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2012年01月15日
■幼稚園送迎車の惨事が生み出したスクールバス改革
2011年11月16日、中国甘粛省慶陽市正寧県で石炭を運ぶトラックと地元の幼稚園送迎車が衝突。運転手と教師の大人2人、幼稚園児19人の計21人が死亡する惨事となった。送迎車はワゴンの座席を取り外したもので、定員9人の車になんと64人が乗り込んでいた。
宇宙ステーションの建設に着手し、空母を保有した中国がスクールバスも買えないのかと中国世論、メディアは一斉に非難の声をあげた。その後も送迎車の事故があると大々的に報道され、中国教育部が「全学校にスクールバスを購入するには4500億元(約6兆円)が必要。無理です」と弁解すると「公務員の飲食費はあってもスクールバスを買う金はないのか」と突っ込まれる騒ぎが続いた。
かくして「庶民に優しいおじいさん」を標榜するムービースター・温家宝首相は、スクールバス安全基準制定を指示。2011年12月27日、「スクールバス安全技術条件」「スクールバス座席システム及び車両固定部品の強度」「幼稚園送迎車安全技術条件」「幼稚園送迎車座席システム及び車両固定部品の強度」という4基準の草案が発表された。
■スクールバスというおいしい獲物
全国の幼稚園、小学校に新基準に合致したスクールバスを配備するとなれば、200万台以上が必要になると見られている。このおいしい獲物を中国バス製造メーカーは虎視眈々と狙っている。上記4基準の草案後、自社がのけ者にされないように各社あれこれ発言を続けている。
特に論争となったのが「大鼻」問題。スクールバスの安全基準は米国のそれを参照しているのだが、映画やドラマにでてくるような典型的な米スクールバスのように、エンジンルームを前部に設置する独特の車体を義務づけるかどうかが議論された。
正面衝突の時に衝撃を吸収して安全という意見もあったが、コストが高くなる、狭い中国の道路では小回りが利かない云々など一部メーカーからは猛反対された。まあ、実際には「大鼻」型の車体を作ったことがないので対応できないメーカーの言い訳なのだろうが。
■せっかく大金を使うのに……残念な対策
最終的に「大鼻」型義務づけは撤回されたもよう。もっともシートは難燃性の素材を使え、消火器は2個以上設置せよ云々といった厳しい制限が課されるようだ。
かなり不思議に思うのが、学校の登下校中の事故は、スクールバスの安全基準が低いから起きたわけではないという点だ。スクールバスがそもそもなかったり、足りないので定員超過してしまったり、はたまた安全無視の荒い運転といったことが要因となっている。
世界一厳格なスクールバス安全基準を制定すれば、なにかをなしとげたような気持ちになれるかもしれないが、重要なのは実際に車を配備し、運転手を確保すること。それに全般的な交通安全意識の向上だろう。せっかく巨額の税金を突っ込むというのに、なんだか非効率かつ非現実的な話になっているのが残念である。
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