タダみたいなもんじゃん!」と思った方はあまり投資に向いていないかもしれない。結局、これはマンションを出しにした金融商品のようなものなのだ。マンションの価格が1000万円だと仮定しよう。5年後に1000万円が購入者に戻されるので、その時の資産額は「1000万円プラスマンションの時価」になる。マンションをもらわずに1000万円を5年間運用した金額がこれを上回るならばお徳。下回るなら損となる。
これだけ考えれば元本保証型の投資のようにも思えるが、それはあくまで販売業者が倒産しなかった場合のお話。「50戸限定の出血大サービス」と銘打っているが、こんな面白すぎるキャンペーンを展開する理由は一つ、資金繰りに困っているからだろう。
それを裏付けるような話もある。キャンペーンに申し込んだ李さん(怖いので年ごとの返還にしたそうだが)によると、応募者を集めた抽選会が開催されたとのこと。李さんは二等のiPhoneを見事当てたそうだが、その引き渡しは代金を全額振り込んだ後になるのだとか。どれだけ焦ってるんだと不安になる話だ。
資金繰りに困っているなら、こんな面白いことをしなくても、在庫物件を安値で売りさばけばいいと思われるかもしれないが、中国ではそう簡単な話ではない。先に購入した人が損をすることがないよう、勝手に値引き販売することは禁止されているからだ。そのためマンション販売企業は「タイムサービスで安売り」「特別キャンペーンだから安い」とかいろいろな理由をつけて値下げしている。それでも先に買って損をした住民が怒り、暴動騒ぎになる例が後を絶たない。
Broadway Mansions Hotel, Shanghai / andreweland
■「焼銭」モードから「過冬」モードへと転換した中国
2010年末からインフレ、とりわけ不動産価格の高騰が最重要課題となった。2011年の漢字として、制御を意味する「控」が選ばれるなど、インフレ及び不動産価格抑制が政策的なトレンドとなった。銀行融資というパイプをしぼられ、不動産企業は今、干上がりつつある。
近年、中国の大手企業は豊富な銀行資金供給に支えられての「焼銭」モードが主流であった。今、もうける必要はない。金はいくらでも借りられるのだから。将来の勝利を目指して金を突っ込めという発想だ。本サイトでたびたび扱ってきたグルーポン系サイト業界ならば、ユーザー数拡大を目指して赤字垂れ流しの営業をかける。
不動産業界であれば、どれだけ金を突っ込んでもいいからとりあえず土地をゲットすれば勝者という風潮だ。なに、土地という仕入れ値がどれほど高くついたって、しばらく寝かせておけばその土地の値段は必ず仕入れ値を上回るのだから。
しかし、「控」の猛威によって「焼銭」モードが消失。代わって、金融引き締め期間が過ぎ去るまでひたすら堪え忍ぶ、冬の痛みを乗り越えるためになるべく手持ち資金を増やそうとする「過冬」(冬眠)モードの時代となった。倒産せずに生き残り、次の春を迎えた者が勝者となるのだ。
■「過冬」時代の中国不思議ビジネス
岡田武史監督が就任した中国のサッカークラブ・杭州緑城。そのスポンサーである緑城集団は特に資金繰りが厳しいもようだ。株式や取得した土地をライバル企業に譲渡してまで資金集めに走っているという。他の不動産企業でも従業員への給与遅配が噂されるなど、状況はかんばしくない。
金融引き締めの余波を喰らって、中小零細企業の経営が苦しいとも伝えられているが、中央政府は「構造的減税」「行政費用免除」「中小例差企業からの政府調達拡大」などで対応する方針。預金準備率の引き下げはあったが、全般的に見れば金融政策はなお引き締め方向に傾いている状況で、冬が明けるのはまだまだ先のようだ。
「タダでマンションをプレゼント」も「過冬」モードにおける決死の方策の一つ。今後、どんな不思議ビジネスが登場するのか。そして消費者の側は、こうしたギャンブル的キャンペーンに乗るのか乗らないのか。中国不思議ビジネス好きにはウォッチしがいのある時期を迎えている。
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・主要参照リンク
「开发商促销花样多 广东一楼盘“购房返款”令人咋舌」中国証券報、2011年12月23日
「惠州 购房返款低调进行」中国証券報、2012年1月4日
「绿城、上海证大退出外滩地王 SOHO中国40亿元获50%权益」財新網、2011年12月29日