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市民みんなが闇金に出資する街=連鎖倒産に数千人がデモ―中国

2012年01月05日

2012年1月1日、河南省安陽市の駅広場では元旦にもかかわらず数千人が集まり、デモを行った。警官隊に向かって、「発砲してみろ」と口をそろえて叫んだという。


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デモの原因は闇金融の相次ぐ倒産、夜逃げ事件だ。昨年秋時点で安陽市政府は40社もの闇金業者リストを発表していた。彼らが一般市民から集めていた資金は400億元(約4800億円)超とも伝えられている。また、金額だけではなく、出資した一般市民の数も驚くべき数に上る。なんと現地市民の20%、5人に1人が出資していたとも推定されている。


■群衆事件の4類型

最近、中国では群衆事件(ストライキ、デモ、暴動などを総称した中国特有の用語)が続発しているが、その要因は一つではない。烏坎事件に代表される基層政府幹部の汚職や横領、官による土地の「略奪」をきっかけとしたもの。大連PX事件に代表される環境汚染を原因としたもの、南京LG工場など賃上げや未払い給与を求めるもの、そして安陽市のように闇金融(違法民間金融)で損をした住民によるものなどに大別することができる。

昨年の温州経営者夜逃げ事件、あるいは広大なゴーストタウンを擁するオルドスでも違法民間金融が大きな役割を果たした。その実体はいかなるものだったのか気になるところだが、昨年10月の21世紀経済報道記事が安陽市の闇金業態について具体的に報じている。

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■車を金券化する不思議ビジネス

安陽市では違法な民間の資金集めがほぼ公開状態で行われていた。集金所とでも言うのだろうか、出資金を集めるオフィスが市内に数カ所あったという。商店主、公務員、退職労働者など、少ない者は数万元、多い者で100万元以上も集めていたという。特に女性や高齢者の出資が目立つ。さらに企業が直接出資を受けるケースだけではなく、仲介業者や個人で仲介業務を行う者も多かった。さながらマルチビジネスの様相を呈していたという。

記事では闇金融業者の典型例として3つの業種を紹介している。第一の例がもっとも穏便にグレーゾーンの道を歩んでいたカーリース企業だ。その大手・思麟公司は2000年から業務を始めていた「老舗」である。他にも中古車販売、貿易、ビジネスホテル、投資企業など多分野に進出していた。

さて、カーリースといっても、顧客がお金を払って車を借りるという方式ではない。顧客はまず自動車価格よりはるかに高い保証金を支払い、車の使用権(整備料、保険料込み)を借りるという仕組みになっている。契約期間が満了すると、保証金は全額顧客に払い戻される。

先日、「タダでマンションをプレゼント」という話を紹介したが、その車版というわけだ。カーリース企業は預かった保証金の運用でもうける。また新たな借り手が登場すれば実質的には返済不要となるわけで、車の値段の数倍という発行益が得られることになる。同社は2000台の車を保有していたというが、新車価格を50万円、保証金額を100万円と想定すると、

車購入費用:10億円
保証金:20億円
差し引き発行益:10億円

という計算になる。2000台の車を誰かが借り続けてくれているかぎり、10億円の元手を好きに使えるのだ。しかし運用の失敗か、あるいは新規契約者の減少か、理由は不明ながら、昨年7月に返済が滞るようになり、ついには夜逃げへといたった。


■より大胆な高利貸

より大胆に違法な金集めを敢行していたのが第二の事例・投資企業、第三の事例・不動産投資企業となる。投資企業は株式投資、鉱山投資、大豆先物などの投資を代行するという触れ込み。年10~17%のリターンを約束していた。

不動産投資企業も分野を不動産に限っているというだけで宣伝文句は似たようなものだが、バックにいるのが投資を受ける不動産企業そのものという点が特徴だ。2010年秋以後、中国は金融引き締めに転じ、不動産企業は資金調達が困難になった。

安陽市の不動産投資企業はほぼすべてがこの時期に設立されたもの。銀行から借りられないなら代わりに闇金で金を集めようというわけだ。狡猾なことに登記上の経営者は不動産会社の一般従業員が担当していたケースが多い。罪をなすりつけられるよう、身代わりを立てていたようだ。

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■なぜ一般市民が闇金に出資するのか?


