■市場停滞の中、最低賃金のさらなる引き上げで戦略転換を迫られる中国深圳の輸出企業群■
*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2012年1月12日付記事を許可を得て転載したものです。
ShenZhen Experimental school@ShenZhen / wenxin
■深圳市の成長と危機
香港に隣接する中国広東省深圳市。30年前の一漁村は今や1500万人が住む大都会へと姿を変えた。年1兆元(約12兆円)を生み出すこの街は、上海市、北京市、広州市に次ぐ中国第四の都市の座を手に入れた。
その深圳が苦境に陥っている。国内経済の引き締めに加え、欧州、米国の景気低迷により輸出品生産を主とする経済は落ち込みが続く。中国の輸出伸び率は2010年の+30%から2011年はほぼ+20%にまで低下。2012年にはさらに鈍化すると見られる。
需要の減退に追い打ちをかけたのが、人民元レートの上昇(昨年4月の1ユーロ=9.4元から現在は8.1元に)、そして賃上げを求めるストや争議だ。さらに現行でも中国一高い深圳の最低賃金はさらに引き上げられる見通しだ。
■またまた引き上げられる深圳の最低賃金
深圳市は、中国一最低賃金の高い都市だ。2011年3月に19.6%上昇の月1320元(1万5800円)に引き上げられたが、2012年2月1日からはさらに13.6%上昇の月1500元(1万8000円)になるという。
中国の最低賃金引き上げがタイを上回る勢いであることは以前にもお伝えした。深圳市の最低賃金は、タイで計画中の1日300バーツ(月6150バーツ、1万6000円)を超える水準である。
広東省副省長は、「珠江デルタ地帯の他の都市は景気低迷のため、今年は最低賃金引き上げを見送るかもしれない」と発言しているが、珠海市や恵州市などの深圳近隣の諸都市でも13%程度の最低賃金引き上げが計画されているようだ。
インフレ率が高いこと、そして所得増加と内需振興を目指す意図から、政府は賃上げを後押しする意識が強いようだ。
Shenzhen Elevated Highway / kevinpoh■追い込まれた中国企業の転換 一方で、景気低迷は深刻で、広東省諸企業の受注額は2012年第1四半期、30%弱の減少と省政府は予想している。深圳の企業にとっては泣きっ面に蜂といった状況だが、この難事が中国沿海都市企業の転換点となる可能性もある。欧米相手に低賃金を武器に攻める戦略が有効性を失いつつあることが判明したからだ。
そうなると、戦略転換の向かう道は2つある。第一に高付加価値、高性能製品を製造し、高マージンの仕事を得ること。第二に輸出中心から国内市場中心に舵を切ること。
「言うはたやすく行なうは難し」は世の常だが、中国には早くも戦略転換に打って出た企業が現れている。深圳が経済特区になって30年。中国企業の経営レベル、技術レベルが向上したことのあらわれだろう。
高付加価値型戦略の例としては、「シェンツェン・ロンジェン・テクノロジー社」がある。LEDスクリーンの製造メーカーだが、高性能医療機器製造という新たな分野に挑戦するという。医療機器は売れる数こそ少ないが、利益率の高さが魅力となる。
国内市場への転身の例としては、「ワン・ルジア・ドレスメーカー社」があげられる。ここまで欧米向けにウエディング・ドレス、パーティ・ドレスを作ってきたがすっかり需要が冷え込んだ。そこで中国高所得者層を狙ったオーダーメイド、ビーズ飾りなど受注を目指している。