■巨大ダムの水位が乾季の今、昨年を含めた例年よりも異常に高く、水害の再来がはやくも心配される■
*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2012年1月12日付記事を許可を得て転載したものです。
■2011年は大洪水、2012年は干ばつ?それとも洪水?
2011年、タイは半世紀ぶりの大洪水に襲われた。2012年は逆に乾季の干ばつが心配されそうだが、2012年1月現在、早くも5月~10月の雨季に再び洪水が到来するのではないかと懸念されている。なにもタイお得意の占い師の予言などではない。主要ダムの水量が例年に比べて異常に高いことが不安視されているのだ。
昨年の洪水時にもとりあげたメガダム「プミポン・ダム」(容量135億立方メートル)の水量変化を見ていただきたい。ちょうど1年前、2011年1月10日時点での水量は81億立方メートル、貯水率で60%。水位は2010年12月初頭をピークとして、4月末までの5カ月間、乾期のため減少していく。
(関連記事:「プモポン・ダム1年間の水位の変化から判ったこと」チェンマイUpdate、2011年11月4日)
2011年はそれでも洪水になった。3月、4月に水量が減らず(最低値は4月末の45%)、5~7月に例年より早く水位が上昇していった。ちなみに例年だと5~7月にかけて貯水率は30%前後まで下がり、8月なかばから上昇していく。
■乾期になってもダム貯水量が減らない理由
さて、2012年1月現在、プミポン・ダムの貯水量は123億立方メートル(91%)もあるというのだ。なぜ乾季になっても貯水量は減っていないのか。大洪水で昨年10~11月時点で満杯に達したダムは、乾期の今、12億立方メートルほど放水しているが、貯水量はまだまだ高水準にある。ウタラディットにある「シリキット・ダム」の現在の貯水率も89%と高い。
「下流にはまだ水が十分引けていない地域もあり、例年以上のペースで放流させることは無理だった」というのが、ダムを管理する灌漑局とタイ発電公社の言い分だ。
もっとも下流に水のないチェンマイ北の「メーガット・ダム」と「メークワン・ダム」の現在の貯水率も103%と92%と高水準にある。放水できないというよりも乾季の干ばつが怖いというのが現実に近いのかもしれない。
■タイ政府は大洪水から何を学んだのか?
では今後どうなるのだろうか?現在プミポン・ダムでは、一日5500万立方メートルの放水を続けている。単純計算すると、4月末までの110日間で60億立方メートル放水できる。そうすれば4月末の水量は現在の約半分、63億立方メートル(47%)まで減少する計算だ。灌漑局は4月末までに40%(54億立方メートル)を目指すとコメントしている。
2010年は雨期の貯水量ピークから乾期の貯水量ボトムまで57億立方メートルを減らしている。しかし2011年は27億立方メートルしか減らさなかった。おそらく2010年のような干ばつを恐れたためだろう(特に3、4月に放水を躊躇したようだ)。今年は例年以上の貯水量のため、2010年以上のペースで放水しなければ、再び洪水が起きる危険がある。
63億立方メートル(貯水率47%)、すなわち昨年と同じ貯水量で雨季を迎えては危険だ。4月末時点で54億立方メートル(40%、2009年5月半ばの水準)か、それ以下になければ、大雨対策が不安になる。
昨年の水害後、政府の「水源管理戦略会議」は、会議は重ねてきたが、これといった有効な対策は出せずじまいに終わっている。流動的なこまめな放水のやり方など学べば、ダム貯水量の目標値設定とその実現方法、そして干ばつへの対策なども可能だと思われるが、関連する役所・官庁が入り乱れているようで、すんなりとはできないのかも知れない。
雨季入りまであと4ヶ月を割ってきた。今年こそは、水浸しにならないダムの放水管理をやってもらいたいものだ。