日本でも闇金はごくごく当たり前の存在だが、しかし一般市民が闇金のスポンサーになっているという話は聞かない。また、友達や親戚から「君も闇金に出資して一儲けしようぜ!」と誘われたりするケースは普通はないのではないか。

中国の闇金も多くは銀行や企業が資金源になっているのだが、一部地域では一般市民の貯金が闇金の資金源になっているケースも多い。安陽市でも借金してまで闇金に出資した一般家庭の話が伝えられている。息子の結婚費用を稼ぐのが目的だったが、闇金が夜逃げした後、返済を迫ってきたヤクザに息子は鼻を切り落とされてしまった。

なぜこんなことが起きるのか?「中国人の国民性」「民度が不十分だから」という答えでは不正解だと考えている。もちろん知識の不足も問題ではあるが、中国のインフレと預金利率の逆ざやが背景となっている。2011年、中国のインフレ率は約6%となったが、普通預金の利率は0.5%、1年定期で3.5%と下回っている(中国建設銀行)。デフレの日本では銀行にお金を預けても名目ベースでは増えないが、実質ベースでは価値が高まっている。預金はお徳なわけだ。一方、逆ざやの中国ではお金を預ければ実質ベースで目減りしてしまう、すなわち銀行預金は損なのだ。

それでも仕方なく銀行預金している人も少なくないが、インフレ率に負けないだけの運用をしようと、株だ、ファンドだ、先物だ、黄金だと投資に走る一般人も少なくない。とはいえ、投資にはそれ相応の知識が必要だし、損をしても自己責任だ。高利貸ならば、お金を預ければそれだけで10%以上の高配当を約束してくれる。そこに知識は必要ないのだ。しかも、信頼している友人やら親戚やらが仲介に入っているとなれば、なおさら信用してしまうだろう。


■高金利で金を借りる人たち

ついでに誰が闇金から金を借りているかという話もしておこう。銀行からお金を借りるのが難しい中小零細事業者という当たり前の人もいる。加えて、闇金金利以上の高リターンの投資が可能な人もお金を借りている。

例えば、マンションやら鉱山事業への出資やら20%のリターンが見込めるのならば、金利10%の闇金から金を借りても十分儲けることができる。そんな投資先があるなら、一般人も闇金に出資するのではなくて、直接投資すればいいじゃないかと思うかも知れない。だが、高リターンの投資にはまとまったお金や知識、そしてなによりコネが必要だったりするので、一般人にはハードルが高い。

もちろん闇金からではなく、銀行から借りられればもっと安い利率でお金を調達できるのだが、残念ながら銀行の融資枠には制限がある。昨年秋以来の金融引き締め後、その蛇口はさらに絞られた。銀行としてもリスクが小さいところに貸したいので、自然と融資は大企業や政府機関に集中する。干上がってしまった民間は闇金に手を出すしかないわけだ。


■違法民間金融の広がり

こうした一般市民出資による闇金がどれほど広がっているのか、その規模については正確な数字は分からない。安陽市という片田舎だけで400億元(約4800億円)以上の金を集まっていたというのだから、中国全体の規模は推して知るべき、といったところか。昨年9月には銀行預金が約5兆円流出したが、専門家はその多くが闇金に流れ込んだと見ている。

「非法集資」(違法資金集め)という単語でググってみると、中国各地の問題がどどっと出てくる。一般に南方で流行しているとも言われるが、吉林省の問題が顕在化していたりと北方にも広がりを見せている。

