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次の4年間で台湾の地位が決まる=習近平が求める「見返り」を馬英九は拒否できない

2012年01月19日

台湾総統選で再選を決めた馬英九。1期目は中台関係を棚上げにして、中国本土との経済関係強化という「果実」を手にする戦術が見事成功したが、その成果で再選を果たした2期目には中国共産党から「見返り」を要求されることは必至だ。


総統府
総統府 / slash__

■民進党の敗因、国民党の勝因

2012年1月14日、台湾総統選が行われた。馬英九総統は得票率51.6%と過半数の票を集め、対抗馬の民進党・蔡英文主席に80万票差をつけ再選を果たした。

民進党の敗戦の理由については福島香織さんのコラム「総統選に見る台湾女性の強さ」が分析している。一方で国民党の勝因については「馬英九総統の中台接近路線が台湾市民に支持された」というのが主流の見方のようだ。

台湾政局について素人同然なのだが、馬英九総統の再選はしごく当然の結果だったと考えている。というのも2008年総統選では「政治を棚上げにして、経済的なおいしいところを中国から引き出そうよ」という公約を掲げていたのであり、その言葉どおりの成果をおさめたからだ。

陳水扁時代から台湾企業の中国本土進出は加速していたが、馬政権でさらに加速し、経済上のさまざまな便宜が図られた。三通(通信、通行、通商)の解放、中国本土観光客の誘致、パンダのレンタル(成果というには馬鹿げた話ではあるが、陳水扁時代には挫折している)、そして両岸経済協力枠組協議(ECFA)の締結……。

今回の総統選について「台湾民主主義が成熟した」という評も聞くが、思うに中国と台湾、国民党と民進党という二項対立的図式から離れて、「ともかく経済(生活)」というモードが確立したのは4年前だったのではなかろうか。個人的にはラーメン大好き蔡英文に肩入れしていたが、公約通りに事を運んできた馬総統の再選は当然だったと考えている。
(関連記事:台湾民進党の蔡英文主席がかわいすぎる件=日本ラーメン店を体験して大喜び―台湾


■馬英九と「九二共識」

よって今回の総統選の結果に驚きはない。驚きがあるとすれば、特に大きなサプライズがなく総統選が粛々と進んだということかもしれないが。むしろ問題は馬政権2期目だろう。総統は再選を果たした、立法院(日本の国会に相当)で国民党は過半数を制しているという状況で、馬政権をサポートしてきた中国共産党が「見返り」を求めるのは必須だからだ。

今回の総統選でキーワードになったのが「九二共識」である(ウィキペディア)。1992年に中国本土側と台湾側が口頭で交わした合意であり、「双方とも「一つの中国」を堅持する」ことを前提に、それ以上の政治交渉を棚上げにするという内容だ。

とはいえ、口頭の合意なので細かいところははっきりしない。李登輝元総統、蔡英文主席など「九二共識」は存在しないという立場をとる人間までいるほど。これに対し、馬英九総統は「合意はあるよ。取り交わした時、ぼくはその場にいたもの」と発言。このラインを守ることで、中国共産党との関係を守る立場を崩していない。

さて、この「九二共識」についてRFI中国語版が興味深い報道をしている。ウィキリークスが暴露した米外交公電によると、シンガポールのリー・クワンユー顧問相(当時)が2009年5月に「九二共識」の内容は胡錦濤時代には統一を議題にしないという条項だったと発言しているという。

放言し放題のリー・クワンユーの発言だけに信じるべきかは難しい問題だが、事実であれば2012年秋の中国本土政権交代、習近平政権の到来によって中台統一は再び政治課題として焦点となる。


■馬英九の真価が問われる2期目

いや、たとえ政治交渉棚上げに期間設定がなかったにせよ、習近平時代になんらかの動きはあるはずだ。 一部、日本メディアは「中台の緊密な関係が続けられるか、馬英九総統の手腕が試される」的なぬるい話を言っているが、 次の4年間、中国本土との政治的交渉をゼロで終わらせられると考えるのは大甘だろう。香港英字紙サウスチャイナモーニングポストもその点を追求した記事を発表している。

上述福島さんの記事でも説明されているとおり、中国共産党は馬英九再選と台湾の経済成長サポートを協力に支援してきた。再選を果たした今、「見返り」を求めるのは当然だ。ポスト馬英九の政局は不透明と考えれば、この4年間になんらかの進展が必要だと考えているはずだ。

昨秋、「再選した馬英九は中国と平和条約を取り交わすかも……」とのネタが広がり、支持率で蔡英文に追い上げられた馬英九は、「総統として中国本土に行くことはない。中国本土と平和条約をかわすつもりもない」と発言したが、その言葉を守れるかどうかが注目される。

まあ一気に統一はないにしても、なんらかの「前進」、なんらかの「見返り」を中国共産党は求め、馬英九政権も応じないわけにはいかないのではないか。習近平政権が全力運転を始める2013年以降が勝負の分かれ目になると見ている。

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