■「中国男との結婚が日本でブーム」大手ウェブメディアが3年前のコピペ記事で煽っている件■
Wedding Qi & Marc (Beijing, Sept. 10, 2005) / Marc van der Chijs
■日本の男は卑屈だから中国の男と結婚するわ
2012年1月6日、日本ウェブニュース・サーチナが次のような記事を配信した。
「中国料理を食べ、中国男性に嫁ぐ」 日本人女性に流行? =中国
中国メディアの中国新聞社が5日付で「現在、日本人女性のあいだでは、中国料理を食べ、中国人男性と結婚するのが流行している」と報じた。経済が世界的に低調であるなか、中国経済が好調であることなどがその理由だという。
日本では中国人男性がますますもてはやされ、日本人女性の厚意を受けている。ある有識者は、「日本人女性は、中国経済が成長し中国人がますます裕福になっているのを見て、中国人男性にねらいを定めている」と述べた。
続けて、「日本は現在、女性のほうが男性よりも積極的になっている。日本人男性はいくら思いやりがあって家事ができようとも、あるいは仕事に励んでお金を稼ごうとも中国人には及ばない。なぜなら中国人に市場を奪われ、今の日本人男性は卑屈になってしまっているから」と主張した。
また記事は、日本のテレビ局に所属するアナウンサーを取り上げ、女性という立場で、「ただ優れた人を夫として選んだだけ」と述べていることを紹介した。
さらに、中国人男性と結婚した国会議員秘書の女性も紹介し、「日本人男性は男尊女卑がひどいため」と報じた。(編集担当:及川源十郎)
「日本の男は卑屈だから中国の男と結婚するわ」という扇情的な内容で、ヤフーニュース海外ランキングでは一時トップとなり、1200件以上ものコメントが寄せられている。
■2009年から時を超えてやってきた「名作コピペ」
この記事を見た時、私はデジャブのようなものを感じた。サーチナの紹介はかなりかいつまんだものだが、おそらく同じ内容のネタを扱った記憶があるからだ。それも随分昔に。
と思って、自分のサイトを検索してみてでてきたのがこちら。
日本の男は無能!「中国の男」との結婚が日本人女性にブーム
2009年12月、千龍新聞網に掲載された記事「日本人女性のブームは「中国人男性との結婚」、中華料理も人気」が掲載された。(…)
(…)日本がまだ悟らず、龍(中国の意)と仲良くすることを学ばないならば、わたしたち大和の女性は強い中国人と結婚するだけです。そうなった後、日本人男性は永遠に地獄で後悔するといい。
詳しくはリンク先を参照していただきたい。2009年のニュースがなぜ、2012年の「最新ニュース」としてサーチナに登場したのか。
私が2009年の時点で参照したのは千龍網だが、初出はまた別のようだ。記事中には明記されていないが、中国語原文には「私が経営する巨龍新聞社の社員、加藤さん」という一文があるので、作者は孔子の子孫として日本でも執筆、テレビ出演などで活躍する孔健氏だろう。
ネットを検索したかぎりでは2009年がもっとも古いので、そのころから中国ネットで繰り返し転載されていたと見られる。一時ほどの話題性はなくなったものの、なんと2012年まで転載が繰り返される「名作コピペ」としての地位を手に入れていたようだ。
サーチナ編集者が参照したという日中新聞社のURLは発見できなかったが、
1月2日付新華社(国際在線より転載)というアドレスは見つけることができた。ちなみに笑えることに
中国新聞網にも確かに記事は載っているのだが、その日付は2009年12月8日なのだ。
こちらも国際在線からの転載。サーチナ記事によると、2012年1月5日付でこの記事を配信したということだから、中国第二の国有通信社・中国新聞社が2009年と2012年の2回、この「名作コピペ」を掲載したことになる。
■中国ネットメディアも辛いよ
KINBRICKS NOWもネットメディアを目指しているのでこんなことは言いたくないのだが、ネットの無料ニュースはなかなか儲からない。
その事情は中国も同じだ。わずかな広告収入を目指して会社はアクセス目当ての煽り記事を連発し、ネットニュース編集者は真偽はともかく受けそうな記事や写真を転載しまくる。中小だけではなく、人民日報や新華社、環球時報など「中国共産党の喉と舌(代弁者)」を自称する大手国有メディアのウェブニュース部門でも変わりはない。
かくして「名作コピペ的な煽り記事」や「ちょっとエロい写真」は何度も何度もニュースサイトに転載されることになる。日本関係では、「女体盛り」「AV女優になった中国人留学生」「日本で金糞食作りに参加させられた中国人処女」あたりが転載回数上位の「コピペ記事」だろうか。
■サーチナさん、大丈夫?
さて、こうした中国ローカルニュースを積極的に取り上げているのがサーチナ。他にも同じことをしているサイトもあるが、集客力では他を圧倒しているだろう。そのサーチナのエース編集者の一人が及川源十郎さん。ヤフーニュースランキング上位に食い込む記事をたびたび書いている。
例えば「
日本語話せるか? 「YES、ミシミシ」→不正入国バレる=米国」(2011年5月16日)も及川さんのヒット作。ヤフーニュースでも話題となり、多くのコメントがついた。それが中国に逆輸入され、
環球時報にまで掲載される騒ぎとなった。
中国の抗日映画、ドラマには「バカヤロ」「ミシミシ」という日本語が頻出する。中国人ならば誰でも知っている日本語と言えるだろう。そのエセ日本語で米国に密入国をしようとしたというのはよくできた話。ところが中国語、英語のニュースサイトを探しても、元ネタが出てこないのだ。
この疑問を解いてくれたのが、中国ネット掲示板・
天涯社区の書き込み。サーチナは「鳳凰網が報じた」と書いているが、正確には鳳凰動画に掲載されている
コメディトークショーが出典だったとわかった。違法入国自体は事実としてあったのかもしれないが、「Yes、ミシミシ」のくだりはコメディ司会者が作り出した創作だろう。
■中国ローカルニュースの扱い方
わたし自身が「
日本人女性のブームは「中国人男性との結婚」」の記事を書いた時、記事の信憑性が疑わしいこと、中国人の間でも捏造だろうと疑う声が上がっていることを指摘した上で、こう論評した。
中国人男性が何をほめてもらいたがっているかがよくわかる記事といえるかもしれない。苦汁の近代史を歩んできた中国にとって目指すべき目標は「自強」だっ
た。身近にステキな中国人男性がいる女性は、「あなたってとても強い人ね」とささやくのは効果的な言葉なのかもしれない。
この論評が的を射ているかどうかはともかくとして、中国ネットニュース界を回る「コピペ記事」の分析は十分に面白いネタたりえると思う。しかし、サーチナさんがやっているような「本当のニュース」として日本に流すのはいかがなものかと首をひねってしまう次第だ。
日本では自サイトからアクセスを逃さないためにリンクを貼ることを極力避ける風習があるようだ。サーチナももちろん参照記事をリンクしていない。これを変えるだけでも検証の手間が相当省け、変なネタが広まらなくなる抑止力だと思うのだが……。サーチナはじめ、ニュースサイトの皆様はぜひぜひご検討ください。
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