違法民間金融事態は中国全土に広がっているとはいえ、温州市や安陽市のようなレベルまで問題が拡大するか否かは、現地政府の態度によって決まるという側面もある。安陽市では投資企業が公然とオフィスを構えているなど明らかに現地政府がおめこぼしをしていたことがうかがわれる。投資企業と現地政府官僚が結託していたのか、あるいはGDPを高めるための必要悪と見逃していたかまではわからないが。

闇金問題で大きな衝撃を与えたのは2008年吉首市の暴動だ。なんと10万人が街頭に繰り出し駅を占拠。自分が失った金を政府が保証するよう求めた。吉首市の官僚は闇金ルートを使って産業に金を供給し、経済成長を実現、自分の政治的業績とするという壮大なプランを実行していたという。そのために闇金を取り締まるどころか奨励していたのだとか。転勤するまで闇金が破綻しなければ勝利だったのだが、残念なことに賭けに負けたようだ。


■局所的闇金破綻がもたらす社会不安

市民の出資を集めた闇金は高成長が続くかぎりは問題にならない。高いリターンを約束して金を集めたとしても、それ以上の収益をあげることができれば自転車は走り続けられるからだ。だが、金融引き締めモードが続く中国では、今後も局所的な闇金の連鎖破綻が相次ぐだろう。

それが中国経済全体にとってどれほどの打撃になるかは未知数だが、地域にとっては破壊的な打撃を与えるだけに、今回のようにデモなどの群衆事件につながる可能性は高い。

冒頭で群衆事件の4類別を紹介したが、なぜ異なる要因であっても結局は「騒ぐこと」という同じ手段に出るのかという点に注目しよう。それは「人数を集めて騒げば、で慈悲深き政府が解決してくれる」という期待が強いため、「騒ぐこと」が有効な解決手段だと認知されているためだ。

裁判で訴えても解決できるかわからないし、面倒くさい。政府に陳情してもとりあってもらえる保証はない。一番可能性を感じる解決手段は「騒ぐこと」なのだ。実際、今回の安陽市にしても政府は市民の金を取り戻すべく最大限の努力をすると約束している。

「慈悲深き政府」という役割を果たすことは大変である。だからといって、このお面を中国共産党が外すこともできない。そのお面こそが独裁政権が持つ「統治の正当性」だからだ。騒ぎを起こす側も本当に政府が慈悲深いなどとは思っていないだろう。助けを求める民草と慈悲深き統治者という筋書きの中、「騒ぎ」は演じられるのである。

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・主な参考記事
河南安阳传销式民间借贷雪崩 40多企业涉非法集资」21世紀経済報道、2011年10月21日
融资公司疑集体跑路 河南安阳民众元旦示威」VOA中国語、2012年1月1日
湖南爆發大規模群眾示威 震動中央」人民報、2008年9月5日


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 コメント一覧 (4)

    • 1. \q\
    • 2012年01月05日 21:52
    • 国内で真っ当な金の循環ができていれば銀行の金利も上がり、インフレ率と乖離する一方ということは無いはずですが、闇金に政治力で流してしまっては銀行の金利も上がりませんね。
      これも広い意味での政府の責任だと思います。
    • 2. Chinanews
    • 2012年01月07日 00:20
    • >\q\さん
      おっしゃるとおりで、高成長維持のために金利は上げたくないという判断、中小企業向け金融整備の遅れなど政府の責任は大きいと思います。
    • 3. 天天
    • 2012年01月07日 10:14
    • 是非闇金の広がりを地図で見てみたいと思っています。

      その地図を見れば、地域ごとの経済力の差、そして文化の違いを見ていくことができると思うので。
    • 4. Chinanews
    • 2012年01月08日 23:43
    • >天天さん
      本当、地域分布とか知りたいです。
      温家宝が民間金融推進の発言をしましたし、地下経済を表にひきずりだす努力を続けるのでしょうが、どこまでうまくいくのか。
      地方政府の債務もそうですが、全貌がなかなかわからないというのが一番不気味ですね。

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